過去の悪夢
ちょっとハードな描写になりますけど
これは主人公覚醒までの前フリです。
必ずカタルシスを用意しますのでそれまでご辛抱ください。
20年前
アーサーがまだ六歳の時
足がガクガク震える。パチパチ……バリン! ガシャン! バチバチバチ……
家が燃えガラスが割れる音がする。ドラゴンが村を襲い村が焼かれていた。ここはリシュリューの村。俺の生まれ故郷だ。
「ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
地鳴りのように鳴り響くドラゴンの咆哮。
「うあああああ!!!! ああああ!!!」
泣き叫ぶ赤ん坊。俺たちは家の中に避難していた。家と言っても知らない人の家だ。俺の家はとっくにドラゴンに燃やされていた。
俺が避難していた屋敷は耐火性の魔法効果がほどこされていた。だからみんなそこに逃げたのだと後で母親から聞かされた。
衛兵たちの指示でもあった。ドラゴンは上空から逃げ惑う村人を見ると衛兵そっちのけでそちらの方を狙う。だから逃げずに屋敷内に留まって欲しい。と言われた。
だが、これは後から聞かされたのだが、この魔法効果もほとんど意味のないものだったらしい。ドラゴンの炎に対抗できるレベルのものではなかった。この家の中には30人ほどの人。それが良くて酸欠死。悪くて自分や自分の家族が焼かれる音を聞きながら死ぬことになる。
まだ六歳だった俺はガクガク震えていた。なにが起こっているのか状況が飲み込めなかった。
「アーサー。衛兵さんが悪いドラゴンを倒してくれるからね。だから安心して」
俺の母親が俺を抱きしめた。母親の腕もプルプル震えている。怖いのだろう。
「駄目だ! みんな死ぬ! みんな死ぬんだ! ドラゴンにやられてみんな死ぬんだよ!」
半狂乱になって叫ぶ男。
「ふざけるな! 子供がいるんだぞ! よくもそんなデタラメを!!」
別の男が叫ぶ。
「うああああ!!!! ああああ!!!!」
泣き叫ぶ赤ん坊。
「ここにいちゃ駄目だ! いずれドラゴンが俺たちを殺しに来る!!」
男が叫ぶ。
「いや! ドラゴンは俺たちを襲わない! ドラゴンは財宝を盗まれたことに怒っているんだ! だから攻撃されるのは国王とその兵士だけだ! ドラゴンは知性ある生き物なんだよ! だから……」
インテリ風の若者が言う。
「ふざけるな!! あんなケダモノに知性なんてあるかよ!! あんな化け物に人間の区別なんてつくかよ!!」
怒鳴る男。
「うわあああああ!!! あああ!!」
火のついたように泣き叫ぶ赤ん坊。
「おーーよしよし。怖くない怖くない」
子供の母親が子供をあやした。
「どうしたの? 足が痛むの?」
俺は目の前にいた男の子に喋りかける。この男の子は俺の昔からの友達。シモンだった。屋敷内では大人たちの口論が続いている。
「うん。ガレキに挟まれて……折れたみたい……」
シモンが痛みに耐え笑顔で言った。
シモンと俺の年齢は同じく6歳だった。
「シモン。教会に行こう。教会に行けば治してもらえるよ」
俺はシモンに言う。
「でも今は兵隊さん優先だから……」
シモンは力なく笑う。
「あー!! もううるせえなぁ! そのガキ!! ドラゴンに見つかるだろうが!」
と男の声が響いた。一瞬、自分たちのことを言われてるのだろうと思った俺たちはギョッとしてその声の方を見た。
しかし、違った。
「うああああああ!!! ああああ!!!」
「うるせぇんだよ! その赤ん坊! 早く泣き止ませろ! 俺たちが殺されるだろうが!」
男が叫ぶ。
男は赤ん坊に対して激怒していた。
「赤ちゃんだから……キャーーーやめてー!!」
女の悲鳴が聞こえる。なんと男が母親から赤ん坊を取り上げようとしていた!
「地面に叩きつけて殺してやる!! 」
「キャーーーーーーー!!!! やめてーーーーー!!!」
叫ぶ母親。俺は未だにその光景が目に焼き付いている。
「自分のことしか考えてない奴がよぉ! その赤ん坊のせいで俺ら全員死ぬんだよ!!」
男がそう叫んだ。
すると屋敷の扉をドンッ!! っと打ち破るように一人の兵士が入ってきた!
「!!!!」
みんな驚いてそっちの方をみる。その兵士は全身酷い火傷まみれだった。服にはまだ火がついている。その兵士は言った。
「もう……! ドラゴンを抑えきれない!! 早くドラゴンから逃げろ!!」
と。
すると
「うあああああ!!!!」
と屋敷にいた多くの人が悲鳴をあげた。
「逃げるぞ!!」
「早く逃げ出せ!!」
口々に言って屋敷から逃げ出した。
俺たちに危機を教えてくれた衛兵はそのまま倒れてしまった。倒れている衛兵を平気で踏みつけながら屋敷から出ようとする人達。
「アーサー! 逃げるよ!」
母親が震える声で俺の手を引く。
俺はシモンに手を差し出し
「シモン一緒に行こっ!」
と言う。シモンは笑って俺の手を取った。
人々の流れに合わせて俺たちも屋敷の外に出ようとする。早く逃げないと!! だがシモンは倒れて踏みつけられてグチャグチャになっている衛兵のそばに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
シモンは衛兵に声をかけた。
「……」
衛兵は虫の息だ。
「シモンくん! なにをしてるの!」
俺の母親が金切り声で叫ぶ。
「いと高き神の恩寵を。彼の者に憐れみを与えたまえ。我らの祈りを聞き届け給え。アーケイ神よ。大いなる聖火よ。我らの罪を清め給え。罪を赦し給え」
と小声でひざまずき兵士の焼けただれた手を取った。
これは教会の祈りだった。よく神父が亡くなる直前の人に告げる言葉。魂の救済を願う祈り。
シモンが祈るとその兵士はニコッっと微笑んでそして穏やかに目を閉じた。
「行くぞ! シモン」
屋敷にいた村人はもうとっくに逃げ出していた。俺は急かすように言う。
「うん」
とシモンは俺の手を取った。
屋敷から逃げ出すと
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
と大気を震わせる音が聞こえてきた。ドラゴンの咆哮だ。近い!!
俺たちは必死になって走り出す。だがシモンは足が折れているためかやはり走るのが遅い。
「シモン! 早く!」
「う、うん」
すると
「ゴオオオオオオオオオオオオト!!!」
と本当に間近でドラゴンの咆哮が聞こえてきた。次の瞬間! ドゴォオオンン!!
今まで俺たちが居た屋敷がドラゴンの炎によって一瞬にして炎に包まれた!
「!!」
俺たちは一瞬振り返る! そこには巨大過ぎるドラゴンの黒い顔があった。そしてその口から吐かれる強烈な炎!
「あつっ!」
俺は熱風でノドがやられそうになった。
あと10秒逃げるのが遅れていたら俺たちは死んでいた。
「逃げろ!!」
ドラゴンの瞳が俺たちを覗き込むその前に! ここから逃げないといけない!
俺たちは走る!
だがっ! グンッ! 俺は手を引っ張られる。えっ! 後ろを見たらシモンが倒れていた。
「シモン!」
俺は叫んだ。
「ごめん。足が……」
シモンは足を押さえて痛がっている。
俺はシモンに駆け寄ろうとする! が、
「あんた! なにをやってるの! 逃げるわよ!!」
と母親が俺の手を取り引っ張った。
そして母親は俺を抱きかかえるようにして走る。遠くなっていくシモン。俺たちと同じように街を逃げている人たちがいたが、みんな逃げるのに必死で誰もシモンを助けようとはしなかった。
「大丈夫か! 今助ける!」
と一人の初老の男性がシモンに駆け寄る。俺はシモンから遠ざかりながら
やったこれでシモンが助かる! とホッと一息をついていた。
「大丈夫だからな。よしっ! このまま……」
男性がシモンを抱きかかえると
「ギャオオオオオオオオオオオ!!!!」
ドラゴンの咆哮が響いた!
ゴオオオオオオオオオオオオ!!
ドラゴンの口から炎が吐き出される。
地を這うようにシモンと助けようとした男性に襲いかかるドラゴンの炎!
それが二人の体を……!!
◇
ハッ!!
俺は目が覚めた。またいつもの夢を見ていた。子供の頃の俺のトラウマだ。
あの後……の記憶が曖昧だ。断片的にしか覚えていない。ドラゴンの炎に包まれて二人は死んだ。それは覚えている。
炎に包まれたシモンの顔も覚えている。だが、あまりにショックを受けたためか所々記憶が曖昧になっている。
「う……むにゅう……」
エリスが俺の腕にしがみついて寝ている。俺は無邪気なエリスの寝顔を見る。そうか。もうあの悪夢は過ぎたことなんだ。
「てか、うおっ!」
俺は小さく叫んだ。エリスはほとんど全裸だった。上には毛布がかけられてあったが、もう少しで見えそうだった。
「寝癖悪いのかな」
俺はそう呟くとエリスの体にちゃんと毛布をかけた。
そして暗闇の中エリスの寝顔を見つめる。どうかこの穏やかな寝顔を壊したくないと願いながら。
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