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特別国庫管理部  作者: 安曇 東成


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九章 二 運命の景色


 今日は天花寺(てんげいじ)の学校で開催される文化祭に行く日だ。文化祭は二日に亘って開催されており、今日が二日目。夜にはキャンプファイヤーがあるらしい。俺と古城戸はチケットをもらったので十五時頃から行く予定だ。


 朝、いつものように登庁すると古城戸はすでに席にいた。服装はいつもどおり地味なシャツと綿のパンツだ。今日くらいは多少めかしこんでくるかと思ったのだが。


「おはよう」

「あぁ、おはよう」


 古城戸はいつもと変わらない挨拶だったが、どこかテンションは高めに見えた。二人で出掛けること自体はこれまで何度もあったからデート気分、というものは無いが、今日は純粋に楽しみたい。


 俺は席に着くと古城戸に報告する。


「昨日家に帰ったら始祖夢魔がいた」

「ええっ? イリナちゃんが?」


 古城戸は驚いて俺を振り返る。

 

「あぁ。リストバンドがあるから魅了は効いてない。安心してくれ」


 俺はそう言ってリストバンドをした左腕を見せると古城戸は肩を落として息を吐く。


「そう……ならいいんだけど。何か話したの?」

「まぁな。頼んでもないのに刑天(シンチィン)と修行させられた」

「え? じゃあ昨晩はずっと修行してたんだ」


 古城戸は目を(しばた)かせる。


「あぁ。だがおかげで多少はやるようになったと思うぜ?」

「それは頼もしいわね。戦力不足は解消かしら」


 俺は無言で不敵な笑み。


「イリナちゃんは真の姿だったのよね? どんな姿だったの?」


 そう言われて俺は焦る。古城戸そっくりでしかもキスしました、とは言えない。古城戸は俺の理想の女に興味があるのだろうか。まるで「好きな異性のタイプは?」と聞かれているような気分になった。


「あ、あぁ。思ったほどでもなかったかな? 前に見せてもらった写真のヤツのほうが可愛いんじゃないか?」

「……そうなんだぁ? 理想の姿っていうからすごい美女じゃなかったの?」

「美女は美女だったかな? 言葉ではどんな顔、とか言えないだろ」


 俺は歯切れ悪く答えてしまう。これだと勘の鋭い古城戸にバレてしまう。


「それもそうね。今度イリナちゃんに会ったら由井薗君の反応を聞いてみようかしら」

「勘弁してくれ」


 俺が焦って答えると古城戸は笑った。始祖夢魔が大人の対応をしてくれることを期待するしかない。


 やがて十五時前になり、俺たちは事務所を出発して天花寺(てんげいじ)の学校へ向かう。学校は事務所からすぐ近くだ。歩きながら古城戸に話しかける。


天花寺(てんげいじ)はたしかクレープ屋だったか?」

「そうらしいわね 出店、たくさんあるのかしら」

「古城戸も学生時代は文化祭あっただろ? 何やったんだ?」

「一年の時がバザーで、二年の時が展示で、三年の時がダンスだったかな」

「ダンスか。大阪や三重の高校が上手いらしいな」

「コンテストみたいなものもあるらしいわね。そこまで本格的でもなかったけど、楽しかったわよ」


 アイドルグループのダンスを皮切りに、創作ダンスも最近では全国大会まで開催されるほどの競技性が認められている。中学や高校でダンスの授業がある学校も珍しくない。古城戸がどんなダンスをしたのか、見てみたかったものだ。


「由井薗君は何したの?」


 古城戸に質問されて俺は思い出す。


「何だったかな。一年の時は出店だった。たこ焼きだな。二年の時は巨大ペットボトルロケットの打ち上げで、三年の時は劇だったな。オペラ座の怪人だ」

「へぇ? 何か役を演ったの?」

「いや、俺は大道具だった」

「そうなんだ? 由井薗君背も高いし役者向きだと思うのに」

「古城戸がクリスティーヌなら、俺がエリックをしたかもな」


 クリスティーヌはヒロインで、エリックは「怪人」だ。物語ではエリックが脅迫のような形でクリスティーヌと結婚することになる。こんな言い方では遠回しのプロポーズととられてもおかしくない。ちょっと大胆すぎたかなと焦る。


「……私はクリスティーヌという柄じゃないわね。無理強いで結婚したんでしょう?」

「それもそうだな。古城戸ならロミオとジュリエットのほうが合うか」


 古城戸の因果『雷沢帰妹(レジグマ)』は禁断の恋に走り破滅する因果。つまりはジュリエットのように禁じられた恋をした挙句に自殺するという物語に因縁がある。古城戸にとって兄はロミオなのだ。

 

 そんな話をしていると日比谷高等学校に着いた。入口の受付にチケットを渡して半券とパンフレットを受け取り校内へ入る。招待されているのか、他校の制服を着た学生も多数いた。パンフレットを開くと中庭に出店などが集まっているようなので、そこに向かう。


天花寺(てんげいじ)は……あの辺か」


 俺が案内を見てその方向を指差す。古城戸は天花寺を見つけたようで「いた、いた」と言って足早に向かっていったので俺も追う。


「あーっ来てくれたんですね。お疲れ様です!」


 俺たちに気づいた天花寺(てんげいじ)が笑顔で手を振った。古城戸も手を振る。天花寺は頭に白い頭巾をし、ピンクのエプロンをつけていた。


「エプロン似合ってるじゃないか」


 俺が茶化すと天花寺(てんげいじ)ははにかんで照れた。


「これから回らせてもらうわね」


 古城戸はそう言って「せっかくだから何か食べる?」と聞いてきたので、「小倉」と答えると古城戸は注文を伝える。


「小倉とイチゴですね。六百円です」


 古城戸が千円札を出しお釣りを受け取る。俺は古城戸に小銭を渡そうとしたが「経費で落としとくから」と断られた。デート代は男が出すべき、というような古い観念は俺には無いし、数百円を出した出さないで根に持つような古城戸でもないからまぁいいだろう。

 天花寺(てんげいじ)は丁寧にクレープの皮を焼き、綺麗な円の生地を畳んで生クリームを注ぎ、トッピングしていく。やがて綺麗なイチゴクレープと小倉クレープが渡された。


「どうぞ! 食べ比べとかしてみたらどうですか?」


 ニヤニヤ笑いの天花寺が両手をピースサイン。古城戸は特に動じることなくクレープを二個受け取る。


「ありがとう。由井薗君、はい」


 そう言って古城戸が俺に小倉クレープを渡す。俺は礼を言って受け取る。


「そうそう、私このあと十六時から演劇に出るんです。部活の出し物で」

「演劇部なの?」

「いいえ、私は写真部ですけど、撮影していいから劇に出てくれって言われちゃって。大した役じゃないんですけどね」

「わかった。見に行くわね」

「はい!」


 俺と古城戸はベンチに座りながらクレープを食べる。クレープの中にはコーンフレークや刻んだパイン等が入っていて学生の出店にしてはこだわっていた。小倉と生クリームのダブルの甘さが疲れを吹き飛ばす。

 

 古城戸の小さな口がクレープを齧るのを見ていると俺の視線に気付いたのか、食べるのを止めてこちらを振り返った。


「食べ比べしたいの?」


 俺はクレープが気になったのではなく古城戸を見ていたのだが、そういうことにしておこう。


「イチゴ美味そうだな」


 俺がそう言うと古城戸は「はい」とクレープを向けてくる。


「ん」


 俺は古城戸が齧っていない逆側を一口もらう。イチゴの酸っぱさと生クリームの甘さが口に広がり、爽やかなハーモニーを奏でる。


「イチゴもいいね。小倉もいけるよ」


 今度は俺が小倉を差し出すと、古城戸はクレープの端のほうを一口食べた。


「あー、こういう感じね」


 古城戸は何度か頷いて何やら納得した。男女二人でクレープの食べ比べなど、まるで恋人だ。周りの学生は明らかに「あの二人ラブラブね」という視線で俺たちを見ている。

 

「絶対俺たちカップルに見えるだろうな」、等と言ったところで気まずくなるだけだから口にはしないし古城戸も言わない。嫌いな相手とクレープの食べ比べなどしないだろうから、俺は嫌われているわけではないのだろう。古城戸はおそらく俺と同じように、本当は少し照れ臭いが表に出さないようにしているのだ。


 二人がクレープを食べ終わった頃、天花寺(てんげいじ)が店から出てきて俺の手を引く。


「由井薗先輩、一つ忘れてました」

「どうしたんだ?」


 天花寺(てんげいじ)に引かれるまま出店の列を抜ける。何故か俺の胸がざわつき、鼓動が早まる。


「ここです」


 そう言って天花寺(てんげいじ)は後ろを振り返ったので俺も振り返る。そこには見覚えのある景色があった。


「こ、ここは……」

「そうです、前に見せてもらった写真の」


 その光景は俺の携帯に収めている祭りの写真と同じだった。昼間の出店が並ぶ祭りの写真。俺は全身が震え、言葉にならない感情が胸中に広がる。


「前に見せてもらったときから、なんとなく見覚えがあったんで気になってたんですよねー」


 天花寺(てんげいじ)は俺の肘を胸に抱えて古城戸に見せつけるようにくっついてくる。


「ここがどうかしたの?」


 古城戸は話についてこれず、やや不機嫌な感じで聞いてくる。


「あぁ、俺が古城戸に会う前に夢で撮った写真の場所がここなんだよ」


 俺はそう言って携帯を操作し、例の写真を古城戸に見せる。


「……確かにここから見た景色と同じね。 あれ、これ私?」


 古城戸はそう言って写真に写る十三歳の自分を指差す。


「そうだな。俺はこの写真を見て古城戸に辿り着いたんだぜ」

「そうだったの。でもこれ私、小さいわね」

「夢で撮った写真だからな。古城戸もその時ここにいたってことだろ」

「そうか、写真を現実に持ち帰ったのね。私は記憶にないんだけど」


 夢は未来を見ることもある。古城戸が覚えていないなら、おそらく近い将来、夢でここに来るのだ。

 

 俺はもう一度携帯の写真を見る。するとこれまで気づかなかったが、出店の一つであるヨーヨー釣りの水槽の中に輝くものが見えた。その輝きは淡い藤色で、まるで心を奪われるかのような煌めきだ。俺は直感的にそれが何なのかわかった。


「『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』……」


 俺は絞り出すかのような声でつぶやく。俺は顔を上げてヨーヨー釣りの出店に駆け寄り、水槽の中を見てみるが、水と風船しかない。『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』は夢の中にあるのだ。だから現実世界の水槽の中には無い。


 俺は刑天(シンチィン)の指摘を思い出すと同時に理解してしまった。『雷沢帰妹(レジグマ)』で写真だけとはいえ、勾玉を持ち帰ってしまったことで俺は他の因果が使えるのだ。これまで自らの因果、『風雷益(フーレーイ)』の力だと思っていたがそうではなく、『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』の力、そのほんの上澄みのような力の欠片を使っていたに過ぎない。


 古城戸も写真を見て気づいたようだ。


「まさかこの水槽に玉があるなんて」

「『藤柄八山勾玉ふじつかやつやまのまがたま』が失われたのは十年前の話だ。俺はまだ古城戸に出会っていない。だから古城戸の夢の、この水槽にあるってことだ」

「兄は私の夢に玉を隠したっていうこと?」

「意図して隠したのならとっくに見つけてないとおかしい。延行自身も知らないんだ。おそらく何か事故ったんだろうな」

「……とにかく、玉が兄の夢ではなく私の夢にあるってことがわかったのは大きいわね。今夜、早速侵入しましょう」


 まだ十五時過ぎだし眠れない。今は学園祭を楽しむことにしよう。

 

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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