過去編 生徒から誘惑されるアーサー
「先生。そんなことより実技で教えてくれませんか?」
アーサー先生の土魔法の授業の最中にフィンがアーサー先生に言う。
「ん? 何の話だ? 今こうやって木を出して見せただろ?」
「ですから、僕と実際に戦ってください。僕は炎魔法を使います。アーサー先生は土魔法を使ってください。それで勝負をしましょう。勝った方の魔法が実践的だということになります」
フィンがそう言うとクラスがどよめく。
「その勝負には応じられない。決闘は禁じられているからね。それに決闘したところで、僕が勝つ。伊達に教師をやってないからね。フィンくん。君は、みんなの前で恥をかきたいのか?」
アーサーが煽るとクラスからハハハハと笑いが起こった。エリスもクスッっと笑う。
フィンを見るとワナワナと震えている。
「逃げるんですか? 先生!」
フィンが震える声で言う。
「悪いがフィン君。逃げることも大事な戦略だよ。逃げることが恥だと思っている時点で君は戦いに向いていない。いい学びになったな。フィン君。それではフィン君との個人授業はこれで終わりだ。通常の授業に戻るとしよう」
アーサーがそう言うとクラスから笑いが起こった。中には拍手までしている学生もいる。フィンは男子学生から嫌われていたようだ。フィンはプルプルと震えている。
「それでは土魔法の教科書6ページを開いてくれ」
アーサー先生は教科書を開くように言う。
その様子を憧れの目線でエリスは見ていた。
◇
「クソっ! あのアーサーって教師! 気に入らねーなぁ」
昼休みの中庭。フィンが取り巻きに囲まれて愚痴を吐いている。
「そうだよな。あの先生口だけは達者なんだよな」
「でも、結構カッコよかった……」
フィンの取り巻きの女子学生がボソリと言うとフィンはその女子学生をにらんだ。
「おい、あのアーサーに恥をかかせる方法を思いついた奴に100クローネやるぞ」
フィンが言う。
「あ! 俺! 思いついた! メチャクチャ勉強してあの先生の間違いを指摘するとか!」
「私も思いついた。授業中雑談しまくって先生をイライラさせるとか?」
フィンがそれを聞いてはぁーー! っと大きなため息をつく。
「お前らもっとちゃんと考えろよ! この俺が! あの安月給の新米教師の前で恥をかかされたんだぞ!」
「フィン。あたしさ……いい案があるんだけど……あの先生を誘惑しちゃうとかどう」
色っぽい声の女子学生がフィンに言う。すると学生たちから
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
と声が上がった。
「どうすんの? ミネルヴァ!」
「先生を誘惑するの?」
「それでさ。あっちがあたしに手を出したらあの先生はクビってことになるよね? それでいいんじゃない?」
ミネルヴァが妖しく笑う。フィンもそれを見てニヤリと笑った。
◇
ここはアルケイン魔法学校の学長室の前。エリスとジュリアはその学長室の前で話し合っていた。
「エリスさん。レイモンド先生に体を触られたって言わないと、それで学長から注意してもらわないと」
ジュリアがエリスに言う。
「でも……そんなことしたら……レイモンド先生が……」
エリスが困惑している。
「えっ? どうしたの? エリスさん。レイモンドのことを心配してるの?」
ジュリアが正気か? といった感じでエリスに聞く。エリスはコクリとうなずく。
「エリスさん……」
「だって、レイモンド先生。アガサ学長に言ったら、どんな仕返しをしてくるか分からないから……怖くて……それにレイモンド先生がクビなったらって思ったら」
エリスは震える声で言う。
「エリスさん……エリスさんは本当に優しいんだね。でも、その優しさはレイモンドにはもったいないよ。その純粋さも、優しさも、本当に大事な人に向けないといけないものだよ。人を平気で食い物にするレイモンドなんかじゃない。大事な想いなんだから、大事な人のために残しておかないと。じゃないと誰かを思いやることがバカバカしくなるよ」
ジュリアがエリスの目を見つめて言う。
「うん……そうだね」
「入りなさい」
学長室からアガサ学長の声がする。
ガチャリ。
ジュリアとエリスは学長室に入る。
「それであなた方はレイモンド先生からセクシャルハラスメントをされたと言うつもりですか?」
高圧的な口調でアガサ学長は言う。
「はい。いきなり、背中から抱きしめられて、耳元で囁かれて……怖くて」
エリスは震えながら言う。
「全く……若い子っていいわよねぇ。ちょっと悲鳴を上げたら男たちが召使いみたいにホイホイ飛んでくるんだから」
アガサ学長がボソリと呟く。
えっ? 一体なにを……ジュリアはアガサ学長を見る。
「先生……今なにを?」
「おや、ただの独り言です。お気になさらず。それでエリスさん。続きを」
「前からなんです。生理痛が激しい時も、多くの学生たちの前で馬鹿にされたり……他にも体を触られた女子学生がいっぱい居て」
「でも、それは実技訓練の指導の最中でしょ?」
アガサ学長は言う。
「あれは指導じゃないです! 触る必要がありませんから!」
ジュリアが言う。
「それで……はぁーー……あなた方の言い分を一方的に信じろって言うの? レイモンド先生が悪いんだって」
「それは……お互いの言い分を聞くべきだと思いますが……」
ジュリアが反論する。
「分かりました。仮に! エリスさんが触られたとしましょう。では、どうしてエリスさんが選ばれたんでしょうね。エリスさんになにか原因があるんじゃないですか? あなたがレイモンド先生を誘惑したとか?」
アガサ学長は軽蔑するようにエリスを見る。
「そんなこと……」
「では……どうしてエリスさんが狙われるんですか? エリスさん。なにか心当たりはないですか?」
「あっ……」
エリスは言葉が詰まる。
「先生いい加減にしてください! そうやって口を塞ぐつもりですか? エリスさんが狙われた理由? そんなの被害者であるエリスさんに分かるわけないでしょう! そんなの! 加害者のレイモンドに聞いてください!」
ジュリアが怒る。
「では、ジュリアさんはレイモンド先生に触られたことはありますか?」
「ないですが……」
「では、なぜ、ジュリアさんは大丈夫で、エリスさんは触られるんですか? エリスさんに原因がないと言い切れますか?」
「……」
エリスは無言だ。
「先生!」
ジュリアはアガサ学長に詰め寄る。
「分かりました。私の口から直接レイ……いや、レイモンド先生に注意しておきましょう。でも、それと同時にエリスさんあなたもこのような問題を引き起こさないように注意しておいてください」
アガサ学長は言う。
「あっ……あっ……はい」
エリスはポロポロと泣いている。
「アガサ学長! なにを言ってるんですか! エリスさんは被害者ですよ! どうして被害者が注意する必要があるんですか!」
ジュリアが詰め寄る。
「ジュリアさん。あなたもそうですよ。人の問題に首を突っ込む暇があるなら、自分の将来について考えた方がいいんじゃなくって?」
「それは……どういう意味ですか?」
「言葉の通りです。エリスさんを助けて、それで、あなたまで嫌な思いをしたくないでしょう?」
アガサ学長が言う。
ジュリアは思わず黙る。
エリスとジュリアは学長室から退出した。
エリスはポロポロ泣いている。
「エリスさん……まさか学長があんな人だって分からなくて」
「ううん。ジュリアさんが悪いんじゃない。私思ってることの10分の1も言えなくて……全部ジュリアに頼ってばかりで」
エリスが泣く。ジュリアがエリスを抱きしめた。
◇
アルケイン魔法学校学長室。
エリスたちが退出したあとで……
ガチャリ。学長室の別室の扉が開いた。レイモンドだ。エリスたちとアガサ学長の話をレイモンドは扉越しに聞いていたのだ。
「うわぁーー!! ヤバかった! 上手く誤魔化してくれて助かりましたよ。アガサ学長」
レイモンドは言う。
「私に任せなさい。あんな小娘の叫び声一つでこの教育というものが揺るがされることなんてあってはいけませんからね」
アガサ学長は笑いながら言う。
「本当! 今どきの若い子はなにを勘違いしてんだか、すぐセクハラだ。セクハラだ! って騒いで! 怖いですよ。正直。それで人一人の人生が潰されるかも知れないのに! セクハラなんてしてませんよ! あれは指導だってのに! 分かんない奴らだよなぁ!」
レイモンドが言う。
「全くその通りですね。熱心な指導をセクハラだと受け取る方に問題がありますよね。まぁ……これであの子も泣き寝入りしてくれるでしょう」
アガサ学長はニヤリと笑った。レイモンドも笑う。
二人ともまだ自らを待ち受ける破滅に気づいていないのだった。
◇
「エリスさん。私から提案があるんだけど」
エリスと歩きながらジュリアが言う。
「なに?」
「アーサー先生に相談してみない? あの先生だったら話を聞いてくれるかも」
ジュリアはエリスに言う。
◇
一方そのころアーサーは廊下を授業のための資料を持ちながら歩いていた。
「先生。どこに行くんですか?」
フィンの取り巻きのミネルヴァがアーサーに声をかける。アーサー先生を誘惑して破滅させるためだ。
「図書館に授業で使える資料があったんだ。それを僕の研修室まで持っていこうと思ってね」
アーサーがミネルヴァに答える。
「先生……では私も手伝います」
妖しくミネルヴァは胸元を見せながらアーサーに微笑みかけた。
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