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第15話 魔法の訓練

 ローザたちが階下に降りる頃には、料理の工程は半分ほどが終わっていた。


「何手伝うー?」


 キャサリンがまっさきに調理場へ飛び込んでいく。リリィもそれに続く。

 ローザはおとなしく隅っこで皿を数えているダンの元へ駆け寄った。


「……ジョセフはすっかり調理場で輝いてるわね」


 どこかすねたようにローザはつぶやいた。


「ジョセフは元々料理してたんだろう?」


 ダンはそう尋ねてやる。


「……ええ、いついかなるときも生き延びられるようジョセフは教育されていますから」


 正しくはローザ姫を生き延びさせられるように、なのだろう。皿を磨きながらダンは思う。


「まあ、あれだ、それぞれ得意不得意があるのが人間だし、それを助け合うのが騎士団ってもんだろう」

「知った風な口をききますわね」

「……ま、まあな! ほら、俺は西の国境出身だから騎士団への憧れは強いんだよ!」

「だったら、やっぱりダンもダニエル騎士団長のことを尊敬している?」

「……どう、だろう」


 ダンは複雑に笑った。


「会ったことのない英雄より、身近な配給をしてくれた騎士たちの方が……俺は……」

「そうね、戦場に近かったなら、そうもなるのかしら……」


 ローザはダンの顔に確かな寂しさを見た。

 その表情は真に迫っているように見えた。やはり他国のスパイではないのだろうか。

 いいや、この話が他国の兵士の話をそれっぽく話している可能性だってある。

 ローザは気を引き締める。

 二人は黙々と皿を拭き続けた。


 翌日、朝。

 今日は魔法の訓練だった。

 試験の時にも使った布袋を、今日は自分たちで立てる。今日の買い出しにはパン屋の息子のアベル他三名が向かっていて、今はいない。


 魔法の訓練場と剣技の訓練場は試験会場と同じだった。

 ハロルド教官が何やらメモ書きを見ながら声を張り上げる。

 後ろには魔法騎士のローブを着た数名が控えている。


「えー、魔力量別に並んでもらう。名前を呼ばれた順に来い」


 ダンはホッと一息つく。ダンの魔力量は別にそう多いわけではない。この間の試験のように派手に魔法を使わなければどうとでもなりそうだった。


「さて、魔法とは、知っている者もいるだろうが、魔力量だけがすべてではない。いかに使いこなせているかは、魔法技量にも左右される。故に教えづらい科目ではある。魔力量でくくるのも、魔法技量でくくるのも、均一にはならないからだ」


 そうダンが高いのは魔法技量の方だ。

 魔力量は持って生まれた値からそう大きく増減しないが、魔法技量は磨けば磨くほど高まる。

 また、魔法属性にも多少の向き不向きがある。

 このみっつを合わせて魔法能力と総称している。


「よって魔法の訓練は魔力量別と魔法技量別、どちらにも分けて行う午前は魔力量別、午後はそれを見て魔法技量別だ。それでは名前を読み上げる!」


 ダンは中間くらい、ローザは上位に、ジョセフは中の上に配置された。ダンはそこでリリィと一緒になった。


「またいっしょだ」


 リリィが少し嬉しそうに笑いかけてくる。


「おお、リリィは魔法技量は高いよな」


 魔法試験のときに木で的をがんじがらめにしていたリリィを思い出す。


「実家が田舎だって言ったじゃない? 遊びが魔法くらいしかなくて……気付いたらあんだけなってて……これなら騎士になれるんじゃないかって。ほら、騎士団長補佐の女性騎士も魔法がすごいって噂だし」

「あ、ああ、そうだな、有名だよな」


 もちろんそれはアリアのことである。アリアはテラメリタ王国屈指の魔法使いだ。

 単純な魔法能力ならダンすらも凌駕する。

 もっとも正面から戦えば、体捌きも加味されるのでダンが勝るのだが。


「……ダンの試験の時の炎魔法、すごかったね」


 リリィがどこか探るような表情になる。


「あ、い、いやあ、すごかったな!! あんなの初めてでビックリした!」

「ふーん? ま、いいか。どっちにしてもこれから学んでいけばいいんだしね」


 魔法の暴発自体は珍しいことでもない。リリィはすんなりうなずいてくれた。


「そうそうそうそう!」


 ダンは激しくうなずいた。


「よし、始めるぞ。まずはローザ!」

「はぃ!?」


 ローザの返事は裏返った。


「お前の魔力量は試験時の計測の結果、訓練生の中でも二番目だ」

「……一番目は?」

「今は買い出しに行っている。お前が試験の時に第三小節詠唱でもあの程度だったのは魔法技量を一切磨いていないからだ。……魔法で遊んだことは?」

「あ、ありません……わたくしは箱入り娘でして……」


 何しろローザはお姫様である。魔法など使えなくとも困りはしない。

 必要な場面では周りが使って助けてくれる。

 魔法で遊ぶのは木登りのようなもので、危ないと忌避されることも多い。


「魔法技量は魔法を使えば使うほど磨かれていく。お前の魔力量なら、いつか大魔法を使えるようになるはずだ。まずは今日は魔力切れを気にせずに第五小節詠唱で魔法を打ってみろ。属性は好きなやつでいい」

「は、はい!」


 ローザは緊張に満ちた顔で、三十メートル向こうの的に向かって手をかざした。

 魔法は基本的には四属性、五詠唱に分類される。火、水、風、土の魔法を、一から五の小節で唱えることで、発動する。


「……ふう」


 大きなため息、そしてローザは魔法を唱えた。


「四大精霊よ、目覚めたまえ。水の精よ、我に力を。冷やし、押し流せ。対象を、濡らせ。魔力解放、全開放出!」


 手の平サイズの水がローザの手から噴出する。

 ローザはその勢いに押されて後ろ向きに倒れ、自然と手が上向き、水が上空へと撒き散らかされた。


「おおお!?」

「きゃっ!」

「わああ」


 悲鳴があちこちから上がる。


「も、申し訳ありません……」


 ローザは座り込んだまま、落ち込んだ様子でうつむいた。

 魔力を全力で放出したせいで立ち上がる力も残っていなそうだった。

 ジョセフが慌てて駆け寄り、ローザを立ち上がらせる。


「…………」


 しょんぼりした顔で訓練場の脇に退場するローザをダンとハロルド教官はじっと眺めていた。

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