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リノンさんは恋愛上手  作者: そらどり
勉強会編
10/25

勉強する気ありますか

「はいこれ、言われてたノート。ちゃんと持ってきたよ」


間を置いた後、莉乃は勉強道具を一式揃えて俺の部屋にやって来た。


手渡されたノートを受け取り、お礼を言う。


「別に渡しただけだし……というか、なんでノート捨てちゃったの? 英語はノート提出があるって先生言ってたでしょ?」


「うるさいなぁ。ちょっとうっかりしてたんだよ。だからこうして写させてもらうんだろ?」


テスト期間に入って初めての週末、勉強が嫌になった俺は唐突に勉強机の整理を始めた。最初は単なる模様替え程度だったが、次第にエスカレートして今度は本棚の整理に取り掛かることに。


普段はしない書物の処分まで初め、最後には部屋全体の掃除。完全に勉強そっちのけだ。


そして全てを終えた時にはすでに遅し。数日経った今日、間違えて大事なノートを捨ててしまったことに気がついた。


「まあ、確かに綺麗になったよね。前は取っ散らかってたのに」


「あんまりいじるなよ? ちょっとでもズレたら面倒だからな」


本棚の前でじろじろ観察する莉乃に釘を刺しておく。


「あ、すごい、ちゃんとジャンル分けまでされてる……って、え? これ50音順になってない?  

 しかも出版社まで揃えられてる? え、怖……」


「あああ――――もううるさいな! どうしようが別にいいだろ!? 俺の自由なんだからさぁ!?」


「でも……こんなことしてて考査乗り切る余裕あるの? 大丈夫? 高校初めてのテストが赤点だったら叔母さんに怒られない?」


「ぐっ、正論を……」


でも、ごもっともだった。流石にこれは俺が不利、大人しく引き下がる。


「……あれ? でも、この本棚ってこんな木目調だったっけ? ……って、えぇ嘘!? これリメイクシートじゃない!? まさか……全部張り替えたの!? テスト前なのに!? えぇ!? なに本気でリフォームしてるわけ!?」


「分かったからもう止めてくれよぉ! アンティーク調にしたかっただけなんだよぉ! 悪いかよぉ……!?」


引き下がっても、莉乃の正論は止まらなかった。結局どちらでも俺が不利だった。


「(でも、ノート借りてる手前、何も言えない……)」


願い事とは言え限度はある。勉強を教えてもらう以上、莉乃の方が立場は上だ。


「さてと、そろそろ私も勉強しますかね」


満足したのか、そう言いながら折り畳み式の横長テーブルに手をつく莉乃。布袋から筆箱とノートを取り出す。


「……莉乃、一つ訊いてもいい?」


「ん? 読めないところでもあった?」


「いや、字は綺麗なんだけどさ……その……」


「? なに?」


「……あのさ、ちょっと近くない?」


莉乃は真正面ではなく、わざわざ隣に座っていた。それも手が触れそうな距離で。


「え、そう? 気のせいじゃない?」


「そんなわけないだろ。ほら、シャーペンが当たってんだよ」


俺は左利き。対して莉乃は右利き。座る位置的にかなり邪魔だった。


「いいじゃん。こっち側に座った方が教える時に楽だし」


「そうだけどさ……、今は写すのが先だし」


「じゃあ教えてあげない」


「……分かったよ。今日だけな」


そう言うと、莉乃は「やった」と笑みをこぼす。嫌がらせが目的なのか。


「(なら、とっとと終わらせよう)」


ペンを動かし、莉乃の英語ノートを模写していく。本当ならコピーした方が楽だが、それがバレたら莉乃も連帯責任だ。それは避けたい。


「……………………」


無言でペンを走らせる。理解は模写し終えてから。今はとにかく提出課題を優先させる。


「…………莉乃」


でも、俺は気になって手を止める。莉乃はなんで名前を呼ばれたのか分かっていないようだった。


「どしたの」


「どしたの、じゃないよ。見られてると気が散るんだよ」


「お構いなく、どうぞ続けて」


「いや、構うだろ……別にノート破いたりなんてしないって。ちゃんと綺麗なまま返すから心配するなよ」


「……だよね」


「? まあ、分かってんだったら自分の勉強でもしててくれ」


そう忠告すると、莉乃はようやくノートを広げ始める。相変わらず読みやすい字で作られたノートは莉乃の性格を映し出しているようだった。そのままペンを手に取り、いざ勉強を――――


と、そこまでで手を止め、莉乃はまたこちらを見てきた。


「さっきからなんだよ。俺の邪魔する余裕あんのかよ?」


「まあ、拓海に比べたら、ね」


「……もう無視するからな」


これ以上は構っていられない。貴重な時間を無駄にするわけにはいかなかった。


「(まだ見てくるよ……)」


それのなにが楽しいんだか、本当にいい性格している。


でも、ここまでしつこいのは珍しい。恨みを買ったつもりはないんだけど。


まだまだ莉乃の知らないところがあったのだと思いながら、俺は黙々と作業して午前を消化していった。

いつもご愛読ありがとうございます。

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