レオモンドとの対立
ここはモントバーンの街。俺たち街を守護するチームはなぜか喧嘩をすることになってしまった。理由はリーダー争いだ。レオモンドが自分がリーダーであることを周囲に認めさせるために俺に決闘を申し込んだ。その決闘のための剣を俺は間抜けにも受け取ってしまったというわけだ。
「うおおおお!!!」
観衆が叫ぶ。
俺がミヤビのマテリアライズされた刀……村正を持って冒険者ギルドを出ると観衆は俺にそう叫んだ。
「なんだ……あの曲刀……かっけぇ……」
「あれはカタナじゃねーか! 軽く一振りするだけで相手の首が吹っ飛ぶって……」
「武器まで変えて……ヤバイ……あいつ……本気でレオモンドを殺すつもりだぜ……」
なんだか周囲が誤解している。
そんな俺を見てレオモンドはピクピクと顔を歪ませている。
俺とレイモンドは観衆にグルリと取り囲まれて二人対峙した。
「なぁ……お前後悔するなよ。これは決闘だからな。どちらかが必ず死ぬ……それを分かってんのか?」
レオモンドは震える声で俺に聞いた。
「えっ? 最初からそういうつもりだったんじゃないのか?」
俺が聞くと周囲から
「うおおおおおおおおおお!!!!」
という歓声が起こった! いや、なんなんだ。一体。
「よしっ! でははじめ!」
決闘の合図が鳴った。レオモンドがスラリと俺の方に剣の切っ先を向けてくる。
俺も刀を抜こうとした……だが……抜けない。え? どうして……
駄目だ! なんど引っ張っても抜けない!
このままじゃ……
「キェエエエエエ!!」
レオモンドが俺の頭に向かって剣を振り下ろしてきた!
「!!」
なんだこれは……レオモンドの剣の切っ先がまるでスローモーションのように俺に振り下ろされるが……遅い。いや、遅すぎる!
俺は観衆の方も見る。まるで時が止まったようにみんながゆっくりと動いている。周りの驚いたような表情。レオモンドの剣を振り下ろす時の間抜けな表情。
時が止まったようになる。いや、まだ剣が振り下ろされてないのかよ!
俺はレオモンドの剣の切っ先を何度も見る。俺はゆっくりと体を動かしレオモンドの背後に回った。すると次の瞬間!
「うおおおおおお!!」
観衆の歓声が聞こえる。時が再び動き出す!
ヒュン! レオモンドの剣が振り下ろされる。だが俺はもうそこにはいない。
「えっ! なにっ! あいつは……」
レオモンドはキョロキョロしている。
そして
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
と観衆が大声を上げた。
「えっ? おおお!!」
レオモンドが後ろを振り返ると背後に俺が居た。レオモンドはビックリしている。
「お前……いつの間に……!」
レオモンドは焦っている。
「おい。今の見たか!」
「気がついたらアーサーがレオモンドの背後に……」
「なんなんだよ。あのスピード……」
驚く観衆。
「お前! いまなにをした! お前さては禁断魔法を使ったな!?」
レオモンドは俺を怒鳴りつける。
「は? なんの話だ。魔法を使っちゃ駄目なのかよ。そんなの聞いてないぞ!」
俺は反論すると
「駄目に決まってるだろうが!! ルールを破った罰として一回俺に斬りつけさせろ!」
レオモンドが怒鳴る。
すると観衆から
「ふざけんな! ルールなんて聞いてないぞ!」
「ビビってんじゃねーぞ! レオモンド!」
「後付でルール決めてんじゃねーぞ! 卑怯者!」
「勝手に罰決めてんじゃねーぞ! ゴミ!」
とレオモンドに対して口々に罵声が浴びせられる。
「あ……あ……」
レオモンドが周囲の観客の反応を見て青ざめる。
しかし……今の超反応は一体なんだったんだ……すると脳内でミヤビの声が聞こえる。
「今。あんさんの中で魔王が少しずつ目覚めてるんや。まるでサナギから蝶になるようにな。今はまだサナギの状態やけど……この剣を抜いたとき……あんさんは魔王として覚醒する」
ミヤビが説明した。
「おい! お前ら! ギルドの前でなにやってんだ!」
野太い男の声が響いた。
俺たちはそっちの方を見る。すると髪を短く切りそろえた筋骨隆々の男性がそこにいた。
「ディドリッグ!……さん」
レオモンドが男の名前を言う。
「こんなギルド前で喧嘩なんかしやがって! 公衆の方々に邪魔だろうが!」
怒鳴りつけるデイドリッグ。
「あの人誰だ?」
「この街のギルド長のデイドリッグさんだよ」
ヒソヒソ話し声が聞こえる。
「ディドリッグ……さん。こいつが俺の剣を受け取ったんです! これはゲッシュの誓いなんですよ!」
レオモンドが言う。
ゲッシュの誓い? またよく分からんことを……
「おお! そうか! ゲッシュの誓いか! 今どきゲッシュの誓いを立てる奴なんていたんだな」
デイドリッグは笑った。
「ゲッシュの誓い? ってなに?」
俺は横目でギャラリーに聞いた。
「決闘の……」
男がそう言いかけると
「ゲッシュの誓いってのは男同士の決闘の誓いのことだ。新郎新婦が神の前で誓うように二人の男が殺し合いのために誓い合う。戦い神の前でな。相手が健やかな善人であろうが、相手が病んだ悪人であろうが、共に憎み殺し合うことを神に誓う決闘の儀式のことだ」
デイドリッグが被せるように言った。
う……なんだそりゃ……
「そうか。そうか。男と男の勝負ならしょうがねぇなぁ。よし俺が決闘の神父をつとめてやるよ!」
デイドリッグは言う。するとビクッ! っとレオモンドが怯えた。俺はレオモンドを見るがレオモンドはプルプル震えている。
「えっ? どういうことだ」
「ゲッシュの誓いは神父の前で誓われると正式な契約になるんだ」
「いや、デイドリッグさん……これは……分かるでしょ? そういうガチの奴じゃなくて……なんちゃってゲッシュの誓い……みたいな感じなんすよ!……ただこいつに分からせたいだけなんですよ。本気で殺し合うとか、そういうんじゃなくって。嫌だなぁ! マジになってる感じっすか?」
レオモンドは震える声で笑う。するとデイドリッグはレオモンドの前にズイッっと進み出て顔を見合わせる。
「は? 何いってんだオメェ。殺すぞ」
と言ってレオモンドを睨みつけた。
「ハァワァ!」
レオモンドがビビリ散らかす。
「男と男の勝負だろうが! 神々が見ている殺し合いの場でふざけてんじゃねぇぞ! 誠意を込めてちゃんと殺し合え!」
デイドリッグがレオモンドの眼前でそうツバを飛ばす。
「ひぃ……はわわ……」
レオモンドはビビリ散らかしている。
「しかし、お前なかなかのもんだな。今どき決闘を受けるやつなんていないぞ。お前のような男気を持った奴が今でもいるんだな」
と俺に向かって微笑みかけるデイドリッグ。俺は突然に褒められなんだか妙に照れる。
「よし! じゃあオメェら! この勝負は俺が預かる! どっちかが殺し合うまで勝負だ!」
デイドリッグがそう言うと観衆が
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
と沸いた!
レオモンドは顔が青ざめている。
「よし二人とも神父の前にこい」
デイドリッグはそう言って俺たちを手招きする。
「お前名前は?」
デイドリッグは俺に聞く。
「アーサーです」
俺は答えた。
「それでは戦士アーサー。そして戦士レオモンド。神の御前において。あなた方は戦士として全力を尽くし殺し合うことをここに誓いますか?」
神父デイドリッグは俺たちに聞いた。
「誓います」
俺は答える。
「ち! ち! ちっ! 誓います!」
レオモンドは焦りながら言う。
「健やかなる時も、病める時も、相手が善人でも、相手が悪人でも、共に憎み殺し合うことを誓いますか?」
「誓います」
「ち。ち。ち。ちかまーしゅ」
レオモンドは語尾が消え入りそうに言う。
「相手が金持ちでも、相手が貧乏人でも、相手に子供が居ても、その子供が目の前で泣き叫んでいても、必ず相手を殺し息の根を止めることを誓いますか?」
「誓います」
「ち。ち。ち。ちまっ! ちかまっ!」
レオモンドはもはや発音出来てない。
「神々の御前で例えどんな邪魔があろうとも相手を殺しその魂を神々に捧げることを誓いますか?」
「誓います」
「ち……ちかっ! ちかっ。ちかっ」
レオモンドはもはや放心状態だ。
するとデイドリッグの人差し指が光った。その光りが二つに分かれて俺たちの右手の薬指にパシュ! っと飛んだ。
「!」
俺とレオモンドの薬指には……これはウロボロス? 指輪か? 自分の尾を咥えようとして円になっているドラゴンの入れ墨のようなものが刻まれていた。
俺はそれをマジマジと見る。
「このウロボロスの紋章は誓いの証だ。もし誓いをやぶり逃げ出したり、相手にトドメを刺さなかったりすると、そのウロボロスが動き出してお前らの心臓を食い破る」
デイドリッグは言う。
「ひいっ!」
レオモンドは怯えている。
「では! 再び始め!」
デイドリッグがそう言うと観衆が
「うおおおおおおおおおお!!」
と叫んだ。
「はぁ……はぁ……」
と激しく息をしながら剣を俺に向けてくるレオモンド。全身汗だくじゃないか。
「うおおおおおお!!!!」
とレオモンドは俺に剣を振るってきた!
だが! やっぱり遅い! ゆっくりだ。レオモンドの剣が止まって見える。これが魔王の力なのか。俺は鞘に入ったままの村正を振ってレオモンドの剣を弾き飛ばす!
ガチャン! ガチャ!
ふっ飛ばされる剣。
「おい! 拾え!」
デイドリッグが叫ぶ。
レオモンドはヨロヨロと自分の剣を手に取る。
レオモンドは顔は青ざめている。体は小刻みに震えていた。こんなハズじゃなかったとでも言わんばかりに。
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