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過去編 過去のレイモンドの悪行

5年前。


まだエリスが16歳の学生だったころ。


アーサーがまだ新米教師だったころの話。


アルケイン魔法学校にて。


エリスは更衣室で着替えていた。女子学生のころのエリスだ。


「あー。嫌だなぁ。次レイモンドの授業かぁ」

女子学生の声が聞こえる。女子学生は着替えながら喋っていた。

「セクハラしてくるもんね。あいつ」

「そうなんだよなぁ。ことあるごとに体を触ってきてさぁ」


エリスは隅っこの方で服を着替えていた。次はレイモンド先生の水魔法の実技授業だ。エリスは考えていた。みんなレイモンド先生を悪く言い過ぎだと。レイモンド先生もそんなに悪い人じゃないと。きっと授業に熱心なだけなんだ。


エリスはこのころメガネをかけていた。地味で髪の毛もボサボサ。傍から見ても分かるくらいイケてない学生だった。だが、それはエリスが純粋である証拠だった。エリスが人は外見では判断しないと信じ込んでいたからだ。人間の善性を信じていたからだ。


「だめだよ。レイモンド。あいつマジで気持ち悪い」

「マジで寄ってくるなって感じだよな」

気の強そうな女子学生がレイモンドの悪口を言っていた。


エリスは友達のこれまた地味な女の子に言った。

「レイモンド先生。そんなに悪い人じゃないのにね。なんであんなこと言うんだろうね」

と。



「おーーい! 授業を始めるぞぉ! お前ら並べぇ」

5年前。まだ27歳だったレイモンドが運動場で叫ぶ。


「点呼!」

レイモンドが叫ぶと


「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

……

「10!」


女性学生たちは点呼をする。


「もっと声を出せ!」

レイモンドは叫ぶ。


「1!」

「2!」

「3!」

……

「10!」


点呼がされる。


「よしっ! これから水魔法の授業を始める! 今日は水の馬ケルピーの生成だ!」

レイモンドが叫ぶ。


「あの……先生」

女子学生の数人がレイモンドに歩み寄る。


「なんだ」


「あの……私達今日お腹が痛くて……その……」

言いにくそうに女子学生たちが言う。


「なんだ。変なものでも食ったか」


「そうじゃなくて……あの……」

これは生理がキツイから休ませて欲しいということだった。が、デリカシーのないレイモンドは当然そんなことは分からない。


「あーー! そうか! お前ら月のモノか。生理なら生理だって早く言えよ!」

レイモンドは大声で叫ぶ。


女子学生はそれを聞いてショックを受けたみたいに固まっている。


「ちょっとあいつなんであんなことを大声で言うの!」

「最低!」

気の強そうなエリスの学友、ジュリアが友人に耳打ちする。


エリスはそのジュリアの言葉を聞いていて思った。レイモンド先生はきっとああいう人なんだと。男だから分からないんだと。


「ホントに生理かぁ? ちょっとお腹触らせろよ」

レイモンドは女子学生のお腹を触ろうとする。


「あっ……」


レイモンドに急にお腹を触られた女子学生は緊張して声も出せない。


「本当かぁ? 嘘ついてんじゃないだろなぁ。生理って言うほど成長してないだろ? この胸元とかよぉ」

レイモンドは女子学生のお腹を触りながらイヤらしい目で女子学生の胸元を見つめる。


「先生! やめ……て……」

やっとのこと別の女子学生がレイモンドを止める。


「はぁ? 俺は教師としてやるべきことをやっただけだが? 学生がサボってるかサボってないか! それを見極めるのが教師だろ!」

レイモンドが女子学生に反論する。


「先生。その子嫌がってますよ」


「嫌がってんのか? なぁ? 嘘つくなよ! こいつ嫌とか言ってないぞ! なぁ!」

レイモンドはお腹を触った女子学生に脅迫するように言う。


「あっ……ひっ……」

過呼吸になったように女子学生は声を上げられない。


「ほらな。お前らすぐ被害者ヅラするだろ? じゃあお前ら生理なんだろ? 休んでいいぞ。それで損するのはお前らだからな」

レイモンドは女子学生たちに言う。


女子学生たちは目に涙を浮かべながら運動場の隅っこで座った。


「大丈夫?」

「あ……あ……」

レイモンドにお腹を触られた女子学生は運動場の隅っこでボロボロと泣いていた。


「では! 始めろ!」

レイモンドが女子学生たちに号令する。


ジュリアやエリスたちは水の馬ケルピーを作り出す。


パシャン!

「あぁ! 駄目だ!」

「あ……失敗した」

集中が上手くできないのか学生たちはケルピーの生成に失敗する。


それもそのハズ。レイモンドはケルピーの作り方のコツなど教えていなかった。レイモンドが伝えた言葉はこれだけだ。

「取り敢えずやれ」

それがレイモンドの教育方針だった。


これに限らずレイモンドは実技練習の際に懇切丁寧に教えることはしなかった。よく言えば自主性の尊重。悪く言えば教育の放棄。


それはレイモンドにとって都合が良かった。可愛くないのだ。優秀な学生という奴は。小生意気で、レイモンドの教育方針に文句を言うのだ。優秀な学生とやらは。


だから、レイモンドは生徒を教育する立場でありながら、学生たちに教育したくないという矛盾した思いを持っていた。なぜなら、優秀に育てれば育てるほどレイモンドの無能さが際立つからだ。


教師より優秀な学生などあってはいけない。その瞬間教師の威厳がなくなり、学級崩壊に繋がるだろう。


だから、レイモンドにとっては学生は無能であるほど良かったのだ。レイモンド先生! レイモンド先生! 教えて下さい! レイモンドは女子学生からそう言われるのが気持ちよくて仕方なかった。


「ちゃんと集中しろ!」

レイモンドは怒声を上げる。


「そんな……やり方も教えてもらってないのに……」

女子学生たちが呟く。


すると

「おお!」

と女子学生たちがどよめく。


一体なんだ? レイモンドは声のする方を見る。エリスだった。あの地味な少女が見事なまでにケルピーを生成していた。


「ヒヒーーン!」

ケルピーが鳴く。エリスの作った水の馬ケルピーはパカッパカッっとまるで生きている馬のように歩いている。レイモンドは驚く。


「すごーーい!!」

「えっ? エリス凄い! どうやったの?」

「本物みたい」


女子学生たちがエリスを褒める。眼鏡をかけたエリスは恥ずかしそうに微笑む。


レイモンドは冷や汗をかく。どうして……教えてないハズなのに……


これが天才という奴なのか?


するとまた別の場所からどよめきが起きる。


するとジュリアがエリスほどではないが、ケルピーの生成に成功していた。


レイモンドは焦る。教えてないのにこれまでの集中力を発揮出来るなんて……まともに教えたらレイモンドなど楽々越えていくんじゃ……


レイモンドはエリスのそばにカッカッっと歩み寄る。


「エリスさん! 凄い!」

「これがケルピーなんだ。キレイ……」

「こんな特技があったんだね」


「古い古文書があって……子供の頃からよく読んでいて……」

エリスは女子学生に説明する。


「駄目だな。これ」

レイモンドがエリスの作ったケルピーを見てそう言い放った。


「えっ?」


「集中力が足りていない。ほら、よく見てみろ。この馬尻尾が短すぎる」

レイモンドは細かい点に突っ込む。


「えっ? そんなのどうでもいいことじゃないですか!」

「尻尾って!」

エリスの周囲にいた女子学生たちは困惑する。


「それに全体的なバランスが悪い。お前これでよく得意気な顔をしていられるな」

レイモンドはエリスに言う。


「えっ……あっ……ごめんなさい」

エリスは震える声で言う。


レイモンドはその反応を見てニヤリと笑った。


「ほら、俺が教えてやるよ」

レイモンドはエリスの背後に回り、エリスを背中から抱きしめる。そしてレイモンドの手でエリスの手の甲を握る。


「キャッ!」

エリスが声を上げる。


「これいいだろぉ! 俺の魔力が直接伝わってなぁ」


「あの……せんせ……」

エリスは声がかすれて出てこない。


「おいおい。特別授業だぞぉ。エリスくぅん。ほら、集中して……集中して……もう一度作って。ケルピーぃいい」

レイモンドはエリスの背中から囁く。エリスはレイモンドから放たれるあまりの嫌悪感に身をよじらせる。まるで全身をウジ虫が這っているような嫌悪感をエリスは感じた。


「先生! 気持ち悪いですよ」

とジュリアがレイモンドのところに突然現れて言った。


「えっ?」

レイモンドの手が止まる。


震えているエリス。


レイモンドはバツが悪そうにエリスから離れる。


「先生は女子学生の体を触らないと授業が出来ないんですか?」

ジュリアがレイモンドに言う。すると女子学生たちからぷっっと笑いが起こった。


「お前……」


「先生! まずは先生がお手本を見せてくれますか?」

ジュリアは言う。


「あっ……それは」

レイモンドは焦る。レイモンドは到底エリスのような高度な魔法制御が出来なかった。エリスやジュリアは天才だったのだ。


「出来ないんですか? 先生」


「あっ……うっ……よしっ! ケルピーの生成はそこまで! 次はマジックアローの生成を行う!」

レイモンドは大きな声で学生たちに言う。


学生たちから

「えええええ!!!!」

という声が響く。マジックアロー作成はもう終わったカリキュラムだったからだ。今さらマジックアローなのか? という、ええええ!!! だった。


誤魔化すようにレイモンドはエリスやジュリアから離れる。


「大丈夫だった? エリスさん」

ジュリアは優しくエリスに声をかける。


「はっ……あ……」

エリスはレイモンドから背中から抱きしめられたショックでプルプルと震えている。


「エリスさん」

ジュリアはエリスを抱きしめた。


「あっ……」


「エリスさん。素敵だったよ。さっきのケルピー。ホントに凄かった。エリスさんはなんにも悪くないよ」

ジュリアはエリスに囁く。ジュリアはエリスの震えが止まるまでの少しの間抱きしめていた。



過去編です。エリスが主人であるアーサーのことを好きになったきっかけのエピソードです。





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