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「ちなみに、この人はなんて出ますか?」


「こちらのご主人ですか?」


「ええ。」


「マリアンヌ様困ります。勝手なことは…」


「オーディン様とおっしゃるのですね。

冒険者。それから、何かの呪いで状態異常起こしておられます。

一時的な記憶喪失と…。

婚約者マリアンヌとあります。」


急に扉の向こうが騒がしくなる。

「どきなさい!って言ってるでしょう!」


多分さっきのキンキラの人だ。

「アジタート様困ります。こちらは今入ることはなりません。」


「あたしが入れないってなんなのよ!私はここの女主人でしょ!」


「いえ、その状況が今変わりつつあります。ですので、入ってもらう訳にはいきません。」


「どきなさいって言ってるでしょー!!」




「あの、鑑定士様。どうしたら呪いは解けるのでしょうか?」


「婚約者の方ですね。一緒に過ごすうちに記憶も戻ることでしょう。

申し訳ありません。私の力ではいつ戻りますとは言えないのです。」


「そうですか。ありがとうございました。助かりました。

大切な婚約者を失うところでした。」


「モデラート様ありがとうございました。」

そういわれて鑑定士の人は帰っていった。


「どうして、オーディンは急に侯爵家を継ぐことになったのですか?」


「それには、私が。この屋敷で執事長をしております。

クリフトと申します。

除籍されたオーディン様に連絡をしたのは私でございます。

実は、半年ほど前から立て続けに当主、奥様、次男、三男とお亡くなりになりまして…」


「疫病か何かですか?そんなに立て続けって」


「いえ、自然死なんです。まるで呪われているかのように…

そして、当主の遺言でオーディン様に継がせることとアジタート様を妻にするようにと」


「おかしくないですか?当主は最初に亡くなったんでしょ?なんでオーディンに継がせるって遺言がでるの?除籍してたよね?その書類筆跡鑑定とかしたんですか?

遺言書の鑑定は済んでます?」


「いえ、あの時は喪に服しておりまして…しかも立て続けの不幸により

呪われてるなどと…は!

モデラート様をお留して!すぐに遺言書の鑑定をしてもらえ!」


「してなかったんですね。あのキンキンおばさんが皆を…ってこともあるんじゃないですか?」


「そんな!でも、いや…まさか!」


「クリフト様、モデラート様が遺言書は遺言書とは表示されないと

偽造された書類と出るとおっしゃってますー!!」


若い使用人が走って来た。


「アジタート様はどこへ行った?」


「ぶつぶつ言いながら部屋に閉じこもられました。」


使用人達が何やら話しているのを見て

しびれを切らせてマリアンヌが

「あのさ、悪いんだけど

オーディン、連れて帰りたいんだけど!」


「マリアンヌ様、困ります。それではこちらの侯爵家が」


「彼は除籍されてたわ。継ぐこと自体がおかしいじゃない。

しかも、今呪われてるのよ。鑑定士さんも言ってたじゃない!

婚約者と一緒に過ごすとそのうち治るよ!って

ここに留まるわけにはいかないの!お店もあるし!」


「お店?!商売してらっしゃるんですか?」


「そうよ!だからすぐにでも、辺境伯様の領地へ帰らないと

オーディンが元に戻ったらまた来させるから

あのギンギンおばさんはとりあえず屋敷から追い出すべきよ。

それだけは確実に言えるわ。

きちんと、裁判でもして罪償わせて。

それから、ここの領地は彼が希望して継がないなら国に帰せばいいんじゃない?

この話は、あくまで私の意見だから彼が正気を取り戻してからになるけど。

それまで、クリフトさんが代行よ。

よろしくお願いします。」


頭を下げたマリアンヌをみて

使用人が一同頭を下げる。


「かしこまりました。オーディン様が正気に戻られましたら

必ず屋敷に来るようにとお伝えください。」


「来たがるかわからないので、正気に戻ったら手紙送りますね。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


「あと、オーディンを着替えさせて。

元の服に」


「かしこまりました。」


しばらく待って、着替えたオーディンが来た

そして、夜ではあるが特別な馬車に一緒に乗って辺境伯様のお屋敷を目指すのだった。


屋敷ではほとんど離さなかったオーディンが真っ暗な馬車の中

「あなたは、私の婚約者なのだな…」


「思い出せないのね。」


「すまない。しかし、鑑定士を呼んでもらえて助かった。

ずっと、苦痛だったのだ。あの女性がずっと愛を囁くのも

ぴたりとくっついてくるのも。虫唾が走った…。」


「ふふっ。前にね、オーディンは言ってくれたのよ。

好きな人から好きだと言って貰うことがこんなに嬉しいのだな。って」


「そうか。」


「私にはね、養子にした獣人の兄妹が2人いるのよ。ロッタとキキって言うのよ。

可愛いの。オーディンはその2人を大切にしていたわ。」


「そうか。」


「影のころに戻ったみたいね。」


「影…?」


「辺境伯様の影してたらしいわよ。何していたかは知らないわ。

影って呼ばれてたから。ある日ね、私の名前は影ではないのだ。って教えてくれたのよ。

私それまで、あなたのこと影さんって呼んでててっきり名前なのかと…ふふっ」


「そうだったのだな…。」


「ブランデー飲んだら思い出すかしら?それともケーキ?それともサンドイッチ…それとも…カレー…」

急に涙が出てきた。

いっしょに食べた食事、助けて貰った思い出、花束を手に照れながらいきなり結婚してくれと言われた日

全部忘れられてしまったこと

このまま戻らなかったら…この状況をロッタとキキが知ったら絶対悲しむ…全部が悲しかった


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃないわ…。」

ぐすぐすと泣きながらどうにか返事をした。


「私のせいなのだな…。」


「どうにか…、思い…出せるようにがんばるから…」


「私も協力する。色々教えて欲しい」


「ええ。」

こうして真っ暗な中御者のシールド魔法と夜目が利く魔法により

特別馬車が辺境伯への道を進むのだった。


冒険者をしていたオーディンだけが月明りのマリアンヌを美しいと思っていた。

覚えていないのに涙を流す彼女を見て胸がチクリと痛んだのだ

なぜだか抱きしめたい衝動にかられた。

その衝動は自制心にて押しとどめられたのだった。




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