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禍々しき侵食と囚われの世界【読み切り版】  作者: 悠々
第二章 結界都市陥落編
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第三話 旅立ち



 洞窟での一件から一週間後、一人の女性がユズルの家を訪ねて来た。


「突然お邪魔しちゃってすみません。その、ユズルさんの身体の件なんですが……」


 家を訪ねてきたのは、アルバ村の現村長だった。

 幼き頃によく外の話を聞かせてくれた村長は、数年前に老衰で亡くなった。


「山を超えた先にあるフォーラ村という村をご存知ですか?」

「はい、一応知ってはいます」


 周辺の地理について調べた時に出てきたのを覚えている。


「そのフォーラ村に、魔族による呪術の研究をしている方がいるとの話を前に耳にしたことがあります」

「……本当ですか?」


 そのような話を聞くのは、初めてだった。

 というのも、これまで得た情報はどれも古いものばかりで、新しい情報を得るには各地を旅する移動商人の話を聞くぐらいしか手段がないからである。


「自分の目で確かめたわけではないので確証は無いですが……」


 何年も分からずじまいだった手がかりを得るチャンス、かけてみる価値はある。


「ん、でもなんで今頃になって……」


 もし情報源が移動商人だとするならばいくつかの疑問が残る。

 まず前提として移動商人の訪問は村中の皆が知っている。

 特にユズルはボップ達と出迎えの会に出席していたため記憶によく残っていた。


「確か、最後に移動商人が訪問したのって数ヶ月も前ですよね?」


 移動商人が前に訪れたのは何ヶ月も前のことだった。


「それは、今回の洞窟の件が関わってきます」

「……どういうことですか?」

「私はこの村の村長ですので、当然村の人々の安全を第一に考えています。なので、たとえユズルさんの呪いの手がかりが見つかったとしても、危険な結界の外に……、それもあの事件を経験してるユズルさんを放り出す事はできなかったのです」


 あの事件とは、リアとマコトが殺された日のことを指しているのだろう。


「ユズルさんの背中を押すには結界の外に出ても生きて帰って来れる保証が、結界を出るだけの実力があるのかを見定める必要があったのです」


(そこまで考えて……)


「ですが……」


 村長は顔を上げユズルの目を見る。


「今回の件でユズルさんの背中を押す決心が出来ました。貴方ならきっと隣の村までたどり着けると思います」

「……色々考えてくださってありがとうございます」

「いえいえ……それで、どうしますか?」

「もちろん行かせてもらいます!」


 やっと掴んだ手がかり。

 このチャンスを逃す訳には行かない。

 彼女は頬を緩め、「分かりました」と告げる。


「では、いつ頃出発致しますか?」

「ほんとなら今からでも向かいたいのですが……一応教師の身ですし長期的な休暇は厳しいかと……」

「その事なんですが、ユズルさんが不在の間代わりと言ってはなんですが、私の側近が変わってご指導させていただきます」


 とても助かる提案だが、帰ってきた時に「ユズル先生やだ」とか言われないか少し不安である。


「助かります、それじゃあ……二日後。二日後の昼過ぎに出発しようと思います」


 決してせっかちな性格では無いのだが、やる気を失う前に行動しておきたかったのだ。


「了解しました。では失礼しますね」

「今日はわざわざありがとうございました」


 村長を見送り、部屋の中を見渡す。

 村を出るなんて考えたこともなかった為、何を用意すればいいのか検討がつかない。 

 だが、役に立ちそうなものは手当り次第鞄に突っ込んだ。

 おじいちゃんの剣は今、ユズルの部屋にある。

 暴龍との戦闘後、両親に蔵の剣を持ち出したことを伝えたところ、なんとその剣はおじいちゃんがユズルに残していったものだと話してくれた。


 それは英雄から新時代の英雄への贈り物だった。



 二日後、村の広場ではユズルの旅立ちを見送る人達の姿があった。


「せんせー!気をつけてね!」

「ユズルさん、どうかご無事で」

「ユズル、生きて帰ってこいよ」


 教え子たちや、護衛部隊の皆、そして師匠のボップから旅立ちの言葉を贈られる。

 とそこに、村長が一人の少女を連れてきた。


「ユズルさん、旅に彼女を連れて行ってください」


 見た目は14歳前後だろうか。

 小柄で可愛らしい少女だった。

 肩にかかった金色の髪が、風に揺れて美しく光る。


「彼女は私の元で働いている回復術師です。きっと旅の道中助けになってくれると思いますよ」

「ありがとうございます。心強いですね」

「……初めまして、ユリカです。よろしくお願いします」


 ユズルは彼女の顔を見て驚く。

 彼女の目の色が左右非対称だったからだ。


「ユズルだ、よろしく」


 ユズルは彼女の前に手を差し出す。

 彼女は少し驚いた様子でユズルの手を見つめた後、その手を軽く握った。


「それじゃあ行ってくる!」


 村のみんなに手を振り、結界を出る。

 

 ユズルとユリカの世界を救う物語が、今始まった──。



 結界を出て早三時間、未だ沈黙が続いていた。


(き、気まずい……)


 ユズルは出発してから時折彼女に話しかけているのだが、「はい」とか「そうですね」など素っ気なく返されるため、会話が続かない。

 と、ユズルは出発前に気になっていたことを口にする。


「その目は生まれつきなのか?」


 ユリカの目は左右で色が違く、いわゆるオッドアイというものだった。


「……私は生まれつき左目が機能していません。なのでこの目は義眼。正確には千里眼です」

「千里眼?」

「はい。限度はありますが、私を軸にして一定距離間なら鮮明に見ることができます」

「すごいなそれ……」

「魔力を消費するので、常に使えるわけではないのですが」 


 やっと彼女からちゃんとした回答が帰ってきて安堵する。

 ……相変わらず表情は硬いままだが。

 そうこうしているうちに、ついに山頂が見えてきた。


「おぉぉ」

「……」


 山頂からは向こう側の景色が広がっていた。

 初めて見る景色にユズルは興奮する。

 ……しかし結界の外には安息など存在しない。


「……ユズルさん、魔獣が近づいてきています」

「……どっちからだ?」


 恐らく彼女の千里眼になにか写ったのだろう。


「南西方向に一体、その木の影にいます」


 次の瞬間、ユリカの言う通り少し離れたところに立っていた木の影から魔獣が顔を出す。

 既にこちらに気づいており、目が合うなりものすごい速さで襲いかかってきた。


「グァァァァアアアア!」

「──っ!!」


 ユリカには少し離れたところで待機しているようにいい、ユズルは魔獣の前へと出る。


大熊(デスベアー)か」


 大熊は名前の通り、熊の形をした魔獣だ。

 主に山や森に生息しており、頻出度は高めで討伐難易度も低い。

 とは言っても決して油断できる相手ではない。


(確か大熊は喉仏の位置に核があったはずだ)


「グァアァァァァァァ!」


 大熊の爪がユズル目掛けて振り下ろされる。


「一つ一つの動きが大きいん、だよ!」


 振り下ろされた腕を踏み台にして飛び、剣をふりかぶる。


「ローレンス式抜刀術 弐の型、旋風!」


 風のように素早い剣技が、大熊の核を破壊した。

 とその時、後ろで待機していたユリカが悲鳴をあげる。


「きゃあああぁぁぁ!!!」 


 振り返った先には、今にもユリカに襲い掛かろうとする大熊の姿があった。


「っ!間に合え!」 


 ユズルは強く地面を蹴りユリカの前へ出る。

 そして、


「グアァァァァァ!!!」

「──壱の型、煌龍!」 

 

 大熊の首から血飛沫が上がり、目の前が赤く染る。

 だが、それは大熊の返り血ではなく──、


「ユズルさん!」

「あ……」 


 体から力が抜け、その場に倒れ込む。

 薄れる意識の中で、微かにユズルの名を呼ぶ声が聞こえる。


(嘘……だろ?……こんな所で……)


 その日ユズルが目を覚ますことは無かった。



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