レオナルドに慰められるニナ
「大丈夫だった? ヤバいねあいつ」
レイモンドから離れたニナと若い男は歩きながら話している。
「うん」
ニナはウットリとした表情で若い男を見ている。
「キミ名前は?」
若い男が聞いてきた。
「ニナだよ」
「そうか。ニナ。ここから家に帰るんだよね」
若い男は言う。
「うん……キミの名前も教えて欲しいな」
ニナが微笑みながら言う。
「俺? 俺はレオナルドだよ。レオって呼んでいいよ」
男が微笑む。
「そっか。レオ。ちゃんと名前で呼びたいからさ」
ニナはレオの腕に掴まる。そしてレオナルドの顔を見上げてニコッっと微笑んだ。
「ニナ。ニナって仕事なにしてんの?」
レオナルドがニナに聞く。
「え? そんなこと聞く? 分かんじゃん。今ぐらいの時間にさ、ここら辺を歩いている女の子の仕事なんて」
ニナは拗ねたように言う。
「あ……そっか。そうだよな。いや、俺そういう職業の人全然バカにしてないから。むしろメチャクチャ尊敬してるって言うか」
レオナルドは取り繕う。
「ほんとぉ?」
疑うようにニナは聞く。
「そりゃそうだよ。重労働だし、上がりの時間も遅いしね。本当大変そうだなっていつも思ってて」
レオナルドはニナを見る。ニナはレオナルドの顔を見てニコッっと微笑んだ。
「俺冒険者やってるんだ。『炎熱の魔剣団』って知ってる?」
「知ってる! すごーーい! 『炎熱の魔剣団』って超超エリートじゃん! え? レオそこで働いてるの?」
ニナが歓喜の声を上げる。
「おい。喜びすぎだろ。自慢っぽくなるから言うのちょっと迷ったんだけど、ニナが喜んでくれて良かったよ。メチャクチャ大変なんだけどね。あのクラン」
レオナルドが微笑む。
「えーー! 凄い! そんなに大変なの?」
「あぁ。この前なんか俺ら新人だけでドラゴンを倒してこいって言われてさ」
「えーー! 凄い!」
「本当死にものぐるいだったよ。武器も折れるわ。仲間も怪我するわ。でもなんとかドラゴンを一匹倒したんだよな。そしたら魔剣団のみんなが良くやったな! って褒めてくれて。あーあれは嬉しかったな」
遠い目をしてレオナルドは言う。
「凄ーーい!! ドラゴンを倒したんだ」
ニナは目を輝かせる。
「あぁ。あの時一人前として認められた気がして嬉しかったよ。てか、俺自分の話ばっかしてるな。ニナって冒険者に興味あるの?」
「うん。カッコいいじゃん。前線でモンスターと戦う人って。そういう人って男らしいじゃん」
ニナは微笑む。
「うん。そっか。ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。ニナ」
レオナルドはそう微笑むとニナはレオナルドの腕をギュッ握った。そして少し沈黙する二人。
「寒いね」
ニナが言う。
「もっとギュッっとしてていいよ」
レオナルドが笑った。微笑み合う二人。
レオナルドが切り出した。
「あのさ……さっきの奴ってニナの知り合い?」
「ん?……うん」
ニナがコクリとクビを縦に振る。
「もと彼?」
するとニナがブンブンブンとクビを横に振った。
「あいつは……なんだろうな。元同僚なんだ。前の職場の」
ニナはポツリポツリと言う。
「えっ? 同僚が新しい職場まで追いかけて来たの? ヤバいじゃんそれ」
「もーー!! 本当ヤバくてさ! あいつ! 聞いてよ! 本当! さっき怖かったんだから!」
ニナはレオナルドの顔を見上げて言う。
「あいつが一方的にニナのこと好きなの?」
「そうかも……でも、あいつ人を利用することしか考えてなくて、私、実は前、教師の仕事をしてたんだ」
ニナは言う。
「あっ! そっか。じゃあさっきのレイモンドって奴と一緒の魔法学校で……」
「うん。生徒たちの前で魔法を教えてたんだけど、ある日さっきの男が私に話を持ちかけてきてさ。協力して欲しいって」
「協力して欲しい?」
「うん。ある男性教師をハメたいからって、私に嘘のセクハラ被害を訴えて欲しいって」
「えーーー!! 学校なのにメチャクチャドロドロしてんじゃん」
レオナルドが言う。
「うん。それで言うとおりにしたら、それ学校中にバレちゃって、新聞にも載っちゃって。それで全部私が悪いってことになったんだ。持ちかけたレイモンドはなんの罰も受けてないのに」
ニナは言う。しかし、ニナの話は事実とは異なる。ニナはアーサーをハメることにノリノリだった。キスでアーサーをハメようと提案したのもニナだった。ニナは自分の都合のいいように過去を変えながら同情を誘っている。
ニナは同情を誘うためなら、話を盛ったり、自分の都合の悪いところを削ったりするのに躊躇が無かった。
「そっか。大変だよな。理不尽っていうか。ニナも可哀想だよな」
レオナルドは言う。その一件で本当に可哀想なのはアーサーの方だが、ニナは巧みな話術で自分が一番可哀想な存在であるかのように言う。
「うん……」
ニナは沈んだ顔をする。
「ひょっとしてそのハメた相手って、あの今は国王やってるアーサーさんのこと?」
レオナルドが聞く。
「うん。そうだよ。アーサーだよ。あの人凄いね。今は国王だなんて。そんなに出世したんだね」
「えぇ!! 凄えなぁ! あの英雄の関係者だったなんて……そっか。ゴシップで聞いてたけど、裏ではそんなことがあったんだな」
感慨深げにレオナルドは呟く。
「うん。そうだよ。あの人は本当にりっぱな人だよ。私謝らなくちゃ」
「そうだなぁ。あっごめん。ニナの話だったね。それでクビになってから?」
「うん。それで、学校クビになってさ。それで元々借金もあったし、噂も広まってまともな仕事に就けなくてさ。それで夜のお仕事をしてるんだ」
ニナは言う。
本当にクビになった理由はもちろん責任を押し付けられたのもあるが、ニナの経歴詐称なのだがニナは当然そんなことは言わない。
「そっか。色々あったんだな。ニナも」
感慨深げにレオナルドは言う。
「人生本当一寸先は闇だね。なにが起こるか分からないから」
ニナは涙目だ。するとニナは当然泣き出した。ポロポロと涙が止まらない。
「あっ……あっ……」
ポロポロ泣くニナ。
「おいおい。どうした? ニナ」
優しげにレオナルドは言う。
「あっ……涙が急に出てきて……急に私何やってんだろって思ってきちゃって。今頃学校の先生として頑張れてたハズなのに。それがなんでこんなことになっちゃったんだろって」
泣きながらニナは言う。
「うん」
「急に辛くなっちゃって。もうわけが分かんなくなっちやって」
ニナが言う。
「ちょっと休むか。ほらあそこの噴水のところで」
レオナルドは街にある噴水を指さした。コクリとうなずくニナ。
ニナとレオナルドは噴水のところで腰掛ける。
「そっか。今まで我慢してきたんだね。ニナ」
やさしい口調でレオナルドは言う。
「……うん」
泣きじゃくりながらニナは言う。
「今の仕事ってやっぱり辛い?」
レオナルドが聞く。
「ううん。大丈夫。お金を貰ってるから辛いなんて言えないけど。でも……変なお客さんとかが居るからそれが大変かな。でもそんなお客さんとも笑顔で接客しないといけなくて、ちょっとでも不機嫌な顔をしたらすぐにクレームが入って、それで店長からいっぱい怒られて、もうムリ! って思いながら仕事が終わったら、さっきの男が私を追いかけてきて……もう、訳が分かんないっていうか……」
ニナが泣きながら言う。
「そっか。色々ありすぎたな。今日」
レオナルドが同情する。
「今日一日結構頑張ったのに。誰も分かってくれなくて。私なんのために生きてるんだろって思って。借金を返して、ご飯食べて、仕事をして。それの繰り返しで。もう全部バカバカしくなってきちゃって」
ニナが泣きながら言う。
「うん。そっな」
「ごめんね。なんだか一方的に喋っちゃって。こういうのって誰にも相談できないから」
顔を抑えながらニナは言う。
「大丈夫だよ。気にすんな」
レオナルドが微笑む。
「本当ゴメン。レオにもいっぱい辛いことがあるハズなのに」
「ニナ! もう良いって。謝んなって。ニナはなんにも悪いことしてないだろ? 俺に謝んな。ニナは大変な思いをしてるんだから。俺がニナの気持ちを分かってあげるよ」
レオナルドがニナの方を見て言う。
「レオナルド……」
ニナはレオナルドの目を見る。
レオナルドはニナを抱きしめた。
「謝んなって。全部吐き出せ。全部受け止めるから。辛いことも悲しいこともムカつくことも全部吐き出せ。我慢してたら自分の心が分からなくなるぞ」
レオナルドはニナを抱きしめながら言う。
「あっ……あっ……レオ……」
ニナはレオナルドに抱きしめられながら嗚咽を漏らし泣き始めた。
ニナはしばらくレオナルドの胸で泣いていた。
「ニナ。ニナは立派だよ。だってさ。仕事って誰かにとって必要だからあるんだよ。ニナにとってはそれが辛いことなんだけど、ニナがいるから元気になれる人だっている。てかさ、世の中おかしいんだよ。男の欲望を受け止めて癒やしまで与えてる人たちがバカにされるなんて。立派な仕事じゃん」
レオナルドが言う。
「うん。ありがとう」
ニナはクスッっと笑う。
二人は夜の街を歩いていた。
「あの……ここら辺が私の家だから」
ニナが言う。
「そっか。じゃあニナ。あんまり頑張りすぎんなよ。じゃあな」
レオナルドはニナのそばから離れようとする。
「えっ?」
ニナは意外だった。あんまりにもあっさりとレオナルドが去っていくから。
どんどん離れていくレオナルド。レオナルドは夜の闇の中にどんどん消えていく。ニナは……
「レオ! 待って!」
ニナは叫んだ。立ち止まるレオナルド。そしてニナの方を振り返った。
「レオ。家で……もう少し話をしようよ」
ニナはレオナルドにそう告げた。
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