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ざまぁ展開 レイモンドと喧嘩するニナ


「キャンディちゃん。お疲れ様」

ニナは店の裏口から出る。本当に疲れた。今日、笑顔で客のチンポを20本近くしゃぶっても400クローネにしかならない。400クローネといえば……倹約主義の成人男性がかなり切り詰めた1ヶ月の食費くらいだ。


もう時間はすっかり遅くなっていた。深夜だ。ここ歓楽街でも流石に人通りが少なくなっている。


顎が疲れる。舌もしゃぶり過ぎて疲れている。もうご飯を食べるのも嫌だ。舌を使うから。


こんな時家で癒やしてくれる誰かが居てくれたらいいのになとニナは思う。自分はもう癒やし疲れたのだ。風呂の準備もしてくれて、笑顔で迎えてくれる。そして食事も作ってくれて……なんていうかメイド兼ペットみたいな都合のいい可愛い男の子を養いたい。


ニナはなんとなくそんなことを考えていた。夜の仕事は自分に合っていないのだろうか。どれだけ自分に嘘をついてやりがいを持とうとしても、ゴリゴリに自尊心が削られていく。


!!


誰かにつけられている? ニナは自分の背後に誰かが距離をおいてピッタリとつけているのに気づいた。


ニナは早足で歩く。怖い! 辺りは深夜だ。酔っぱらいばかりで誰も助けてくれそうにない。そうだ。あともう少しで衛兵のいる詰め所に着く。とりあえずそこにたどり着かないと!


ニナは小走りだ。いつでも大声で叫ぶ心構えをする。相手が自分の体を掴んだら必ず大声で叫ぼう。誰かが助けてくれるハズ。いや、もう叫んでしまおうか。ここで大声で叫べば相手も躊躇するハズ。


「おい」

ニナの肩に手が置かれた。


「キャーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

ホイッスルのようにニナは叫ぶ。笛のような甲高い叫び声が辺りに響いた。


「おい! 静かにしろ!」

男が驚いたように叫ぶ。そしてニナの両肩を男は掴んだ。


「えっ? レイモンド!?」

ニナは驚く。そこにいたのは不良教師のレイモンドだった。


お互いに顔を見合わせる。レイモンドは無精ひげがあり、荒んだ生活をしていることがうかがえた。


「レイモンド! あんたなにしてんのよ!」

ニナかレイモンドの手を振りほどく。


「あぁ。久しぶりだと思って、元気してたか?」

レイモンドは悪びれもなく言う。は? ニナはキレそうになる。元気だった? は? そもそも全部レイモンドが仕組んだことなのに。アーサー先生を騙そうって言ったのもレイモンド。私を利用してたのもレイモンド。こいつのお陰で自分は仕事を辞めさせられ、こんな仕事に就いているのに! 全部コイツのせいなのに! そんなコイツが元気してたか? だと。


最悪だ。ニナは思った。風俗の仕事が嫌で嫌で仕方がなくて、眠れずに夜を過ごしたこともあった。今でもノドと口と顎が痛くて痛くて仕方がない。なのに、それを私をハメたこいつが元気だったか? だと?


ニナはキレそうになる。本気でレイモンドを殺してやりたいと思った。


「元気な訳ないじゃない! 私があの後どんな大変な思いをしたと思ってんのよ! 最悪! 付いてくるな! ゴミ!」


「それだけ文句が言えるんだったら心配ないな。元気そうで安心したよ」

レイモンドはニヤリと笑う。


ニナは心底信じられないといった表情でレイモンドを見る。


「元気なわけないじゃない……」

震える声でニナは言う。


「いや元気だって。そりゃ夜の仕事って結構稼げるだろうからな。懐も暖まってホクホクだろう。そんな惨めなフリするのやめろよ。結構人生楽しんでんだろ?」

レイモンドはサイコパスっぽく言う。


ニナは愕然とする。なんなんだこいつは。人の感情をなんだと思ってるんだ。


あぁ……そうか分かった。結論ありきなんだ。こいつは。自分の罪の意識を感じたくないから、私が案外平気だって思い込みたいんだ。


私が平気なら自分は悪者にならなくてすむから。自分が私をこんなふうにしたんだって思わなくて済むから。なんだよこの自分勝手さ。人の感情とか蔑ろにしてんじゃねぇよ! ニナはキレそうになる。


「じゃあどうすりゃいいっていうのよ! 最低男! シクシク泣き寝入りしててもあんたは私の大変さなんて分かんないでしょ! 泣いていても怒っても私がどれだけ痛かったか分かってくれないのなら、私は一体どうすりゃいいのよ! なぁ! 私が死なないと分かんないのかよ! 私が死ねばやっと分かんのかよ!」

ニナはレイモンドに詰め寄る。


酔っぱらいたちがレイモンドとニナの喧嘩に注目しだす。


「おいおい……大声出すなって」

レイモンドが周囲を見回しながらニナを慰めようとする。


「触んな! ゴミ!」

ニナは泣きながらレイモンドの手を振りほどく。ニナは顔から涙がポロポロと出た。こんな奴を好きだったなんて。こんな奴の言いなりになっていたなんて。


自分が心底バカだった。ニナは思い知った。騙されていた。全部こいつに。アーサー先生に謝りたい。あんなに真面目だった先生なのに。嘘をついて退職まで追い込んでしまった。


なんで自分はこうなんだろ。後先考えず自分の感情のままに突っ走ってそして痛い目にあう。誰かを傷つけてしまう。なんでこんなバカなんだ。


「アーサー。あいつ知ってるか? 国王になったらしいんだ」

レイモンドが言う。


ニナは驚く。

「えっ?」


「いや、マジだって。どんな卑怯な方法を使ったか分からないけどさ、国を乗っ取ったらしいぜ。あいつヤバいだろ」

レイモンドは話を続ける。


「……」

ニナは無言だ。初耳だった。


「それでさ。あいつの噂話を広めようと思ってな。もちろん嘘の。それでそれを買い取ってもらうんだよ。お前がアーサー先生から無理矢理キスされたのは本当だって噂を広めてな。それであいつがそのスキャンダルに困ったら、話を持ちかける。これ以上嘘の噂話を拡げて欲しくなかったら金を出せって。あいつ国王なら絶対買い取るハズだぜ。な、協力してくれ」

レイモンドがなにやら企んでいる。


「あ! あんたバカじゃないの! 新聞にも載ったでしょ! 私達がアーサー先生をハメたって。それで私クビになったんでしょ!」

ニナが叫んだ。


「だから! 脅迫されたことにしとけば良いんだよ。エリスから無理矢理脅されたってな。正直者は馬鹿を見る時代だぞ! なぁ! 協力してくれ」


「もう! 私に関わるなぁ!! 離せ!!」

ニナは叫ぶ。


「だったら俺に金をくれよ! 金がねえんだよ! お前のこともバラしてやるぞ!!」


「キャーーーーーーーーーーーー!!! 助けて!!」

「ニナ!」


「あの……大丈夫ですか?」

若い男の声が二人に声をかけた。そこにはイケメン風のチャラそうな若者が居た。


「助けて下さい!!」

ニナがその若い男の後ろに隠れる。


「お前逃げてんじゃねぇ!」

レイモンドがニナを掴もうとする。


「なにしてるんですか!! 危ないんでやめてもらっていいですか?」

若い男は冷静に対処する。


「お前。俺が誰だか知ってんのか?」

レイモンドは若い男を脅す。


「いや、知りませんけど。普通のオジサンっすよね。ちょっとキモめの」

若い男はからかうように言う。


「あぁ!? 俺はアルケイン魔法学校の教師だぞ! お前みたいなクズとは違うエリート中のエリートだぞ!」

レイモンドは若い男に詰め寄った。


「アルケイン魔法学校? あぁ! 知ってる! レイモンド? あんたレイモンドだろ。最低教師で有名な。街中のみんな知ってるぞ。学生たちが街中で叫んでたからな。お前からセクハラされたって。エリート学校でもあんたみたいなクズがいるんだな!」

男は煽る。


「あぁ! お前! 後悔しても知らないぞ……拘束術式。第三段階まで解除。水の精ウンディーネよ」

するとレイモンドの周りが強烈な魔力で満たされる。


「うおっ! あいつ魔法を使うつもりだ!」

「逃げろ!」

街の人が逃げ惑う。


「雨が降り、地に落ち、川に流れ……」

レイモンドは集中して呪文を発動させようとする。もう殺してやる。レイモンドはそう思った。ありったけの魔力をこめてニナもこの男も殺してやる。


俺をバカにしやがって! 俺をバカに……うべぇ!!


レイモンドの体が吹っ飛ばされる。若い男のパンチがレイモンドの顔に入ったのだ。


「こんなとこで魔法を発動させてんじゃねえよ。アホか。まぁ発動するまえにぶん殴っちまえばどんな魔法も意味ないけどな」

若い男は言う。


「大丈夫ですか?」

若い男はニナに言う。


「はっはい!」

ニナはボーーっと若い男を見ている。


「ここは危ないんで安全な場所まで送りますよ」

若い男はニナの手を取る。若い男はニナをまるで舞踏会でエスコートをする紳士のように手を引いた。


レイモンドから離れていく二人。


「クソーーーー!!! クソーーーーーー!!!」

レイモンドは叫ぶ。顔が痛い。なんなんだあいつは! いきなり殴ってきやがって!! 卑怯だぞ!


「あの……すいません。通報があって」

見知らぬ男の声だ。レイモンドはハッっとそちらを見る。


「あなた街中で魔法を発動しようとしてましたね。申し訳ないですが、禁止地域での魔法は罪になります。あなたを逮捕します」

その男は衛兵だった。


やってしまった。


「クソーーーーーーーーーーーーー!!」

レイモンドは叫んだ。最悪だ! なんでこんなことになったんだ!


レイモンドはうなだれた。そして、衛兵から縄で両手を縛られ牢屋に行くことになった。レイモンドの不幸は続いていく。


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