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東の魔女  作者: 松本真希
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 三人が連れだって乗り込んだ馬車は、ゴトゴトと小気味よい音を立て、ゆっくりと城門から出て行った。


「後どれくらいで着くんだい。」


 馬車がウルバルフの町を出てしばらくして、エドが沈黙を破った。


「そうですね。後、半刻ほどでしょうか。」


 ライラントが少しの間、宙を眺めた。


「そうか。意外と早いんだな。そうだ、そう言えば、何かの遺構が見つかったと聞いたのだが視察に終わった後で、そこに連れていってくれないだろうか。」


 エドは、今思いだしたかのように、この町に来た本当の理由を付け足した。


「ええ。構いませんよ。ただ、かなり古いものであるというだけで、つまらないものだと思いますよ。」


 ライラントは特に興味を持っていないようだったが、エドにとっては「かなり古い」という部分が重要だった。レメリア建国記の記述の断片や、様々な歴史書の内容を基に考えると、この帝国が建国される前、この地には何らかの国があったらしいのだが、その時代の遺構はほとんど見つかっていない。建国記の冒頭部分の記述を見つけてから、色々と調べてみたのだが、公爵領では、ドニエトル川近くの、人があまり立ち入らない森で、崩れた建物が見つかっただけらしい。


「そういえば、町中に何やら荒れた所があったのだが。あれはどういうことなのかい。」ウルバルフには、大きな貧民窟が広がっているとは聞いていたが、あそこまでとは思っていなかった。加えて、エドは、何故町の中心部にほどちかい所に貧民街があるか気になっていた。あのような場所は、大抵、専売特許を得た商会が店を構えていたり、都市貴族が豪勢な邸宅を建てていたりするものだが。あの地区は、空気がじっとりと体に纏わり付くような気持ち悪さがあった。


「ルーン地区の事でしょうか。そこぐらいしか思いつきませんね。東門から少し進んだ所にある所ですが。」


「おそらくそこだと思う。」


「あそこは古い建物が多い所ですし、悪い気が溜まるとでも言うのでしょうか、昔から病気になる方が多くて、新しくこの町に来た人は住みたがらないのですよ。あそこは、何かと訳ありの人が住むところで、ウルバルフの人も行きたがらないところですよ。けれど、主要な通りから外れていて、脇道に入らないと行けないような所ですが、何故そのことをご存じで。」


「いや、まぁ、この町に入るときに衛兵が教えてくれたんだ。危ない所があるとね。それで、気になって聞いてみただけだよ。」


 エドの視線は、ライラントから目の前に座るジーク、そして窓の外と、せわしなく動いた。


 まさか、こんなところで墓穴を掘るとは思ってもいなかった。ライラントが、「そうでしたか」と頷いてくれ上手くごまかせたようだが、これ以上この話しを続けるのはよした方が良さそうだ。


 それ以降は、ライラントが場を繋ぐように時々言葉を発し、エドがそれに曖昧な返事を返す以外、馬車の中は静かなものだった。



 エドは、一段高くなった畦道に馬車を止めさせ、馬車から降りて辺りを見渡した。視界を遮るものは何もない。右手には遠くの山々の稜線が、地平線にへばりつく様に伸び、左手に目を移せば、とうとうと大河ドルトエル川が流れ、横帆を張った川船が行き来するのがはっきりと見える。


 ふと足下に目を落とし、風に吹かれ近寄ってきた、虫食いが目立つくすんだ茶色の落ち葉を手に取り、持ち上げた。このあたりは森が覆っていたようだが、今ではその面影はほとんど見受けられない。栗色をした土が一面に広がり、わずかに畑の横に直線上に残された木々だけが昔の面影を残している。


 多くの人々が、額に汗を浮かべながら、土に埋まった木の根や石を取り除いており、威勢の良いかけ声が聞こえる。遠くに視線を移すと、何頭もの農耕馬が鋤を引き、土を耕している様子が見受けられ、馬のいななきと共に、用水路を囲う木の板を、地面に打ち込む音が規則正しく響いている。


「この地域は、去年の冬から開墾を始めており、今年の夏までに、大豆や馬肥やしの種を、まくことを目指しているのですよ。」


 農地を指差しながらライラントが時折、説明を挟む。


「あそこは、何なのかい。」


 エドが指を指した先には、周りを土の海に囲まれた、小さな林がぽつんと取り残されていた。


「あそこが、先ほど仰っていた遺構が残っていた所なのですよ。周りに土の中に多くの岩が残っていまして、取り除くに時間がかかるので放置しているのですよ。大体のことは伝え終わりましたし、行ってみましょう。」


 ライラントが先頭に立ち、一行はぞろぞろと移動し始めた。



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