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第14話 馬の訓練

 昼食を終えると、馬の訓練であった。食堂からハロルド教官の先導で厩舎へと向かう。


「馬の扱いの経験があるものとないものに別れろ!」


 ローザとダン、他にも数人が経験のある人間側に混じった。

 ジョセフも経験のない人間の一人で、ローザと離れることを残念そうにしていた。


「よし、まずは経験のあるものが馬でコースを一周しろ。それを見てまだ不足だと判断したら馬の経験のないものに合流させる!」


 厩舎の横には障害物の設置された乗馬の訓練場があった。厩舎から数頭の馬が引き出される。


「まずはローザ!」


 ハロルド教官が最初に選んだのはもうその才覚を十分に見たであろうローザだった。


「はい!」


 ローザが自信満々に馬に乗る。


「よろしくね」


 馬に柔らかく声をかけ、ローザが馬の腹を優しく足で押すと、馬は堂々と歩き出した。コースを進むにつれ、どんどんと馬のスピードが増す。そして障害物をジャンプや迂回で通り抜けていく。


「ハイドウ!」

「うん、やっぱりいいな」


 ローザの威勢の良い声に、ハロルド教官は満足げにうなずいた。

 ダンもひっそりとうなずく。

 さすがはテラメリタの姫君、馬と一体化しているかのような騎乗っぷりであった。


 わあわあとリリィとキャサリンから歓声が上がった。

 ローザがコースの周回を終えて戻ってくる。その顔は彼女が騎士団の試験を受けてから、初めてと言ってもいいくらいに晴れ晴れしい顔だった。


 ダンもそつなく馬の試験をこなし、乗馬の指南はダンたちも教師側に立つことになった。


「ローザ様!」


 すばやくジョセフがローザに近付く。


「乗馬を教えてください!」

「え、ええ……」


 ジョセフの勢いにローザは少し苦笑いをした。


「ほら、怖がってはいけません。馬は繊細なのです。あなたが怖がっていては、馬も怖がってしまいますわ」

「は、はい……!」

「まだ声が震えています。まずは深呼吸なさいな」


 ローザがジョセフに指導してるのを横目にダンは頭を抱えていた。


「…………すまん」


 ダンの横でフレッドが気まずそうな顔をする。


「謝ることはないけど……」


 馬は二メートルの長身のフレッドでも乗せられるだけの力はある。しかしながら、フレッドの醸し出す威圧感に馬が逃げていってしまう。まず彼らは馬探しから難航していた。


「……ハロルド教官ー」

「なんだ」


 数人にまとめて指導を行っていたハロルド教官が厳しく答える。


「……フレッドが乗れるような肝の据わった馬いないですか?」

「ここにはいない……いるとしたウィーヴァー隊に……いや、もうウィーヴァー隊ではないのか、めんどうだな……」

「んー」


 さっきの今で借りに行く、というわけにもいかなそうである。


(王宮騎士団の訓練された馬なら問題はないんだけどな……)


 ダンは心中ぼやく。結局、この時間、皆が乗馬の訓練をするのをフレッドはただ眺めて過ごした。




 一方、ジョセフ少年は馬に何とか跨がり、歩き出せるようになっていた。


「の、乗れた! 乗れました!!」

「こら、大声を出したら……!」


 ジョセフの大声に驚いた馬が少年を振り落とす。


「ぎゃー!」

「もう……」


 ローザはため息をついた。


 他の訓練生も似たり寄ったりだった。途中で振り落とされる者、そもそも乗るのに足腰が震えてどうにもならない者、馬にいきなり噛みつかれる者……。

 そもそもフレッドなどスタートラインにも立てていない。前途が思いやられた。


「……くっ、テラメリタの民ともあろうものがここまで馬を乗りこなせないだなんて……!」


 馬は建国の立役者だ。王家の人間として思うところがあるのだろう。ローザは拳を握り締めた。


「ごめんなさい……」


 泥だらけになってジョセフがうつむく。他の経験のない訓練生も訓練場のあちらこちらで泥にまみれていた。


「よし! 本日の乗馬訓練はここまで! 夕食の準備前に水を浴びてこい!」

「はい!」


 馬の訓練は中途半端なまま、解散となった。




 男性陣は井戸に集まって冷水を頭から浴びる。訓練生寮には入浴施設もあるが、寒い時期にならないと開放されない。この春の暖かさでは開放してもらえないだろう。

 女性陣は手足だけを拭いていた。


「水の入ったバケツ、屋根裏部屋まで運ぼうか? 体も拭きたいだろう?」


 フレッドがそう声をかける。


「あら、紳士」

「お言葉に甘えちゃう?」


 リリィとキャサリンが楽しそうに笑う。


「お願いいたします」


 ローザが折り目正しく頭を下げた。王宮では毎日湯浴みをしているだろうに、これに耐えるとはなかなかに忍耐力のあるお姫様だと、ダンは感心した。


「あ、じゃあ、僕も……」


 ジョセフが彼女らに近寄る。


「いや、お前の体格じゃバケツ持つのも大変だろ、それにお前には夕食の準備の方に取りかかってほしいしな」

「うう……いや、フレッドさんだって調理の即戦力ですよ!」


 ジョセフの反論にフレッドは納得する。


「あー……それはそうだけど……よし、ダン、バケツ頼んだ」

「……頼まれた」


 今朝の調理場での惨事を思い出し、ダンは素直にバケツを持ち上げた。




「ありがとうございます、ダン」

「どういたしまして、使い終わったバケツは廊下に出しといてくれ、夕食後に取りに来る」

「はい」


 ダンがバケツを置いて階下に去って行く。


「いやあ、助かるね」

「優しいよね、フレッドもダンも……ジョセフくんはローザちゃんのためだろうけど」


 そう言いながらキャサリンとリリィは服を脱ぐ。バケツに布を浸し、体を拭いていく。


「髪も洗いたいけど、さすがにそうもいかないよね」

「乾かす時間ないもんね」

「ローザちゃんは大丈夫?」

「ローザちゃんくらいになるとやっぱりお家にお風呂ありそう」

「ええ、まあ、ありますけれど……慣れますわ。慣れませんと」


 ローザは微笑んだ。


「立派な騎士になるために……がんばります」

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