屈強な囚人たちに性的な目で見られるレイモンド
「おい! 入れ!」
レイモンドは牢屋に入れられる。寒い! 凍えそうだ!
ここはニースの街の大部屋の廊下だ。レイモンドは街中で魔法を使おうとした罪で投獄されていた。
「保釈金は400クローネだ。誰か知り合いに頼んでも構わない」
衛兵がガチャリと牢屋のカギを閉めながら言う。
保釈金?……レイモンドは頭の中が真っ白だ。どうしてこんなことになったんだ。レイモンドは過去を振り返る。そうだ。俺はニナにもう一度アーサーをハメようと持ちかけたんだ。アーサーほどの善人なら引っかかるだろうと。
それを街の若い男に邪魔されたんだ! なんだあいつ! 本気で腹が立ってくる。俺は脅そうとしただけだ。あいつが調子に乗っていたから。
「保釈金を肩代わりしてくれる奴に手紙を書け。そうすればマジックオウルを使って届けてやろう」
衛兵はペンと紙をレイモンドに手渡す。レイモンドは呆然とそれを受け取った。
しかし
「寒っ!」
地下牢はまるで冬の雪国のように寒かった。息が白い。レイモンドは薄手のボロボロな囚人服に着替えさせられていた。それが余計に寒さを際立たせた。
「おい」
後ろから声が聞こえる。レイモンドは後ろを振り返る。暗闇の中そこには3人の人影があった。その男たちの瞳は鋭い目でレイモンドを射抜く。
レイモンドから冷や汗が流れる。怖い。なんだこの筋骨隆々の男たちは。
「お前。どんな悪さをしてここに入ってきたんだ?」
男のドスの利いた声が聞こえる。レイモンドは察する。値踏みされてるんだと。牢屋に入っている囚人にもヒエラルキーがあると聞いたことがある。もちろん俺からしたらこんな奴らは社会の底辺以外の何者でもないのだが……
しかし、牢屋には牢屋の秩序が存在する。
その牢屋のヒエラルキーの最下位になると悲惨な末路が待っていると聞く。いわく、女にご縁のない彼らのために女装して性欲処理のはけ口にされたり、いわく、ボコボコにされてストレスのはけ口にされたり……
早くここから逃げ出したい。そうだ! アガサ学長に頼もう! 手紙を書いて保釈金を払ってもらうんだ!
レイモンドはもはや自らの生命線となった紙とペンを見る。同情を引かないと。アガサ学長の心を動かすような手紙を書かないと。レイモンドはツバを飲み込む。
「おい! 話を聞いてんのか? どんな犯罪したって聞いてんだよ!」
ドンッ! と囚人が壁を殴る。ビクッ! っとレイモンドは反応する。ここでは魔法障壁があり、レイモンドの魔法は使えない。筋力だけなら……絶対に敵わない相手だ。言葉を選ばないと……
「暴行だよ。ミッドナイトルージュで変な奴に絡まれてな。そいつと喧嘩をしたんだ」
レイモンドは震えを隠しながら答える。ミッドナイトルージュとはニナが働いていた夜の街の名前だ。レイモンドは当たり障りのない答えをする。ここでショボい犯罪を自白したり、犯罪自慢をやりすぎると逆に詰められそうだ。
「喧嘩か。で、どっちが勝ったんだ?」
男が変なことを聞いてくる。いや、気にするところそこかよ。
「もちろん。勝ったのは俺だよ」
レイモンドは得意げに言う。本当は殴られて吹っ飛ばされたのだが、嘘を言うのはレイモンドの18番だった。
「ほう。じゃあお前は喧嘩自慢なんだな」
男が笑いながら言う。
「あぁ。ガキのころから喧嘩ばかりやっててよぉ。俺も。あーー悪かったなぁ! 俺のガキの頃は! 一度に10人くらいと戦ってよ! それで全員ボコにしてやったわ!」
レイモンドは話を盛りだした。舐められたら終わりだ! レイモンドは必死だった。もちろんこの武勇伝は全部嘘だ。
「へー! すげぇなぁ! それ! お前、名前なんて言うんだ? それだけ喧嘩自慢だったら俺たちも名前くらい知ってるハズだがな」
男たちはニヤニヤしながら言う。それを見てレイモンドは更に焦った。
「えっ? あっ……レイモンドです」
急に声が小さくなるレイモンド。
「あぁ?!」
「ひいっ! レ! レイモンドです!」
レイモンドはビビり散らしながら答える。
「レイモンド? お前聞いたことあるか?」
「いや……ない」
屈強な男たちは互いに話し合う。ヤバい! いつもの癖で話を盛ってしまった! 今まで、過去の犯罪自慢をするたびにレイモンドは周りの人間から一目置かれるのを感じていた。あいつを怒らせたら駄目だ。周りからそんな風に見られていた。
だが、ここは違う。嘘がバレたら……終わりだ。レイモンドは冷や汗をかく。
「あ! あの……そちらの方々は一体どんな犯罪を……」
レイモンドは話を逸らす。
「あぁ。俺たちは黒龍団だ。薬物の取り引きに失敗してな」
男たちがそう言って胸に刻まれた黒龍の入れ墨を見せた。
あっ! ヤバい。黒龍団……レイモンドは頭が真っ白になる。黒龍団は裏社会のボス的なクランだった。目的のためならいかなる暴力的な手段も厭わない。薬物売買、人さらい、脅迫、暴行。関わった時点で人生破滅な連中だ。
最悪だ。レイモンドの背中から、寒いというのに冷や汗がどんどん出てくる。喋ってしまった。今までレイモンドも悪かったが、それは表社会での話。裏社会の奴らの前ではレイモンドの悪行も霞むレベルだった。
「そ、それで……お三人方の刑期はいかほどに」
ニヤニヤ笑いながらレイモンドは言う。
「俺たちは全員死刑だ」
黒龍団の男たちが言う。
「ヒイッ!」
レイモンドは叫ぶ。
「まぁジタバタしてもしょうがねぇ。それだけのことをやってきたからな。明日くらいには俺ら全員縛り首だろう」
自分のことだというのに冷静に男たちは言う。度胸が座っているのだろうか。
「だから、俺たちは失うものなんてなにもねぇんだわ。もう後なにをやっても死刑なんだから、ある意味やりたい放題だ。なぁ! そうだろう! レイモンド!」
男たちはレイモンドを怒鳴りつける。
「ひっ! は……はい!」
レイモンドはビビる。怖い……怖すぎる。失うものが何もないんだ。こいつらは……俺はまだ先の人生があるんだよ! アーサーに復讐しないといけないんだよ!
「ところでなぁ! お前結構可愛い顔をしてるな」
男たちが急に猫なで声になってレイモンドを褒めた。
「えっ? いやっ! 違います! 可愛くないです!」
「いいからもっと近くにこいよ。寒いだろ」
男は優しくレイモンドの肩を抱く。
「は、はい……」
レイモンドは涙目だ。こんな筋骨隆々の男たちには敵わない。こうしてレイモンドの長過ぎる夜が始まった。
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