プロローグ
プロローグ
「その体で、まだ戦うのか」
崩壊してゆく魔王城の一室。
魔王アーリマンを前にして、英雄は剣を構える。
「俺が引く訳にはいかないんだ……」
ここに来るまでに、たくさんの仲間を失った。
それは今日に始まったことじゃない、この戦争が始まってから犠牲は毎日絶えない。
体の内部がやられたのか、息を吸う度、肺に痛みが走る。
「この私に一撃を与えたのだ。お前は十分よくやったと思うが?」
悪意の感じない声調が、その余裕を感じさせる話し方が、彼の感情をより一層揺さぶった。
「名をなんという?」
「……ローレンス」
たとえトドメはさせなくとも、後に続く者のためにローレンスは剣を握り直す。
「お前を殺す、英雄の名だ!」
──745年、20年以上に渡る生存戦争で人類は敗北した。
敗北した人類は領土の大半を失い、魔王アーリマンによって地に放たれた魔獣は、人類、及び多くの種族の住み家を奪っていった。
しかし彼等は絶滅するほど弱くはなかった。
人類は生き残るために結界を張り、散り散りになりながらも生き延びたのだ。
かつて魔王アーリマンはこう告げた。
「絶望から解放されたければ、この我を倒してみよ」
魔王の一言に、数々の戦士達が奮起した。
だが、生きて帰ってくる者が現れることはなかった。
……たった一人の例外を除いて。
彼は魔王と対峙し唯一生き残った人物であり、初めて魔王に一撃を入れた男でもあった。
言い換えれば、たった一撃しか当てられなかったともとれるだろう。
魔王を倒すのに、果たしてどれほどの月日がかかるのか。
だが人々は歓喜した。誰もが彼を英雄と呼んだ。
今まで皆の共通認識であった「魔王に攻撃は効かない」を払拭し、人類を希望の光で照らしたのだった。
皆、彼がこの戦いを勝利に導いてくれるのでは無いかと期待していた。
……しかし、それはかなわなかった。
彼は魔王戦で後遺症を負い、再び戦場に立つことはなかった。
後に彼は、愛剣「シュバルツ」と共に行方を晦ますことになる。
シュバルツの放つ一閃は暗黒の時代を照らす一筋の光となった。
生存戦争から40年の時を超え、人類史に残る新たな物語が始まろうとしていた──。