友達100人できるかな
「……よし、決めた!」
登校途中、隣を歩いていた莉乃が突然声を上げた。
「決めたって……急にどうしたの」
そう言うと、莉乃はニマニマこちらを覗くように見てくる。
嫌な予感がしたが、俺は取り敢えず聞くことにした。
「ちょっと気になってたんだけどさ、やっぱり友達は作るべきだよ。拓海って友達がいないから、他人の気持ちを推し量れないんだよ。分かる?」
「……いきなり辛辣だね」
人が気にしているというのに、莉乃は躊躇なく踏みにじってきた。
「(でも……友達を作る、か……)」
人と話すのが苦手で、今に至るまで友達というものに縁がなかった俺がいきなり友達を作るのは至難の業だ。
自分から声をかけるのが苦手。話せたとしても、緊張して言葉が出てこない。
だったら、一人で過ごした方がマシだといえる。
「というか、なんで急にそんなことを? 『え、きみって友達いないの?独りぼっちなの?』とか言って俺にマウント取ってくる側だったのに」
「いや、そこまで酷いことは言ってないし」
「いーや、言ったね。結構傷ついたから、これでもかってくらい滅茶苦茶覚えてる」
「めっちゃ誇張するね……」
友達がいないからと言って、事ある毎にマウントを取って笑いの種にする莉乃。これまでに何度揶揄われたかなんて数え切れない。
しかし以前と打って変わり、友達を作ろうという莉乃の提案。どうしても勘ぐってしまう。
「……別にいいでしょ、拓海のために言ってんだから。全く……」
ぶっきらぼうにそう言うと、「少しは自覚してよ」と最後に付け加える莉乃。
面倒そうにため息をついているが、横顔からは緩んだ口元が見え隠れする。
何か別の意図があるように感じられた。
「…………分かった」
でも、俺はその提案を了承した。
「え、いいの? 随分あっさり頷いたけど……」
都合よく頷いた俺に対して、莉乃は困惑している様子だった。でも、俺にもメリットはしっかりとある。
まだ高校生だからと胡坐をかいたままズルズルと時間が経ってしまえば、俺は卒業までに友達ができない。それどころか大学生、その先の社会人になっても、共に語らう相手が永久にいないかもしれない。
正直、誰かの手を借りるのは情けない。今後一生、莉乃に頭が上がらなくなると思う。
それでも、誰かの助けがないと動けない俺だから、立ち上がれる機会はもう今しかない。それほどに危機感が上回っていた。
「ああ、やってやるよ……! ……というか、いい加減マウント取られるのに飽き飽きしてたんだよね。だからさ、ここらで少しは汚名返上したいんだよ」
「汚名返上て、そこまでの悪行を……?」
なんと言われようとも、既に覚悟は決めた。あとは実践するのみ。
何度も頭の中でシミュレーションしてきたことが、今、役立つ時が来たのだ。
「もうこれまでの俺じゃない、華々しい高校デビューを飾ってやる……!」
「……もう5月なのに? 結構遅くない?」
「ぐっ……うるさいな……」
冷静なツッコミをする莉乃だった。
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