危機一髪 エリスの能力発動!
ドラゴンの咆哮が聞こえる。ミラーカとエリスは子供を助けに走る! だが俺は……クソッ!
足が震えている。駄目だ! 俺は動けない! 怖い! あのドラゴンの声が!
まだあの時の……俺は思い出していた。抱きしめ合いながら黒焦げになった二人を。一歩も動けない。ノドがカラカラだ。足が言うことを聞かない!! 俺はまだあの時の記憶が……
子供の方に向かうエリスとミラーカはチラリと俺の方を振り返り見るとそのまま前を向いて走り出した。
「キミ! 危ない! ここドラゴンが来るよ!」
子供にエリスが言う。子供はキョロキョロとしてよく分かっていない様子だ。
エリスは子供を抱きかかえる。
「ギャオオオオオオオオオオオ!!!!」
ドラゴンが街に降り立った! 過去に見た光景が俺を襲う! これはまるであの時の再現だ! 過去にも同じようにシモンが大人の男性に抱えられていた。だが、そのまま……駄目だ! 動かない!
エリスとミラーカはドラゴンから逃げ出した! だが!
ゴオオオオオオオオオオオオ!!!
ドラゴンが強烈なブレスを吐いた。その炎のブレスは地を這うようにエリスとミラーカに襲いかかる!!
駄目だ!! 逃げてくれ! 二人とも!
「ミラーカ!」
エリスは抱えている子供をミラーカに渡した。そしてエリスはドラゴンの炎のブレスに真っ正面から向きあった!
エリスに迫る炎!
駄目だ! エリスが死ぬ! 俺は指先さえ動かせない。
その瞬間! 一瞬時が止まる! 周りが白黒の世界になる! エリスに迫っていた炎のブレスがギリギリで動きを止めた。まるで時間が止まったようになる。
ドラゴンも静止している。俺もエリスやミラーカも炎でさえも!
するとドラゴンの背後になにやら巨大な門が出現した。それは巨大なドラゴンよりももっと大きな門だった。それはおどろおどろしい門で様々なドクロや人の骨のようなもので装飾されている。
その門がズズズ……と開いた。するとその門の中から巨大な黒いヘビが無数に出てきた!
そのヘビがドラゴンにガブリと噛みつく。そして無数のヘビがドラゴンに絡みついてズズズ……と門の中に引きずり込んだ! 巨大なヘビはエリスに迫っていた炎さえ巨大な口で吸い尽くす。そしてドラゴンとドラゴンが吐いた炎を食べて門の中に戻る巨大なヘビ。
バタン! と閉められる巨大な門! すると瞬間時が戻った。
!! 俺は自分の手を見る。何だったんだ! 今の力は。
「うわああああ!!!!」
と子供が泣いている。
「よーしよし。大丈夫だぞ。お姉さんが悪いドラゴンを倒してくれたからな」
ミラーカ。エリス。そして子供たちは無事だった。
「すいません! うちの子が!!」
駆け寄る母親。
「ママーーー!!」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
何度もお礼を言う母親。
「子供に怪我が無くて良かったです。ボク? 次からサイレンが鳴ったらどうすれば良いかな?」
エリスが子供に聞いた。
「うん! お母さんと一緒に逃げる!」
子供が言う。
「本当にこの子はちょっと目を離したスキに……すいません。すいません」
母親は何度も謝る。
「無事で良かったです」
エリスは子供に微笑みかける。
俺はそれを震えた足で遠巻きに見ていた。
◇
「えらい怯えてはったやないのぉ。ドラゴンがそんなに苦手なん?」
ミヤビが俺に聞く。
「一体どうしたんだ。アーサー。昨日もドラゴンの声で汗びっしょりになって」
ミラーカが言う。
俺たちは昼飯のためにこの街のレストランに来ていた。丸いテーブル席を囲むように俺たちは座る。
俺は話し始めた。
「実は昔……子供の頃に目の前で友達がドラゴンに殺されて……それからずっとドラゴンが怖くて……エリスが子供を抱きかかえた瞬間昔のことが急に思い出して……動けなくなってしまった」
俺は言う。そして続けて言った。そのトラウマが原因で冒険者になろうとしたことも。未だにその恐怖から逃れられてないことも。
「そうか……色々あったんやな……大変やな……アーサーはんも」
ミヤビが俺に同情する。
「そっか。それで教師になろうと思ったのか……」
ミラーカが言う。
俺はみんなに言わなければならないことがあった。俺はドラゴン退治に不適格だ。心に傷を抱えている。俺はなんとかエリスやミラーカのサポートぐらいは出来るかなと思っていたが……このままでは……足手まといになってしまう。だから俺はこのドラゴン討伐には参加出来ない。それをみんなに言わないと……俺は唇を噛みしめる。
「大丈夫です。心配しないで下さい」
エリスが言う。
「えっ?」
俺は聞く。
「心に傷を負った人は人に優しくなれます。自分と同じ傷を他の人に負って欲しくないと思うからです。だから先生は立派です。アーサー先生は自分の苦しみを誰かの幸福に変えられる人ですから。だから私はアーサー先生のことが大好きです」
エリスは言った。
「あ……」
俺はこの言葉を聞いてなんだか泣きそうだった。
俺は昔、誰かに八つ当たりをしたいと思ったこともあった。なぜ、自分だけがこんなに苦しい思いをしているのかが分からなかった。それで周りの幸せそうな人間を恨んだりもした。
だが、それをなんとか乗り越えてきた。エリスにその俺にしか分からない努力を認められた気がした。
「ありがとうエリス。エリスに出逢えて良かった」
俺は言う。
「私もです。ところでアーサー先生? 先生に感謝よりももっと言って欲しい言葉があるんですが……お返しに好きって言ってください」
エリスは俺を見て言う。
「え? うん。好きだよ。エリス」
俺は言う。
「んんんんん!!!!」
エリスは顔を真っ赤にして喜んだ。
「ええ! ズルいぞ! ボクにも言ってくれ!」
ミラーカが言う。
「え? そんなんうちだけ仲間入りハズレは嫌やわぁ。なぁうちにも言うてぇ」
ミヤビが言う。
「うん。みんな好きだよ」
俺が言うと。ミラーカやミヤビも
「んんんんん!!!」
と顔を赤らめた。
「じゃあ。あーーん」
三人が一斉にフォークで俺の口に食べ物をあーーん、しようとしてくる。
「あーーん」
三人から食事をもらう。多少周りの目が痛かったが……
俺はこの幸せな一時を楽しんだ。
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