莉乃って人気者なんだよな
5限の体育、男子はバスケ。ということで俺は体育館にいた。
「凌馬ー! さっさとパス出せよー! かっこつけても女子見てねーから!」
コート内では、俺が所属しているA組とその相手であるB組が試合をしている。今はこちらがリードしているみたいだが、正直どうでもいい。
男子はA組からC組までが合同で体育の授業を受けるため、手狭な体育館はかなり熱気が籠っている。だから俺は体育館の隅に座り、室内のむさ苦しい空気から避難していた。
「(早く終わんないかな……)」
ああいった娯楽を楽しめるのは一部の生徒のみ。クラスの中心的な生徒だったり、運動部に所属している生徒といった、いわば陽キャに属する者たちだ。
陽キャたちは既に雰囲気から陽キャ感を醸し出しているから、根本的に俺とは住む世界が違うのだろう。
「なあ、昨日のやつ観た? 共感する人続出の恋愛ドラマ、今話題なんだぜ?」
「ああ、『永久不滅のリボ払い ~今更泣き喚いてももう遅い~』だっけ? 闇金業者のヒロインと顧客の主人公の二人が繰り広げる胸キュンラブストーリー。見てるこっちもハラハラするよ」
もちろんそうではない人たちもいる。声のする方を振り向くと、胡坐をかいて雑談に興じている生徒らがいた。
他の人達も皆クラスの友人や同じ部活動の仲間で徒党を組み、それぞれ暇をつぶしている。
「はぁ……」
そんな中、俺は例外。皆と同じように友達と群れるわけでもなく、ただただ体育館の隅に陣取るのみ。居心地の悪さを感じていた。
「(なんでこんな目に会ってんだか……)」
家族や知り合いと話す時はなんともないのに、いざ他人と話そうとすると緊張してしまう。
そのせいでクラスに馴染めず、次第にグループが固まっていき、気づけばヒエラルキーの最下層。ボッチの完成だ。
「なあ……あれってA組の姫金さんじゃね? やっぱ可愛いよなー、お嬢様学校に通ってましたって言われても驚かないわー」
「分かる。お淑やかな雰囲気があるもんな、姫金さん。あ、でもこの前初めて話した時思わずビックリしたんだよ、外見とのギャップがあってさ。あの人意外と気さくなんだな」
それに対して莉乃は人気者。クラスの内外問わず注目を集め、今では莉乃を知らない人を見つける方が大変なほどだ。
「(確かに莉乃は可愛いもんな……)」
モデルみたいに整った容姿、男女分け隔てない性格、これで人気が出ないわけがない。
「俺もイメチェンして姫金さんみたいなボブヘアにしよっかなー?」
「いや、なんでだよ。お前そもそも坊主頭じゃねえか。イジろうにもイジる髪がねえじゃん」
相変わらず姫金さんトークに夢中になっている二人。その隣で俺はずっと耳を傾けていた。
幼馴染という関係上、時折こういう輩が現れるのは経験則。莉乃を褒めるような内容が大抵を占めるため、聞いている側としても嬉しくなってしまう。
愉悦というよりも、身内びいきという言葉が適当だ。
しかし、時にはそうでない場合もある。
「……でもさ、やっぱデカくね? 走ってる姿見ると余計に思うわ」
「まあ……揺れてるもんな。周りと比べても結構分かりやすいし」
なんと言ってもやはり男子高校生、そういった話題には敏感だ。
「(…………)」
自分だけは例外だと言うつもりはない。人並みには関心があると思う。
でも、よく知っている人がこう言った話題の種になるのは素直に喜べなかった。
場所を変えよう、そう思い立ち上がろうとした。
「……下世話だな」
ボソッと呟かれた言葉。俺は思わず「え」と声に出して反応してしまった。
振り向くとおっとりとした雰囲気の男子生徒。確か教室で顔を合わせたことがある。
「「あ」」
目が合い、互いに声を上げる。
「…………」
緊張で身体が強張り、全く言葉が出てこない。目を逸らせずに、時間だけが経っていく。
けど、不思議と焦燥感はなかった。
理由は分からないけど、彼に親近感を覚えてしまった。
「……あ、あのさ」
だからか、俺はその生徒に気になったことを質問をした。
「なんで……下世話だって言ったの……?」
「え? なんでって……」
その生徒は少し慌てた様子で口をパクパクとさせたが、次第に落ち着きを取り戻し、こう言った。
「……姫金さんが聞いたら嫌だろうなって思った、から」
「――――……!」
その言葉を聞いた瞬間、全身が雷に当たったような衝撃を受けた。
そして俺は直感的に確信する。
この人なら友達になれるかも、と。
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