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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レッド・ジャケット

作者: 銀カップ

検索ワードを入力して下さい


“レッド・ジャケット”


検索を開始します。

“レッド・ジャケット”について検索中




───該当記録10件


権限を持たない者が当記録の閲覧した場合、懲罰対象になります。


───該当記録10件


───レポートNo26


───閲覧しますか?(Y/N)









当記録はアルフレッド・マグワイヤー氏のインタビュー記録です。


マグワイヤー氏はアメリカ合衆国■■■州に本社を置く■■■社に所属する記者です。

マグワイヤー氏は1999年11月3日に取材に行く旨を友人に伝えたことを最後に行方がわからなくなり、同年12月に■■■■にて衰弱状態で地元警察に発見されました。


■■■■はアメリカ■■■州■■■■■■郊外にある複合商業施設です。

現在、施設は秘密裏に組織が接収・エージェントにより「老朽化箇所の補修及び改装工事」を名目に封鎖しており、職員以外の立入を禁止しています。

施設への侵入者については発見次第拘束し、Cランク自白剤を使用した尋問を行って目的の特定をしてください。

一般人だった場合は記憶改ざんを行った上で地元警察に通報してください。敵対的組織の関係者だった場合は迅速に処理してください。


発見当時、マグワイヤー氏は地元警察によって拘束されていたところをエージェントに発見・保護されました。

また、マグワイヤー氏は身体的・精神的にある程度は回復しているものの、不定期に事件当時の記憶がフラッシュバックして精神が不安定になることがあります。



以下はマグワイヤー氏のインタビューを書き起こしたものです。


インタビュアー∶“エージェント”フレディ

対象∶アルフレッド・マグワイヤー記者




※インタビュー1開始



───ご協力ありがとうございますマグワイヤーさん。

───最初にあなたはどうして■■■■に行ったのかを教えてくれませんか?




……ああ、俺は取材で■■州の■■■■に行くことになったんだ……。

あの時は……匿名のタレコミがあって■■州の■■■■でとんでもねぇことが起きるって……そんな話がきて……。

……それで……ジョナサンが俺に……俺だって断ったさ……どうせガセネタだろって……なのにいつもタバコ吹かせてばかりの編集長が乗り気で……行かなきゃクビだって……。

……。

……、………。

そうだ……そうだ……あれも……あれも全部……ぜんぶ編集長のせいで……あんな目に……アレが……アレが……。




※マグワイヤー氏の精神状態が徐々に不安定になり始め、ブツブツと独り言を呟き始める。特に自問自答が繰り返され、次第にインタビュアーの問いに対しても反応を示さなくなる。



────マグワイヤーさん?大丈夫ですか?



……そうだ……そうだそうだそうだそうだっ!!クソッ!全部あのクソ編集長のせいだ!

あいつさえ!あいつさえいなければっ!!

こんなっ!こんなこと!!クソッ!クソクソクソッ!!

……!アレが……!アレがいるっ!!?

やっ……やめろっ!来るなっ!!来るんじゃねぇ!!

うわああぁぁぁぁぁ!!!






※マグワイヤー氏は恐慌状態に陥り、インタビューを続けられる状態ではなくなったため、インタビューを一旦中断される。


※インタビュアーの安全確保のため、待機していた警備員によりマグワイヤー氏が拘束され、鎮静剤が投与される。







※インタビュー1終了








※インタビュー2開始


※マグワイヤー氏は本人の同意の上でCランク精神補強薬が投与されました。




───落ち着きましたか?



……ああ、もう大丈夫だ。

すまなかった……まだ混乱してるんだ……あんなもの見ちまったからな……どうしても落ち着かないんだ……。

時々……アレがいるような気がして……。

あんたもアレを見ちまったら俺みたいに……。

……、……いや、そんなことよりも……なぁ……本当に……本当にアレはここにはいないんだよな……?



※マグワイヤー氏は怯えるように周囲を警戒する。



───はい。アレはここにはいません。

───この施設は安全です。



……そうか、安心した。

それが嘘でも……いくらかホッとした。



※マグワイヤー氏は嗚咽を漏らす。インタビューは再び中断し、数十分後に再開される。



───差し支えなければ、先日の話の続きをお願いします。



すまない……。

……そうだな……。

あー、どこまで話したんだったか……?


……そうだ、編集部に匿名のタレコミのメールがあって、ちょうど手が空いてた俺がそのメールの内容を確かめるために■■■■に行くことになったんだ。

……ん?タレコミの内容か?

いや、その話はジョナサンから聞いてたし、編集長からも■■■■に行けって言われただけだから、どんなメールだったかはよくわからねぇ。

俺は編集長は■■■■の場所と変なことが起きる方法だけしか教えてくれなかったんだが、俺に行けって言ってきたくらいだからジョナサンの野郎は知ってそうだな。

あいつはいつも編集長の後ろをくっついてる金魚のフンだからよ。あの日もジョナサンは編集長にベッタリだったからその時にでも聞いたんじゃねぇか?


……ジョナサン・ファレルって奴だ。

……あとはあんたらが勝手に調べてくれ、俺はもうアレには関わりたくねぇ……。



───あの施設で何があったか、教えてくれませんか?


……。

……、………。


※しばし沈黙したあと、マグワイヤー氏は語りだす。



……俺は最初は本当に楽な取材だと思ってたんだ。

どうせいつものガセネタだからいつもみたいに適当にでっち上げて”それ“っぽく書きゃいいやって……。


■■州に着いて、■■■■がある街はまぁなんてことない街って感じだったんだよ。

適当なホテルで一泊して、それなりの飯食って真っ昼間から■■■■に行ったんだ。


■■■■で適当に時間を潰してた。ショッピングモールだから平日でも客はかなりいた。家族連れやらひとりで買い物してる女とか、色んな奴らがいた。

時間になったから俺は編集長に聞いた通り、1階のトイレに行って


※マグワイヤー氏からそこで何を行ったかを説明されました。

組織のエージェントや研究員による検証の結果、これは再現性のある事象であることが判明してため、組織の危機管理手順に従い、記録から抹消されました。


……それを終わらせたら電気が消えたんだ。

いきなりだったから流石にビビったけど、すぐに電気が着いたからたぶん照明が古くなってんのかなって……、その程度の考えだったんだ。

建物自体古くなってるみたいだったからな。


……トイレから出たら、誰もいなくなってたんだ。

……でもおかしいだろ?客はともかく店員までいなくなってるなんて……。

俺はその不気味さに耐えられなくて、とにかく一番近い出口から外に出ようとしたんだ……。




そしたらどうなったと思う……?



※マグワイヤー氏はコップに入っていた水を飲み干す。



俺は何故かエレベーターから出てきたんだよ。

……わかんねぇだろ?1階の出口から外に出たのに、エレベーターの……しかも3階のエレベーターから出たんだぜ?

物理的にあり得ねぇだろ?


とにかく俺は■■■■から出たくて色々試した。

窓から飛び出したら搬入口から地面に叩きつけられたし、非常口は試着室に繋がってた。しかも女の下着売り場のところだぜ?ハハ……。


屋上に行ってみたり、バックヤードの搬送用入口から出ようとしたり。

思いついたことを片っ端から試して、出られそうなところには全部行ったが、どれもこれもぜんぜんダメだった。

スタッフルームにある電話で会社や友人に連絡しようとしたけど、繋がんなかった。


とにかくそうやって外に出ようと色々試した。


食い物は食品売り場にあったからそこから適当に見繕って食ったり、寝る時は家具屋があったからそこのベッドで寝たり。

……■■■■から出られねぇこと以外は快適だったよ。空調はなぜか生きてたしな。

誰もいねぇし、こんな異常事態だ。

多少のことは大目に見てくれるだろ?


……。

……、……。


……閉じ込められてから1週間かそれくらい経った頃に俺はアレを見つけた。

……いや、もしかしたら逆で、アレが俺を見つけたのかもしれねぇ……。



……俺が■■■■から出ようと色々試してた時にふと遠くに何かが動いてるのが見えたんだ。

閉じ込められてから俺以外に動く生き物はいなかった。

だから嬉しかった。俺以外にも誰かがいるってことに喜んだよ。

思わず何の警戒もなく、それに近づいたくらいだったさ……。


それで近づいて……俺は……後悔した……。





※マグワイヤー氏の呼吸が乱れ、身体が震えだす。


───大丈夫ですか?


……ああ、大丈夫……。

まだ大丈夫だ……問題ない……。



遠目には人間に見えたが、近づいてちゃんと見たら……アレは人間っぽい見た目をしてるが、人間じゃねぇのはすぐにわかった……。

アレが人間じゃねぇことに気がついて……とっさに近くにあった店に隠れたけど、その時にドジをしちまって……その拍子に足が引っ掛かっちまって……マネキンがデカい音を立てて倒れた。


「だえか……いいいるんれれれずがぁぁぁ」


マネキンが倒れる音に気がついたアレが俺に呼びかけてきやがった。

呼びかけたって言ったが、人間の言葉に似てるだけで、それは言葉とは全く違った。無感情というか、まるで……無理やり人間の言葉を真似して音を出したような……そんな感じの気味が悪くて不快な音だった……。


アレが近づいてくる足音が聞こえてきて、俺が隠れてる店に入ってきた。アレの足音は……何というか靴で歩く音とは違ってた。カチャカチャ、というか……詳しくはわからねぇが普通の足音とはとにかく違ってた。


店の中を探し始めたアレから俺は息を殺して耐え続けた。


「へんじひてくららら」


……アレは明らかに苛立ってきていた。

アレの呼びかけは相変わらず無感情だったが、俺を探しているような物音は途中から売り物やら棚やらを壊してるような鈍い音に変わってて……手当たり次第に店の中を破壊するような音が響いてきた……。

その音がどんどん……俺が隠れてた場所に近づいてきてた。


もうほんの数メートル先でガシャンってガラスを壊す音が聞こえて……俺はもうダメだって思った……。















そしたら……変なかん高い変な音が聞こえて……アレが何処かに行く足音が聞こえてきた。

腰が抜けて立つのに時間がかかったけど、恐る恐る俺はゆっくりと店の中を見てみた。

店中の棚がひっくり返されてて、品物も散乱して荒れ果ててたけど、アレは居なくなってた。

あのガラスが割れる音の原因を見ると飾られてた香水が割れた音だってわかった。

どうやらアレは音と匂いに敏感みたいで、特に香水の匂いを嫌がってるみたいだった。



それから俺は■■■■を出る方法を探すよりもアレから隠れて逃げるようになった。


アレは俺がいることに気がついてるみたいで、俺を探してるみたいだった。

アレは耳や鼻はいいが、目が悪くてろくに視えねぇみたいで、遠くからだったら俺の方が先にアレを見つけられて逃げることができた。アレの歩き方は……なんというか、動物が無理やり二足歩行をしてるような……フラフラした歩き方で、移動もゆっくりで先にこちらが気づいて動ければ避けられたし、もし近くにいても香水とか匂いが強いものを使って匂いを誤魔化しながら大人しく物陰でジッとしてれば何とかやり過ごせた。



……アレは常に■■■■の中をウロウロして、時々食料品売り場に行って食い物を食い散らかしてた。菓子には興味がねぇのかそれだけは残ってたな。

俺はアレがいない隙に菓子を食って食いつないだ。


アレは朝も昼も関係なく常に彷徨いてたから俺はアレがいつ来るかわからなくて、転々と■■■■を移動してたから仮眠さえできなかった。


とにかく死物狂いで……アレから逃げ続けて、何とかして■■■■から出られそうなところを探し続けた。

あそこで何日過ごしたのか、わかんねぇ。

1週間だったか、1ヶ月だったか、日にちを数えることも、今が朝なのか夜なのか考えられる余裕さえなかった。



……だが、とうとうアレに見つかっちまった。

寝不足が祟って立ち眩みでバランスを崩しちまった拍子に手に持ってた香水のビンを割っちまって、派手に物音を立てちまった。

どうやらアレにも聞こえたらしく、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえてきて、数秒もしたらアレがこっちにやってきた。


俺はその時、初めてアレを真正面から見た……。


アレの頭は人間っぽく見えてたけど近くで見たらまるっきり違ってた……凹凸がなくて鼻の穴もなくて……顔の中心に十字の裂け目があって……今まで顔だと思ってた部分は……まっ平らな壁に書かれた絵みたいなものだった。

……身体は2メートル以上はあって……何かの皮をジャケットみてぇに着てた……中身がデカいのに無理やり着てたからところどころ皮が裂けてて……その裂け目からは黒っぽくて……ツヤツヤした甲羅みたいなのが見えてた……。



アレの顔がゆっくりと俺の顔を近づいてきた……。

アレが吐き出す肉が腐ったような臭いに吐き気がこみ上げてきた。

アレの顔の裂け目がパカッと開いて……アレの中身を見ちまった……。

……あの肉の腐ったような異息と……グチャグチャした虫みてぇなツラ……うぷっ……もう二度と見たくねぇし……思い出したくもねぇのに……思い出しちまう……。

アレの脇あたりから虫みてぇな腕が2本生えてて……その腕で掴まれた……アレの口が大きく開いて……。

俺は……逃げられなかった……掴まれてたからじゃねぇよ……足が動かなくて……指の1本も動かなかったんだ……。

ただ漠然と、これから俺は死ぬんだって……わかった……生臭い液体が滴ってたアレの大きな口が俺の頭を飲み込もうとして……。



























その時、俺の背後から消防オノが飛んできて、アレの腹に突き刺さったんだ。

アレは真っ黒なドロドロした血を噴き出しながら倒れてそのまま地面にのたうち回ってた。


呆然と立ち尽くしてた俺の背後から手が伸びてきて俺を後ろに引いた。

尻もちを着いた俺の後ろからゆっくりとアイツが現れた。


顔はフルフェイスのヘルメットしててわからない……たぶん男だ……背は俺よりも少し高いくらいで……ガタイが良かった……気がする……。

……そうだ、そいつは赤くて……派手なジャケットを着てた。


そいつは一切喋ること無く、持ってた鉄パイプをアレに突き刺しながら消防オノをアレの腹を裂きながら引き抜いた。

あれはまるでスプラッタ映画のワンシーンみたいだったな……。

アレは悲鳴みたいなかん高い音を出してジタバタのたうち回って……アレが立ち上がろうとする度に消防オノを叩きつけて……鉄パイプで突き刺して……うぷっ……。


……何分やってたのかはわからねぇ……。

ずっと……ずっと叩き潰す音と……何かが割れる音が……ずっと……アレが動かなくなるまで続いた……。



アレが動かなくなって……アイツは最後にアレの頭に消防オノを叩きつけると俺の方を振り返った。


アレも怖かったが……そいつはもっと怖かった。 

だってあんな化け物を殺したそいつが俺を見て、化け物の返り血で真っ黒に染まった鉄パイプとオノを持ってるんだぜ?


……次は俺なんだって……そう思った。



……、……。

……たぶん俺はその場で気絶したんだと思う。

記憶がぶっ飛んでて……何もわかんねぇ……。







後はあんたらも知ってる通りだ。

気がついたら病室で拘束されてて、あんたらにここに連れてこられた。


あそこがどこで、アレが何で、アイツが何者なのか、どうやってあそこから戻ってきたのかはまるっきりわからねぇ。



……だけど、もしかしたら真っ赤なジャケットのアイツは俺を助けてくれたのかもしれねぇ。











※インタビュー2終了







第1回調査報告抜粋

主目的∶再現性の実証

実施日∶1999年12月18日

検証の結果、マグワイヤー氏の証言通り、こちらの世界とは異なる空間への移動に成功。

マグワイヤー氏が行った行為は当該空間へ通じるゲートを開くためのものだと推測される。

当該空間は完全にこちら側の世界とは隔絶された独立空間であり、空間の内部にいる人物との通信はおろかGPSによる位置情報の確認は不可能であることから第3異層空間であることが判明。

リヒター式携帯型転移装置を用いれば帰還は可能である。


空間の調査中にマグワイヤー氏がアレと呼称する未確認生物の死体を発見。

回収された死体の解剖の結果、摘出された脳の量から人類よりも高い知能を持つことが予想される。また、マグワイヤー氏の証言から人類に対して強い食性を示していることが消化器に残されていた内容物から判明。

第5種危険指定地球外知的生命体である可能性が指摘されている。



第2回調査報告抜粋

主目的∶当該空間の調査

実施日∶1999年12月23日

当該空間の調査中にスタッフルームで非活性状態の未確認生物の卵が発見・回収される。

移送中に一部の卵から幼体が孵化する事態が発生。

未確認生物の幼体との交戦により、移送を担当していたエージェント3名のうち1名が負傷・1名が死亡する事案が発生。

処理した幼体の危険性により、人類との共存は不可能と判断し、当該生物を第5種危険指定生命体に指定。







※追記1

アルフレッド・マグワイヤー氏について

マグワイヤー氏は検査の結果、肉体的・精神的な重度汚染が確認されなかったため、状態の安定次第、マグワイヤー氏に対して記憶を改ざんを行った上で開放してください。




※追記2

ジョナサン・ファレル氏について

組織が調査した結果、ジョナサン・ファレルという人物は■■■社には在籍した形跡は存在せず、■■■社の社員への聞き取り調査においても一概にその人物についての記憶はなく、「そのような人物は存在しない」と証言がされました。

不正かつ大規模な情報及び記憶の改ざんが行われた可能性があり、現在組織では当該人物が当事件及び未確認生物と深い関連性があると判断し、追加調査が行われています。




※追記3

赤いジャケットの男性について

複数の未確認生物に関連する事件にて、関係者によって目撃・証言されていた集団の存在が確認。

該当人物がその一員であると判断。

彼らが未確認生物について何かしらの情報や異層空間への介入手段を有している可能性は極めて高く、最優先確保対象に指定されました。














■■■








コズミック・バスターズ・オンライン。

通称『コズバ』。

去年の夏に発売されたばかりのゲームで、豊作と名高い今年のB・G・Yベスト・ゲーム・オブ・ザ・イヤー2036では5位と得票差をつけての4位に輝いた良ゲーである。


このゲームの内容はプレイヤーたちは宇宙の開拓者であり、エイリアンやモンスターと言った未確認生命体UMAの討伐や捕獲などの調査を行いながら、各地に存在する古代の超文明が遺したオーパーツを回収するというシンプルなゲームだ。

ソロプレイや仲間とスクワッドを組んでUMAを狩ること以外に、エイリアンや古代文明の技術を解析して新しい武器や装備を作ったりできるなど、遊び方はプレイヤー次第だ。

最も、運営も放任主義というわけでもなく、度を越したプレイヤー狩りをするPK(プレイヤーキラー)には『宇宙海賊』として


それなりにアンチや逆張りインフルエンサー配信者が酷評しているものの、アンチよりも遥かに多いファンによって正当に評価され、有名ゲーム雑誌のコーナーでも最高評価が与えられる。



ゲームの世界にログインした俺はアバターの動きを確認する。

現実の肉体とVRゲームのアバターじゃぜんぜん体格が違うからこうしてアバターの動きを確認するのはVRゲーマーの鉄則だ。


腕を伸ばしたり、屈伸したり、ジャンプして動きの誤差を確認するが、まるで現実の身体のように動くアバターの滑らかさには思わず惚れ惚れしてしまうほどだ。


このゲームでまず何より素晴らしいのは操作性だ。

フルダイブ型のVRゲーが発売されてから10年経って技術が進歩した昨今のゲームでもよく問題になるのが『プレイヤーの思考とアバターの動きのズレ』だ。

プレイヤーの現実の肉体とゲーム内のアバターが違うため、アバターにはどうしても微妙なズレや動きのぎこちなさがでてきてしまう。


しかし、このゲームはその問題を解消するべく、最新技術を詰め込んだ規格外のゲームエンジンを搭載することにより、極めて現実の身体に近しい動きのスムーズさを実現しているのだ。

ファンとしての贔屓もあるが、個人的にも操作性に限っては今年のBGY1位の作品よりも上回ってるとさえ感じる。




「さて、今日も行きますか」


動きの確認を終えた俺はバンカーから外に出る前に装備品を付けていく。

防刃・防弾に優れた真紅のジャケット『愚連の龍羽織』を纏い、頭には対閃光防御に優れたフルフェイスヘルメット『総長の(ヘッド)』を装備する。

メインの武器は一見、ただの鉄パイプにしか見えないくせに『貫通耐性無視』と貫通属性の上位互換である『重・貫通属性』が付与されている凄まじいガチ武器『ブッコミ鉄パイプ』とどんな頑丈な扉でも解錠(物理)できる最強のマスターキー『ファイアー・オノ』の物理系。サブウェポンにはエイリアンのテクノロジーが詰まった大口径アサルトライフル『シータ・フォトンカスタム』だ。

赤いジャケットを着たフルフェイスの不審者、“雷おっと”がこのゲームにおけるアバター()だ。



バンカーから出た俺はエイリアン狩りのクエストを受けるためにプレイヤー人口が多い宇宙船『居住ステーション・プラネット4』の中心街であるセンターエリアの中心にそびえ立つ巨大なタワー、ターミナルに向かう。


既にセンターエリアには俺みたいにクエストの準備をしているプレイヤーたちで混雑しており、ショップやターミナルはここよりも多くのプレイヤーで賑わっているだろう。

今もこうしてプレイヤーが多いが、もう少ししたらチュートリアルを終えた新規プレイヤーたちも合流してさらにかなり混雑することになる。


ターミナルにたどり着いた俺は端末を操作して適当なクエストを物色する。

宇宙の開拓者らしくクエストは様々な惑星に行くことになるため、その惑星に合わせた準備が必要になる。

高重力の星では重力を軽減する装備がいるし、気温が高い星では熱への対策が必須で、そういったアイテムは消耗品がほとんどだ。

場合によっては割に合わないクエストなんかも紛れている。

そのため、無数のクエストから必要な準備と報酬が釣り合っているクエストを中心に選択する。


「バグ型エイリアン1体の討伐とNPCの保護、追加報酬あり……これだな」


いくつか候補をピックアップしてその中から選んだのはバグ型エイリアンの討伐と、NPCを救出するレスキューが合わさった複合クエストだ。


場所は惑星アース0のショッピングモール。

重力制御装置や防寒・耐熱装備が必要な特殊環境ではなく、対する備えが必要ない。

複合クエストなだけあって報酬もいいし、サブクエストのエイリアンの卵を破壊すればさらに追加報酬まで貰える。


クエストを受注した俺はターミナルに設置された転送装置でアース0へと向かう。


転送された俺はさっそく偵察用ドローンを展開してショッピングモール内を探索する。


1階には生体反応なし。

2階に複数の生体反応あり。場所はバックヤードのスタッフルーム。それもギッチリ固まっているところを見るとこれがエイリアンの卵みたいだ。

3階に向かわせるとすぐに生体反応が検知される。どうやらNPCみたいだ。ウロウロと隠れるように辺りを動き回っている。

そして、そこから少し離れたところには別の生体反応。ドローンに搭載されたサーモグラフィーを見る限り、こちらがエイリアンみたいだ。


ガシャン!とガラスのようなものが壊れる音が遠くから聞こえてくる。ドローンを確認するとエイリアンがものすごい速さでNPCに向かっている。


俺はショッピングモール内を疾走する。3階に向かうとはいえ、俺のAGLならものの数秒の距離だ。


ドローンを使ってこのショッピングモールの構造はわかっている。

俺は1階から4階に繋がる吹き抜けを使って一気に3階までショートカット、そのままNPCがいるところまでダッシュで向かう。


進行方向の先に保護対象と思わしきNPCを捕食しようとバグ型エイリアンが大口を開けている姿が見える。


進路上に障害物なし。いける。


「唸れ俺の右腕!斧ブーメラン!!」


俺は走りながら右手に持ってた『ファイアー・オノ』をエイリアンにぶん投げる。


「しゃあ!!クリーンヒット!!!」


TECにもしっかりステータス配分している俺によって、見事にコントロールされたオノはNPCを傷つけること無くの真横を通り過ぎ、エイリアンの腹部にぶっ刺さる。

その衝撃でエイリアンは後ろに吹き飛び、仰向けに倒れながら血液のような真っ黒いエフェクトを散らす。


「え……?あ……?は……?」


混乱して状況を飲み込めていないNPCの肩を掴んで俺の後ろに下げるように引く。

ちょっと力を入れすぎたのかそのままNPCは尻もちを着いてしまうが、特に傷はないみたいだ。 まれに転ばせた拍子に頭を打って死亡してしまう場合もあるのでちょっと安心。


それにしてもNPCがリアルな反応を示してくれるところもこのゲームのいいところのひとつだ。

AIの発展で昔よりもNPCの動きや仕草はリアルになってるが、このゲームのNPCは他のゲームよりも感情的な動きをするし、特に意味のない話を振っても違和感なく会話が成立する。

このように多くのプレイヤーたちに没入感を与えて、しっかりUMAの魔の手からNPCを守りたくさせている。

プレイヤーの中には「所詮はゲームだから」とむしろ積極的にNPCを狙うヤツもいるにはいるが、そういったプレイヤーは少数派で、他のプレイヤーたちからはドン引きされている。



俺は地面で立ち上がろうとしてるエイリアンに向かって『ブッコミ鉄パイプ』を突き刺しながら『ファイアー・オノ』を引き抜く。


「おっと、危ない危ない」


バグ型エイリアン特有の副腕を伸ばして、俺を掴もうとしてくるとは、胸と腹をぶっ刺されてるのにまだまだ元気だな。


『ファイアー・オノ』で両腕と副腕を叩き潰しながら、『ブッコミ鉄パイプ』で弱点の頭、胸、腹を攻撃し続ける。


HPバーがなくなるまで殴り続け、最後に『ファイアー・オノ』でエイリアンの頭を叩き潰しておく事も忘れない。

バグ型の中にはHPバーを偽装する擬死スキル持ちがいて、ここからの逆転負けすることが稀によくある。

しかしそれで騙せるのは初心者だけ。玄人は騙されず、しっかりトドメを刺すものなのだ(100敗済み)。



さて、最後に救出対象のNPCを安全なエリアに送らないとな。


NPCの方を振り返ると、フッと後ろに倒れてしまう。

エイリアンに毒か何か食らってたのかと一瞬だけ焦ったが、どうやら気絶してるだけらしい。


うーむ、今回はこちらか。

自力で歩いてくれたら楽なんだが、気絶するパターンはあまり自由に行動できないから、追加のエイリアンが現れた場合の対処が困る。


展開中のドローンで周囲を警戒しつつ、気絶状態のNPCを担いで指定された救出ポイントまで向かう。


こういう状況だと負傷や気絶した状態のNPCやプレイヤーを担いで運ぶ時にスタミナ消費を抑えながら移動速度を上げる『運搬技術(救護)』をレスキュー関係のスキルが役に立つ。


こういうレスキュー関係のスキルはNPCを目的地まで護衛するクエストではかなり役に立つので持っていて損はないのだ。



どうやら、あのエイリアン以外には敵対MOBがいないのかすんなり安全エリアにNPCを運ぶことができた。


NPCを指定場所に寝かせるとどこかへテレポートされる。

これですべての主目的がすべて達成したことで、俺の身体も消え始める。


これでクエストクリアだ。









……あ、追加報酬の条件達成忘れてた。

まぁいいか。


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