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【加筆修正版】イノチノバショ  作者: 蘭 ネリネ
3/5

幕間

 今井財閥。日本国五大財閥の一つ。祖は、戦国時代にかけての商人、今井宗久である。秀吉政権から凋落の兆しがあったが、一五九〇年頃から突如発展。明治時代以降は五大財閥の一つとなり、ありとあらゆる分野に手を伸ばすこととなる。特にこの頃から軍需産業が飛躍的に伸びていく。

 そして現在では、ITから薬なども手がけ総合企業となり、さらには先に発展させた軍需産業の側面を活かし、死の商人として武器の製造と輸出も行っている。

 その今井財閥現当主、今井 燕爾エンジ邸は、神奈川県の相模湖周辺にあり、地上六十階地下十階建ての高層ビルが一棟がまるまる一つ家となっている。


 そんな今井邸に一人の女性が侵入していた。

 その女性は、潜入には全く適さない丈の短いワンピースにカーディガンを羽織り、セミロングより少し長めの茶色い髪をなびかせながら、地下を歩いている。

 そして巨大な鋼鉄の扉に近づき、側面にある端末に手をかける。そしてポケットからスマートフォン状の端末を取り出し、扉にある端末とコードで接続する。

 スマートフォン状の端末からピピッと音が鳴ると、その女性――シャルやアスカと同じく陰陽師である高遠タカトウ 茉莉花マツリカは、

「ぴっぽっぱっと」

 端末にあるテンキーから鳴る音に合わせて、口ずさんだ。

 すると扉が、ゴゴゴゴという重たい音を響かせながら開いていく

「フフン、外からの回線には強固だけど、イントラネットは穴が多いのよねー。潜入されるという意識が欠如しすぎじゃないかしら」

 マツリカは、慎ましい胸をを張り、勝ち誇ったような顔をしながら扉が開くのを待つ。扉の厚さは軽く五センチはあるだろうか。

「なんなの……ここ?」

 扉の先には、屋敷があった。ビルの中に屋敷――それも豪邸がまるまる一つ入っている。

 マツリカは、玄関らしき場所に向かう。腰に装備した、ハンドガンのM45A1を手にする。玄関戸を開けると闇が広がっていた。

 マツリカが持つM45A1に装着しているライトを灯す。そして慎重に中へ入った。

「だれも……いないかな?」

 屋敷の中には人の気配がしない。

「まあ、見張りなんかいないか」

 見張りが必要ならば、鋼鉄の扉に立たせておくはずである。それがないということは、無人でも問題ないと判断されたと考えるのが筋であろう。

「手に入れたここの見取り図には、こんな場所は載ってなかったのよね……仕方ない、しらみつぶしに行くしか無いか」

 銃を構えつつ、奥へ進んでいく。

 うぐいす張りなのか、歩くと床からキュッキュという音が鳴く。誰もいなさそうではあるものの、物音がするのはひやひやするものである。

「お化けとかでないよねー……まあ、あたしは陰陽師なんだけど……でもなあ……いやだなあ、なんかでたら……」

 そんな独り言を呟きながら歩いていると、突き当たりに襖があった。その襖は絢爛豪華に金箔に塗られていた。

 襖には詳しくないマツリカだが、一見して高価というのがわかる。

 襖をよく観察し、罠が無いことを確認する。

「とりあえず、開けてみようっと」

 そーっと開けてみると、部屋があった。畳が敷いてあるだけの部屋。さらにその奥にも襖がある。最初の襖同様、金箔塗りであった。

「ふむ……」

 マツリカは部屋に入り、さらにその襖を開いてみる。すると同じ部屋があったのである。

「どこに繋がっているのかしら」

 同じような部屋が五部屋ほど続いた。すると、襖を目張りしているような大きな札が貼ってある部屋に出た。それは、まるで何かを封印しているような貼り方である。

「当たり……かな?」

 マツリカは、ホルスターに仕込んであるナイフを取り出し札を斬る。目的のものと違って、鬼が出たら速攻逃げようと心に誓いながら、襖に両手をかけ一気に開ける。

 バンッ! っと大きな音がする。

「あ……」

 その部屋の中央には、おかっぱで着物を着た十歳くらいの少女が正座をしていた。少女は大きな音にびっくりしたような顔をし、真っ直ぐな瞳でマツリカを見つめる。

「どちらさまですか?」

 少女は尋ねる。

 マツリカは、その澄んだ瞳に、そしてあまりにも神秘的な雰囲気を持つ少女の姿に呆然とした。

「あの……?」

 少女は困ったように口を開く。

 その声に、はっとなったマツリカは、ぶんぶんと顔を振る。そして改めて少女に向かい合い問いかける。

「あなた、座敷童よね?」

「はい」

 少女は、うなずきながら応える。

「あたしは、高遠 茉莉花。陰陽師よ」

「陰陽師?」と座敷童は、首をかしげ、「私を討伐しに来たのですか?」と言う。

 マツリカは驚いた顔を座敷童に向ける。

「違うわよ! あなたを救いに来たの」

「救いに……?」

「そうよ」

「わたしを救ってくださるのですか?」

「ええ」

「でも……わたしは昔、助けてくださった方を死なせてしまいました」

 座敷童は悲しげに話す。

「わたしに関わると、死んでしまいます。わたしはこのお屋敷に閉じ込められれば、だれも死なずに――」

「いいえ、死んでいくわ」

 座敷童の言葉を遮るように、マツリカは言い放つ。

「あなたを捕らえている人物は、武器を売りさばいているの。テロリストだろうと誰彼構わずね」

「てろりすと?」

 座敷童は、初めて聞く言葉に疑問を抱いた。

「えっとー、悪い奴のこと。その悪い奴が、この家の武器を使って、罪のない人を殺しているの。だから、これ以上、この家を発展させるわけにはいかない」

 マツリカが座敷童を見ると、彼女は泣きそうな顔をしていた。

「そんな……どうして……わたしの周りでは死がつきまとうのでしょうか……」

「もうこれ以上不幸な人を増やさないように、ここから救い出すの。そのための陰陽師なのよ」

「で……でも、ここには結界が……」

 上座の四隅には、座敷童を囲うように札が埋め込まれていた。その札は紙ではなく、金属のようなものでできている。

「大丈夫よ」

 マツリカは座敷童の頭を撫でると、C4と呼ばれるプラスティック爆弾を小さくちぎり、お札に貼っていく。

「結界は、あなたたちアヤカシには絶大な効果があるかもしれないけど、あたしたちには無害なのよ」

 そして、信管をC4に付けていく。

「さすがに剥がすのは難しいから、物理的に壊しちゃうけどね」と言いながらマツリカは、座敷童にウィンクをする。

「目をつぶって、耳をふさいで、そこから絶対動かないでね」

 と警告をする。

 座敷童は、言うとおりに目をつぶり両手で耳をふさいだ。その姿を確認したマツリカは、手に持ったスイッチを押す。


 ドン!


 という小さな爆発が起きる。すると札の埋め込まれていた場所には穴がぽっかりと空いたのである。

 マツリカは、M45A1を抜き、セーフティを解除する。そして座敷童の手を取った。

 座敷童はその手を掴むと、マツリカが笑顔で言う。

「さ、逃げましょう」

 こうして、座敷童は約二〇〇年ぶりに外にでたのであった。

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