008
翌日。
「叱られますよ、カノーラ嬢」
「森に行かれるなど、とんでもなくことです、姫!」
「さあさあ、冗談はそれ位になさって、ご一緒にマリ遊びをいたしませんこと?」
誰に相談しても、無駄だった。
誰も本気で、アリシアの決心を取り合ってはくれず、誰一人、森への供を申し出てはくれなかった。
そこで彼女は口をつぐみ、一人で計画を練り、それを実行に移した。
午後のお茶の時間の後に設けられている昼寝の時刻、彼女は寝室を抜け出し、厩に忍び込んだ。
「しっ、いい子ね、静かにしていてね」
一頭の栗毛の牝馬を外に連れ出し、慣れない手つきで鞍をつけ、ハミをつけ、馬の背によじ登って、手綱を握りしめた。
騎士や従者の助けなしに、鞍つけからなにから装備をし、自力で馬に乗ったのはこれが初めてだった。
そもそもアリシアは、活発な性質ではなく、乗馬も一応は仕込まれたものの、それほど好きでも得意でもなかった。
養父もさほど熱心には勧めなかった。
女戦士を育てているわけでもなし、と苦笑いをしつつ、もたつくアリシアを目を細めて眺めていた。
それなのに。
自分に、こんな大胆な真似ができるなんて。
アリシアの頬は、ひとりでに緩んだ。
浮き立つような気分の高揚を覚えながら、手綱をどうにか操り、一世一代の冒険に向かって前進を始めた。