003
ノエルタリアは目を覚ました。
爪先が月光に照らされ、桜貝のような爪がきらめいているのを認めた。
「ダンテ……」
視線を爪先から、彼女がすっかり身をまかせて寄りかかっている巨大な、不気味な物体へと移し、低い声で呼びかけてみる。
それは、地鳴りのような呻き声で応えた。
それは、ダンテと呼ばれていた。
そう呼んでいたのは、彼女だけだった。
たまに、それの姿を霊視できる者もいた。
彼らは口を揃えて、それを「怪物」と言い切った。
それをダンテと呼ぶのは、ノエルタリアだけだった。
「ダンテ、夢を見ていたよ……」
ぼんやりとした頭の思いつくまま、とりとめのない言葉をつぶやく。
「わたしは蛇になっていた。白い蛇さ。脱皮するのを手伝ってもらった。手伝ってもらったのに、逃げてきてしまったよ……あの子……」
彼女はまた、うっとりと目を閉じた。
自分でなにを言っているか、わかっていなかった。
ダンテがグルグルと呻く声が子守歌の役を果たし、眠気を促す。
「あの子……森の王子……」
少年が触れてくれた肩のあたりに、そのときの感触を思い出しながら、ダンテの地鳴りにくるまれて、ノエルタリアは次の眠りの世界に、堕ちた。