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特別国庫管理部  作者: 安曇 東成


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十章 一 運命を引き寄せる


 翌日、九時を過ぎても古城戸が登庁してこなかった。病欠の連絡もなく、無断欠勤するのは初めてのことだ。俺は古城戸の携帯を呼び出してみる。三コールほどで電話は繋がった。


「古城戸? どうしたんだ? 腕が痛むのか?」

『……女を返して欲しければ、『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』と交換だ』


 知らない男の声が返ってきた。どうやら古城戸は拉致されたらしい。だが饕餮がついているはずだから簡単に拉致などされるはずがない。

 

「古城戸の声を聞かせろ」


 数秒の間があり、電話から古城戸の声がした。


『ごめんね由井薗君。兄さんの命が惜しければ来いって……』

「古城戸、今何時何分何秒だ?」

『え? 九時十二分……四十秒』

「あの写真の場所は?」

『日比谷高等学校』


 どうやら録音や変身ではなく本人だ。古城戸も俺の質問の意図を理解しただろう。何かされた様子も無いので俺は安堵した。


『ブツを入手したらこの携帯に連絡しろ。ちゃんと渡さないと女の命は無い』


 再び男の声。俺が言葉を返す間も無く電話は切れた。

 

 古城戸が無事帰ってくる保証は全くない。死体が返ってくる可能性のほうが高いだろう。古城戸に憑いている饕餮が守ってくれるならいいが、神使としては古城戸が死ねば海那岐姫(みなぎひめ)の魂が解放されるのでそのほうが実は都合がいいのかもしれない。饕餮が応龍(インロン)との対決を望むなら古城戸を守る可能性は高い。俺の予想では五分五分といったところだ。


 俺は石橋に電話し、古城戸が拉致されたことを伝える。夜になったら古城戸の夢に入り、勾玉を取りに行くので石橋にも来るように言う。天花寺(てんげいじ)にも伝えたが、天花寺(てんげいじ)が夢に入っても戦力にはならないため、起きている間にできることをしてもらう。


 やがて事務所に石橋が来た。


「えらいことになったな」


 部屋に入ってくるなり言った。


「あぁ。勾玉を手に入れたとして、奴らが素直に古城戸を返すと思うか?」


 石橋は首を振る。


「返すわけないやろ」

「だよな。簡単に殺されはしないと思うが……」

「どうやろな。あいつらにしてみたら勾玉手に入れたら俺らに用はないんやで」

「『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』を渡すわけにはいかない」

「絶対渡したらあかんで……由井薗、この戦いどう決着させるつもりや?」

「考えてはみたが……」


 俺は腕を組んで唸る。


「言うてみぃや」

「まず、勾玉を手に入れる。それから古城戸延行を反地球に送る。で、その後に子涵(ズーハン)達を斃す。でもって政府はうまく誤魔化す」


 石橋は手を広げて首を振る。


「……それはもう流されてるだけやな。ダメダメや」

「正直、いいアイデアが無くて困っていたんだ。石橋ならどうする?」


 石橋は俺に作戦を話した。正直無謀としか言いようがない。だが、一度聞けばそれしかない気がする。


「それしかない気もするが、いくらなんでもそんなにうまくいくか?」

「かなりの博打やけどな。お前の運命を引き寄せるんや」


 ギャンブラーの石橋でなければ思い至らない。数字でいうなら確率はわずか一.五パーセントしかないが、あいつは俺がこの博打に勝てると思っている。


「よし、じゃあまずは古城戸の兄貴を助けに行くか」

「どこにおるかわかるんか」


 子涵(ズーハン)達は俺が『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』を手に入れるため夢に侵入すると思い込んでいる。まずはそこを襲い、古城戸延行を救出する。


「古城戸の家の近くの神社だ。おそらく移動していない」

「んじゃ行くか」


 俺と石橋は古城戸の家の近くにある神社に向かう。この前は夢で来たが今日は現実だ。夢の中で見た神社よりもやや寂れた感じがする。神社の入口に差し掛かると因果の気配がする。


「……いるな。古城戸延行だけじゃない、他にもいるな」

「真正面から行くんか?」


 俺は中の気配を探る。あの因果は感じない。


子涵(ズーハン)達はいないな」

「俺らが夢に入っている間は自由に行動できると思っとるんや。今頃政府の誰かと会食やろ」

「なら子涵(ズーハン)に変身すればいいか」


 俺は亡くなった鳴神の因果、『沢火革(ジーフォング)』を使って子涵(ズーハン)に変身しようとしたができない。俺がこれまで子涵(ズーハン)に会ったのは山根の夢で一回、八丈島付近の島で見た夢で一回、延行の夢で一回だ。


「そうか、俺は現実で子涵(ズーハン)に会っていないからできないのか」

「もう堂々行ってもええんちゃう」

「マジかよ」


 結局俺と石橋は神社の正面から散歩でもするように本堂に近づく。本堂前には中国人らしき若い男が二人いて、俺たちの道を塞いだ。孤児院の子供達なのだろうか。


「ここから先はダメだ」


 道を塞いだ男の一人が流暢な日本語で俺たちに警告する。どうやら俺たちの顔を知らないらしく、誰かわかっていないようだ。


子涵(ズーハン)様の命令で古城戸延行を引き取りに来たんやが」


 石橋がしれっとハッタリをかます。もう一人の男が首を捻る。


「そんな話は聞いていない。今確認するから待ってろ」


 そう言って携帯を取り出したので、石橋はその手を掴む。


「何をする!」


 男が大声を出したので石橋は手を放して両手を振る。


「電話したけりゃしてもええで。そやけど今、子涵(ズーハン)様はお偉方と会食中や。邪魔したら後でどうなるか知らんで」


 そう言うと二人の男達は相談しだした。石橋の言うように、子涵(ズーハン)の食事中に電話をして不興を買いたくないのだ。しばらくすると男たちは渋々といった様子で道を開けた。


「ほな行かせてもらうわ」


 俺と石橋が男達の間を抜け、本堂の木製の階段に足をかけたとき、背後から因果の気配。

 

「出でよ、執明(ジンミン)!」


 俺は咄嗟に玄武を召喚。現れたのは巨大な甲羅を背負った恐竜のような爬虫類。その瞬間、盾となる執明(ジンミン)の横から肌を焼く熱風が俺と石橋を襲う。火地晋(フーデージン)は本来「前進や昇進」という暗示があるが、巨大な炎の壁を相手に叩きつける因果のようだ。執明(ジンミン)は甲羅を焼かれながらも炎を防いでくれた。


「やはりここは通さない。お前らは敵だ」

「背後から襲うなんてひどいな」

閉嘴(だまれ)!」


 今度はもう一人の男が因果を発動。感じる因果は火山旅(フーシャンリュー)。不安や孤独を暗示する因果だ。発動した瞬間、周囲は暗くなった。だが饕餮の闇のような完全な闇ではなく微かに見えるし、音も聞こえる。


「出でよ! 陵光(リンフォン)!」


 俺は火炎を纏う巨大な(フクロウ)を喚ぶと闇を切り裂きながら男達に向かって突進。火地晋(フーデージン)使いの男が炎の壁で防御しようと因果を発動、しない。石橋が雷水解(レースーシ)で止めた。

 

沒門(マジかよ)!」


 その言葉を飲み込み炎の鳥が着弾して爆発する。二人の男は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて動かなくなった。俺は足元の地面を狙って陵光(リンフォン)を放ったので、下半身は火傷くらいはしているだろうが致命傷ではないだろう。


 二人の無力化を確認し、俺と石橋は本堂に入る。


 本堂の中には以前古城戸延行の夢で見たものと同じ女神(にょしん)像と、延行がいた。延行は夢で見た外見と同じで年齢差は見られない。本当なら古城戸の六歳年上だから二十九歳のはずだが十六歳前後に見える。『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』の力で不老不死になっているのだ。

 

 古城戸延行は汗を流してうなされている。自身の因果、『山沢損(シャンツーセ)』を反射されて苦しんでいるのだ。俺は夢の時と同じように『山沢損(シャンツーセ)』で延行を支配してみる。


「……君は前に」


 正気に戻った延行が口を開いた。


「助けに来ました。とりあえずここを離れます」


 延行は石橋の肩を借りて立ち上がると本堂を出る。そこで俺の『山沢損(シャンツーセ)』は時間切れとなり、延行は再び意識混濁の状態となった。一応肩を貸せば歩くことは出来たが、あまり遠くにはいけないだろう。ここから休めるところといえば古城戸の自宅だが、鍵が開いているかもわからないしすぐに足がついてしまいそうだから却下。俺や石橋の自宅はここから徒歩で行くには遠いので、近くのビジネスホテルに向かう。


 三人部屋を確保し、延行をベッドに寝かしたところで俺の影から声。


『姫から汝につくようにご指示があった』

「饕餮か。古城戸は無事か?」

『我が守っていると思われているうちはご無事だろう。が、いないとわかれば何をされるか』


 (ぎょく)の在処をめぐって拷問を受けたりするかもしれない。もし古城戸の女性としての尊厳を汚されるようなことがあったら俺は奴らに何をするかわからない。


「じきに延行を連れ出したことがバレる。そうなると古城戸は恐らく……」


 俺は延行の懐を漁り、『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』の欠片を取ると影に投げる。


『感謝する。これであの忌まわしき龍にも勝てるだろう』


 以前古城戸に聞いた、『饕餮は蚩尤(シユウ)の首』というのが事実であれば『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』で再生することができるだろう。玉を受け取った饕餮は姿を現す。

 

 以前見た姿は牛の頭に人間の胴体、馬の脚という姿だったが、それが見ている間に変わっていく。再生しているのだ。やがて背中には蝙蝠の羽が伸び、角は長く真っ直ぐになり、胴体は黒い毛で覆われ、蛇のような長い尾が腰に巻き付いた。これぞ悪魔、という姿だ。


「完全に悪魔やな」


 石橋もそう感想を漏らす。


「饕餮、今夜は古城戸の夢に入る。お前も来て欲しい」

「然り。我はもう饕餮ではない。蚩尤(シユウ)である」


 子涵(ズーハン)達の初手に対して、俺たちは二手目を返した。さぁ、どうくる?


感想お待ちしております。励みになります。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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