そういうの良くないと思います
「は……? 願い事……?」
廊下ですれ違う住人もいる最中、廊下で立っている拓海に向けて、私は思わずそう漏らした。
「そう、願い事。なんでもいいって言っただろ?」
土曜の午前、呼び出し音と共に現れた拓海はそう言うと、玄関の扉を開けていた私に近づいて圧力をかける。
「え!? ちょっと!? なんでうちに入ろうとしてるわけ!?」
「なんでだよ? なんでもいいって言っただろ?」
「そうだけど、まず要件! 急に言われても無理だから! 私まだパジャマなんだけど!」
「関係ねーよ、そんなの」
「いや、あるでしょ!?」
強引に入ろうとする拓海をなんとか踏み止まらせると、次第に抵抗を弱めていった。
「……悪い、ちょっと冷静さを欠いていた」
「でしょうね」
拓海の落ち着いた雰囲気になった頃合いを見て、私が問いかける。
「で、要件ってなに? あ、言っとくけど変な要求は呑まないからね」
「そんなんじゃねーよ……今日って一日中平気?」
「一日中? まあ、別に予定はないけど」
そこまで言うと、突然拓海が左手を掴んできた。動揺して変な声が出そうになったが、寸前で堪える。
「良かったぁ~~~。ちょっと頼みたいことがあってさー」
「ちょっと……その前に、手、離して……」
「莉乃にしか頼めないんだよ。お願い!」
「いや、だから、手を」
「聞いてくれるんだろ!? 直前で止めないって言ったじゃん!」
「手離してって言ってるでしょ!!」
叫んだらようやく手を離してくれた。が、廊下に私の声が響き渡ってしまう。
「……取り敢えず入って。近所迷惑だから」
「いや、莉乃のせいだろ?」
「な―――……!」
いや待て、逸るな。落ち着け。焦らず対処する。
「……うん、落ち着いた。で、頼みたいことって?」
「ああ、実は付き合ってほしくて」
「………………え?」
今、なんて言ったの……
「? 梨乃? おーい?」
「――――! え、なに!? 別に浮ついてなんていませんけど!?」
「ちょっと落ち着いてくれよ。教えてほしい所があるだけなんだよ」
「なら初めからそう言えばいいでしょぉ……!? なんで思わせ振るのかなぁ……!?」
「えぇ……? 怖い……」
なんやかんやで、拓海の部屋で勉強会をすることに決まった。
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