泡を食べた人魚姫
深い海の底には、とても美しい人魚の世界がありました。
中でも一際美しい人魚の女性が、ある嵐の晩に転覆した船を見つけました。
人魚は船の上に横たわる一人の男を見つけました。そして、静かに浜辺へと助け出しました。
男の意識はありませんでしたが、息はしているようで、どうやら無事の様子でした。
男は身形の良い格好で、顔立ちも良く、人魚はその姿に思わず恋心を抱いてしまいました。
しかし人魚と人間は相容れてはいけぬ仲でありますが故に、人魚は後ろ髪を引かれる思いで深い海底の世界へと戻りました。
数日が経ち、人魚の想いは徐々に募るばかり。
次第に人間の男に会いたいという想いが抑えられなくなった人魚は、悪い魔法使いの知恵を授かる事に致したのです。
「ほぅ? 人間になりたいだってぇ? いいだろぉ……だが、代わりにその男の前では喋れなくなるが……いいかい?」
人魚はお金を払い、怪しげな薬を手に入れました。
その薬を飲むと、忽ち人魚は人間の姿になり、自由に泳ぐことが出来なくなりました。
慌てた人魚が海上に姿を出すと、浜辺で佇むあの男の姿が見えました。
「…………!!」
人魚──いや、女性が男に近付きます。それに気付いた男は、女性を不思議そうに見ています。
「王子、船は残念でしたが、私は王子が無事で何よりで御座います」
近くに現れたお付きのメイドが男に語りかけました。なんと男は一国の王子だったのです。
「……!…………!!」
女が王子に身振り手振りしますが、上手く伝わりません。
「もしかして、君は喋れないのかい?」
その言葉に、女は悲しく頷きました。
「君のような美しい人は初めて見た筈なのに、何故か何処かで会ったような気がするんだ」
そして王子は女が気に掛かり、やがて二人は浜辺で何度も会うようになったのです。
二人が両想いになるまで、そう時間は掛かりませんでした。
王子は時間を忘れて女を愛しましたし、女も王子と居る間は世界で一番の幸せを感じておりました。会話は出来なくても、想いは通じたのです。
ついにその時がきました。
「私と結婚してくれませんか……!」
王子は特別に拵えたダイヤの指輪を女に差し出しました。
女は深く頷いて指輪を受け取りました。
「おら、はずめであっだどぎからあっぱとっぱすて、おめさんいぎどっがしんぺぇすたんだい! だげんちょもおめさんさすけねくておらよがったぺした! こげんうれしことほかになかぁ……!」
「…………」
王子は無言で指輪を箱に戻しました。
そして、波打ち際を無言で去り、二度と浜辺へと現れることはありませんでした。
王子の前でうっかり喋ってしまった女──人魚は、そのまま山奥に隠れるように暮らし始めましたが、ある日偶然出会った農夫と意気投合し、結婚して末永く暮らしましたとさ。
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(*´д`*)