リーダーを巡る無益な争い
「それでは行ってきます」
エリスとミラーカたち討伐チームは俺に手を振る。俺もそれに手を振り返した。ここはモントバーンの街の入口だ。
ヴァロンド遺跡に向かう討伐チーム。俺はその背中に向かって手を振った。俺はエリスたちと離れて街を守護するチームに入った。ここから守護チームと呼ぶ。
守護チームのメンバーの男が突然言い放った。
「あーー。かったりぃなぁ。街の守護なんてよ……なぁ。そう思うだろう?」
男は隣の男にそう告げる。
「そうだな。レオモンド」
隣の男はそう答えた。
レオモンド? 元いた魔法学校のクズ教師レイモンドに名前が似てるが……
「よしっ! みんなー帰るぞー。冒険者ギルドに」
とレオモンドがそう言うと守護チームのみんなは意思を失った亡者のようにレオモンドに着いていく。
えっ? どうしてこんなにやる気がないんだ。自分から自発してこのドラゴン討伐クエストに参加したのに。
俺たちは冒険者ギルドに戻った。
◇
冒険者ギルドにてレオモンドが告げた。
「今から俺がリーダーな」
驚く守護チームのみんな。
えっ? こいつなにを言ってるんだ。そもそもこいつ誰なんだ。
「タージ・ハーが居なくなってせいせいしたぜ。あいつドラゴンに殺されちまえばいいのにな」
レオモンドが言う。静まり返る周りの人々。タージ・ハーは討伐チームに入ってここには居なかった。
レオモンドは集まっている俺たち守護グループを指差しで言う。
「えーーそこのお前たち。西門な。そこのお前ら東門。後は街の人たちの交通誘導しといて。はい。よろしくぅ!」
レオモンドはそう言う。全員からどよめきが起きる。どうしてこんな奴に指示されないといけないんだ。
「なんやあれ。いちびりやなぁ。あいつ」
ミヤビが俺に耳打ちする。いちびりとは調子に乗ってる奴という意味である。
「あなた一体だれですか? どうしてあなたに指示されないといけないんですか。適正な指示かどうか分からないのに!」
女性冒険者がレオモンドに反論する。
「いやいや! あのさぁ! 俺『雷光のライトニング団』のレオモンド様よ? お前知らねーの? お前こそ誰だよ!」
とレオモンド様が言う。いや雷光とライトニングってどっちも言葉一緒の意味では?
「とにかくさぁ。俺ら『稲妻のライトニング団』はお前らがちゃんとキリキリ働いてやるか、ここで監視しててやるからよぉ。とっとと街に行って働けぇ?」
レオモンドが言う。
「お断りです! よく分からない人の指示で死にたくありませんから! みんな行こっ!」
と女性冒険者のクランは冒険者ギルドから立ち去ろうとする。
「おい! どこに行くつもりだぁ?」
レオモンドが聞く。
「私たちは私たちのやり方で街を救います!」
と返す女性。
「は? 俺に逆らったらどうなるか分かってんのか? あ? 俺ここの街の首長と友達なんだけど」
レオモンドが脅しをかける。それにも関わらず女性冒険者はレオモンドを睨みつけると、その場から立ち去った。
「ふん。全くこれだから女は……」
レオモンドは不敵に笑う。
驚くくらい空気が悪い。
「えっ? お前さぁ! ひょっとして魔法教師のアーサー?」
とレオモンドが突然俺に声をかけてきた。えっ? どういうことだ?
「アルケイン魔法学校のアーサーじゃん! うわぁ! こんなとこで会えるとは」
と言いながらレオモンドは俺の方にツカツカ歩いてくる。
いやお前なんか知らないぞ。俺は。
レオモンドは俺の前に立った。
「なぁ。セクハラでクビになったアーサーだよな」
大声で俺に言う。は? こいつなにを言ってるんだ。
「俺レオモンド・クザンだよ。イトコのレイモンドが世話になったな」
のレオモンドが言う。
え? こいつ俺をハメたレイモンドの従兄弟かよ! レイモンドとレオモンドで名前も似てるし……やっぱり、似たような名前のやつは似たようにクズなのか……
するとレオモンドは俺の耳もとに口を近づける
「過去のことバラされたくなかったらお前俺の味方をしろ」
と小声で俺に言う。どうやら賛同者が少ないので俺を仲間に引き入れようとしてるようだ。
「はぁ? なに言うてんねん! あんた! 卑怯なこと抜かすな!」
ミヤビが俺のために怒った。
「お前本気でなにを言ってるんだ! 街の人々を守るんじゃないのかよ! こんなところで権力闘争をしてる場合じゃないだろ!」
俺は答える。
「……!!」
レオモンドは腹が立ったようだ。
「じゃあお前にこれが受け取れんのかよ!」
レオモンドは一振りの剣を俺に差し出した。? なんだそりゃ。剣を渡されても……俺はレオモンドから剣を受け取ると
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
と周りのみんなから一斉に声が上がった。ビクッ! 俺は驚く。なんなんだみんな。レオモンドも俺を見て驚いている。
「決闘だ!」
「リーダーの座を狙って決闘するなんて!」
「まさか受け取るなんて」
「おいおい! これは見ものだぞ!」
口々に言う観衆。
えっ? 決闘? なんの話だ?
「そっ! そうか。お前がそのつもりなら分かった。決闘してやろう!」
レオモンドも焦っている。まさか俺が剣を受け取るとは思って無かったのだろう。
「よしっ! 全員表にでるぞ!」
と誰かが言うと街を守護するグループが一斉に外に出た。
「すげぇな! あんた。リーダーの座を狙って殺し合うなんて!」
「まさかあの剣を受け取るとは思わなかったよ」
冒険者が通りすがりに俺に声をかける。
「えっ? 剣を受け取ったからなに? どうなるの?」
俺は聞いた。
「えっ? 知らなかったのかよ! お前……この国では剣を受け取ったらどちらかが死ぬまで殺し合うって意味だぞ!」
「えっ?」
「お前……知らずに受け取ったのかよ……ま、頑張れ」
と言ってその男は俺を慰めるように肩に手を置いた。
「まぁ。謝れば許してもらえると思うから……まぁとりあえず謝っとけば?」
と別の男も俺にそう言った。
は?
文化の違い?
なにそれ。いやいや文化の違い恐ろしすぎでしょ。剣を渡しただけで決闘って。武器屋の親父とかどうしてるんだよ。
「なんや。偉いことになってもうたなぁ。あんさん。決闘するんえ?」
ミヤビは俺に聞く。
「なんかそういう流れになってしまったな……」
「ま、あんさん。魔王さまやからなぁ。楽勝やろ」
ミヤビは言う。
「その……魔王様って一体なんだよ。俺。魔王になった覚えなんてないぞ」
俺は言う。
するとミヤビは俺に顔を近づけて言った。
「ええか? あんさん。人間だれにでもな、逃げられへん戦いがある。そこから逃げてしまえば一生負けたままの人生や。勝負に負けても心で負けたらあかん。これが大事や」
ミヤビは俺に言う。
「ミヤビ。こんなしょうもない戦いが逃げられない戦いなのか? こんな内輪もめが? 市民を放ったらかしにして、ドラゴンそっちのけで闘うことが?」
俺は聞いた。
「そや。あんさんは今までエリスはんや、ミラーカはんに守られてきた。今度はあんさんが闘う番や。あんさんのことを舐めてる奴に思い知らせんとなぁ。アーサーはんも一人の男なんやって。あんさんやったらできるハズや。なんやゆうても、うちの御主人様やからな」
ミヤビが言う。
「そんな……」
「あんさん。心の中に闇を抱えてるな。古い心の傷が残ってるんや。自分には無理やと思うてるんやな。自分は闘う必要はないと。だから、その言い訳に過去の記憶を使ってるんや」
ミヤビは言う。
「一体……なにを……」
「うちの胸に手を当ててみて」
ミヤビが言う。
「えっ?」
胸を揉めと?
「ええから」
と言ってミヤビは俺を急かした。俺はミヤビの胸に手を置いた。
「あんさん。昔うちを一振りの刀から人間にしたやろ? その力があるんやったら逆のこともできるハズや。うちを一振りの刀に戻してほしい」
ミヤビは目を閉じる。
そんな……あの時はたまたま……だがミヤビが俺を信用して……よし! やってみるか。
俺は意識を集中させた。ミヤビの体内魔力の構成要素を把握する。
すると
「巨大な魔力を検知しました。マテリアライズを実行しますか?」
と脳内から声が聞こえる。
「頼む!」
俺がそう言うとミヤビの体が発光したかと思ったら急に眩い光に包まれる!
そして! ミヤビの体は光の塊になりその光は変形して日本刀の形になった!
巨大な魔力を秘めた美しい装飾が施されている曲刀。
俺はそれを手に取る。
するとその日本刀から脳内にミヤビの声が流れてきた。
「この刀を使ってあんたの本当の力を見せて!」
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