アーサー国王に
国王は焦っていた。
なんだこいつ……なにを考えてるんだ。いきなり屋根をぶち抜いて城に入ってきて……挙句の果てにこの城を明け渡せと?
国王は考える。
確かに三級市民を見殺しにする政策はとった。だが、それは仕方ないことだろうが! 役に立たない国民なんだから!
しかし……なんだこいつは……魔王とか言っていたが….…マザードラゴンまで従えて……
よしっ! そうだ。こんな時のために……
国王は自分のペンダントを触る。このペンダントは致死の毒のエンチャントが施されているペンダントだ。これに魔力を込めて……
国王は自分のペンダントに魔力を込める。そしてペンダントからジワリと粘性のある緑色の液体が出てきた。
これは速効性のある毒液。これを爪に塗り少し引っ掻いただけで相手を死に至らしめる致命の毒。
国王はその緑色の液体を爪に塗り込んだ。これで引っ掻いたらこの魔王もイチコロだ。なんせこの毒は少しだけでドラゴンをも殺せるほどの強力な毒だからな。人間ならば耐えられるハズもない。
「なるほど……我が王家を簒奪するつもりだな」
「そうだ」
魔王であるアーサーは答えた。
「やれやれ……降参だ」
国王は座りながら両手を上げる。
「お前のような英雄がいたとはな。だが信じてほしい。私は常に国民のことを思っていたのだ。ドラゴンはあまりにも強力だ。だからその力を裂こうとしたのだ……それが失敗だったな。分かった。龍玉は返そう。そして、我が王家に代々つたわるアーティファクトをお前に渡そう」
「アーティファクト?」
「あぁ『太陽と月の誓いの指輪』だ。この指輪をはめたものはこのモントバーンの地を支配するための絶大な力を与えられる。アスラ神との誓いの指輪だ。力づくでこの国を奪い取ったと言うのは諸侯の反発も大きいだろう。この指輪を私からお前に渡したことにすれば……諸侯の反乱も少なくて済むだろう」
「なるほど。この国を明け渡すということか」
「そうだ。では行こう」
◇
国王は俺を先導し地下室に向かった。国王の言う誓いの指輪が地下室の宝物庫にあるためだ。
「魔王殿。この国を奪い取ってどうするつもりですか?」
国王は俺に聞いてくる。
「魔王には相応しい根城が必要だろう。それに愚かな支配者はその存在だけで国民を傷つけるのが分かった。この街の市民のためにも俺が国王になった方が良いだろう」
俺は答える。
「くそ……なんてやつだ」
国王はボソリと呟く。
国王は考えていた。あの宝物庫に古代の殺戮兵器であるキリングマシーンがある。
たった一機で兵士たち100人以上を殺した最強の兵器。それを起動させれば私の勝ちだ。国王はほくそ笑む。
バタン! 宝物子に入った。そこには数々の古代のアーティファクトや武器、絵画や宝石などが大量に置かれていた。その中に大きな龍玉が保管されていた。
「これは返してもらおう」
俺は龍玉を触る。巨大な緑色の鮮やかな宝石。これがブラックドラゴンが先祖の霊と話すときに使用するものか。
「まぁどうせこの宝物庫のものも全部俺のものになるんだが」
俺はそう言うと
「オット! 滑った!」
と国王がわざとらしく転んできた。そして俺の腕をガリッっと引っ掻いた!
「っ!」
俺は少しの痛みを抱えて腕を引っ込める。
「はは!! ハハハハハ!! 引っ掻いてやったぞ! 引っ掻いてやったぞ! この爪にはな! 毒が塗ってあるんだ! その毒はまもなくお前の全身に行き渡りお前は死ぬ! 誰がお前なんかに国王の座を渡すか! 国民なんてなぁ! どうでもいいんだよ! あいつらは搾取されるためだけにある存在なんだよ! これが国王だ! お前ら下民とは見てる景色が違うんだよ! さぁ! 死ねっ!」
「!!」
俺は傷口に唇を当てて吸う! 凄まじい吸引力! 俺は血管に入った毒素をまるごと吸い取った!
俺は口の中に毒素を吸い出しそれを……ぺっ! っと国王の顔に吐き出した。
ベチャ! 国王の顔面に当たる俺の毒入りのツバ。
「うわあああああああああ!!!!」
国王が叫ぶ。
だが、国王は寸前で目を瞑ったため目に毒が入るのは防いだようだ。
「お、お前! き、キリングマシーン!!」
国王は叫んだ。すると宝物庫に置かれていた機械の目がピキーーン!! と光り起動した!
「コマンド……命令してください」
キリングマシーンはそう機械音で言う。キリングマシーンは俺の前に立ち塞がった。
「あいつだ! あいつを殺せ!」
国王は俺を指さした。
「ぴぴぴ……戦闘力を測定しています。……測定完了。彼我の戦力差……莫大!! コマンド実行不可能。ワタシが勝利出来る確率は0.00000000001%。彼を殺すことは論理的、物理的に不可能です」
キリングマシーンが言う。
「おっ! お前なにを言っているんだ! このポンコツ!」
国王が叫ぶ。
するとキリングマシーンは怒ったようだ。
「申し訳ありません。ですが絶対に敵わない敵を殺すように命令する方がポンコツであるとワタクシは考えます」
「ふざけるな! このポンコツ! ポンコツは死ねっ!!」
国王が叫んだ。
「承知いたしました! コマンド受諾……これよりポンコツを殺戮します」
と言うとキリングマシーンは銃口を国王に向けた。
「えっ? ちょっと待って! オイ!」
ドドドドドドドド!!!!!!
レーザーカノンが何発も国王に撃ち込まれた。
「……」
え? なにが起こったんだ。国王が死んだ?
するとキリングマシーンが俺に近づいてきた。
「マスター。ご命令を……」
「あぁ……」
俺は龍玉と『太陽と月の誓いの指輪』を持って城のバルコニーに出た。キリングマシーンも一緒だった。そこにはサシャ達も集まっていた。国王に身分の改善を求めにきたんだ。
「おお! それは龍玉!」
ドラゴンマザーが俺のもとに飛んでくる。俺は龍玉をドラゴンマザーに渡した。
「みんな! 聞いてくれて!」
俺は叫ぶ。下には生き残った三級市民。そして、空にはドラゴンたちが居た。そしてミラーカやエリスもドラゴンに乗り俺を見つめていた。
「巨悪の根源である国王は死んだ。このドラゴンと人間の争いその全ての原因は前国王にあったのだ! 国王が自ら龍玉を盗みこの争いの種を蒔いた。それにより国民は疲弊し、多くの人々、また多くのドラゴンが死んだ。それはなぜか! それは前国王が貪欲であったからに他ならない!」
空にいる全てのドラゴンと人びとが固唾を飲んで俺を見守っている。
「これからはドラゴンと人間! 共に共存出来る社会を目指そう! 恨みの連鎖は前国王の死を持って断ち切られた。差別されることが当たり前の社会ではなく、誰にも虐げられずに自分の人生を謳歌出来る社会にしよう! ドラゴンたちも人間に怯えることなく、自分の人生を生きていける。そんな社会にしよう! そんな未来を作るためにみんなの力が必要だ! みんなどうか力を貸してほしい! 私が国王として君臨し、ともに素晴らしい国を作ろう! ここに新しい王国を宣言する! ウォード王国だ!」
すると
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
と歓声が巻き起こった!
ドラゴンたちも
「ゴオオオオオオオオオ!!!!!」
と雄たけびを上げている。
「先生……」
「先生……」
エリスとミラーカも感極まったのが涙目だ。
「アーーーーサーーー!!!」
「アーーーーサーーー!!!」
「アーーーーサーーー!!!」
「アーーーーサーーー!!!」
「アーーーーサーーー!!!」
「アーーーーサーーー!!!」
国王たちの声が聞こえる。自分でも思いもしなかった。セクハラで職場を追われた俺がまさか、ドラゴンと人間が共存する国の国王として君臨するとは……人生とは……どうなるか、分からないものだ。
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