過去の思い出 アーサー先生のことが好きです
「なんですか! それ! 本当ですか?」
エリスは俺の話を聞いて激怒している。
ここはエリスの実家。ナイトブリッジ家の屋敷。俺はそこに来ていた。暴漢からエリスを助けた俺はエリスに請われ、この屋敷に客として招かれていた。
「ひどい話だな。全く。レイモンドならやりそうなことだな」
ミラーカがそう言う。
俺はエリスとミラーカの三人で向き合って話をしていた。この二人は俺の元教え子だ。
エリスは【聖女】のスキルを持っている。いわゆるSSRスキルだ。多くの能力は謎に包まれているが俺を助けるときに見せた、ゴッドハンド。などの特技を有している。大きな胸とお尻を有している。
ミラーカはいわゆるボクっ娘のヴァンパイアロードだ。【不死】のこれまた類まれなるスキルを持っている。特技は吸血時のエナジードレインなどがある。実は俺よりはるかに歳上らしい。胸やお尻はぺったんこだ。
「で、そのニナって人が先生に無理やりキスをしてきたんですか?」
とエリスが俺に紅茶を勧めてくる。
「ありがとう」
俺は紅茶を受け取る。
「そうなんだ。一人でトイレで吐いているところを介抱したら無理やりキスをされてしまった。でその時に口止めをされたのだが、それに応じてしまったのが良くなかったな」
俺は自分の行いを振り返る。
「酷い! 私だって先生とキスをしたことがないのに!」
エリスが怒る。
「ボクだってないぞ」
ミラーカも怒る。
え? 怒るとこそこ?
「つまりは三人にハメられたんだよ。レイモンドはアガサ学長もたぶらかしているみたいだ」
俺は紅茶をすする。
「もう! アガサ学長もレイモンドもそのニナって先生も全員気持ち悪いですね! 吐き気がします。人間そこまで醜悪になれるんですね!」
エリスは怒っている。
「そもそもアルケイン魔法学校は国立の学校だろ? そんな下半身の事情で人事が決まるなんてな。そのアガサ学長も仕事に対する誇りがないんだな」
辛辣に言うミラーカ。まぁ全くその通りだと思う。
「なんだか……自分の今までの仕事が否定されたみたいだったよ。俺が生徒たちに必死に向き合い生徒たちの将来のことをいつも考えていた。でも、あの学長は教職員同士の悪口や陰口で人物を評価していた。それをまざまざと見せつけられたよ。今までの頑張りも成果もたった一つの嘘で全部なかったことにされる」
俺は弱気になって愚痴をこぼす。
「先生は今まで頑張ってました。私見てましたから。アーサー先生。生徒たちから凄い人気だったんですよ」
エリスが微笑みかける。
「そうだったな。特にボクたち女子生徒からな」
嫌味っぽくミラーカが言う。
そうだった。俺はなぜか背中に冷や汗をかいた。俺は過去。この二人の教え子に好きだと告白されていた。
思い出す。夕焼けの校舎で……エリスはこんなに垢抜けて居なかったと思う。メガネをかけて大人しい印象だった。
◇
「先生聞きたいことあるんですけど」
まだ学生の時のエリスはよく俺に質問をしていた。
授業終わりの質問時間、俺はよくエリスから質問をされていた。
「圧縮魔法とはいわゆるスペルの圧縮だ。高速詠唱とは違う。一瞬のうちに全てのスペルを」
俺が説明していると
「好きです」
「スペルを……えっ?」
「アーサー先生のことが好きです」
いきなり静止する時間。時計の音だけがカチカチと刻まれる。エリスは全くの突然に俺に告白をしてきた。エリスは自分の言った言葉に真っ赤になってうつむいている。
「えっ? あの続きを言ってもいいかな? 圧縮魔法の説明なんだけど」
俺は聞く。
「あっ! はい。お願いします!」
なぜかテンション高めで返事をするエリス。
俺はその時告白の返事そっちのけで圧縮魔法の説明を続けた。
別の日
「先生! ずっと待ってるんですけど! 返事がまだだったので聞きにきました!!」
なぜかペンギンのように手をぴょこっと上げてお辞儀をするエリス。
「エリス。返事ってなに?」
俺は聞いた。
「あの……告白しましたよね。好きだって」
エリスが聞く。
「あっ! あれか。普通に無理だよ。だって俺教師だし」
俺は普通に答えた。
「えっ?」
「だって分かるじゃん。無理でしょ。そりゃ。先生と生徒だよ?」
俺は笑う。
「えええええええええええ!!!!!!!!」
と叫ぶエリス。
「ははは」
笑う俺。
「まぁ無理だって分かってこれで余計な心配しなくて済むだろ? これからは将来のために勉学に励んでくれたまえ! 目指せ首席卒業! エリス・ル・ブラン・ド・ ナイトブリッジ君。頼んだぞ!」
「あ……はい……」
エリスは呆然としている。
俺はそう言ってその場を去った……気がする……
◇
俺は現実に引き戻される。
俺のことを恨んでいるだろうか。エリス。この笑顔の裏になにがあるのか……
俺はニコニコしながら俺を見つめるエリスを見る。ミラーカからも告白されていたがそれはまた後日に語ろう。
「先生どうしたんですか? さっきから黙りこくって」
エリスが言う。
「あぁ……昔のことを思い出してね……」
俺は冷や汗を拭いた。
「じゃあそろそろおいとまするよ。紅茶ありがとう。じゃあ」
と言って急に気まずくなった俺はナイトブリッジ家を去ろうとする。
「先生! 待ってください! 紅茶ならまだまだ良質な茶葉があるんです!!」
エリスが体を張って止める。
「そうだ! まだ話は終わってないぞ! 座るんだアーサー!」
と俺を椅子に戻そうと手を引っ張るミラーカ。
「先生! 今度こそ逃しませんよ!」
エリスが言う。
「あ……あぁ」
俺は促されるままに席に戻った。
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