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特別国庫管理部  作者: 安曇 東成
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一章 五 作戦開始


先日の書類入手について、仕事の当日になった。

 午後十時となり、俺と古城戸は東京ガーデンテラス紀尾井町に向かう。俺は古城戸が出した黒いLEXUS LS500hを運転する。初めてではないが、この高級車はまさに『動く黄金経験』だ。タイヤの一回転ごとに莫大な幸福感をドライバーに叩きこむ。それは燎原の火の如く乗り手を灼き、ハンドルを持つ手は神立に打たれたように打ち震える。


 俺はホテル前にLEXUSを進めると前にドアマンが現れる。助手席側にもドアマンが立ち、古城戸がそちらから降車。俺も黄金の部屋から降り立ち、ドアマンに鍵を投げる。


 古城戸はグレース・コンチネンタルのドレスに身を包んでいる。赤と黒が基調となっており、今日は後ろにまとめてある古城戸の柳髪が一層際立つ。俺もKitonのスーツに包まれ、この時ばかりは古城戸に不足がない男となる。隣を歩く古城戸の大きく胸が開いた部分には、白磁の豊かな丘が広がっており、歩く度に零れそうに弾けている。


 この最高級ホテルは三十階から三十六階がホテルとなっており、ロビーは三十五階にある。三十六階は吹き抜けだ。一泊六万円程度から、最高級の部屋では六十万円という価格設定は一般人を寄せ付けない。客層を見ても外国の富豪や芸能人、大企業の経営層、政治家などの要人が中心である。


 俺たちは豪奢な調度品で埋め尽くされたロビーでチェックイン手続きをしながら話す。


「例の書類をどうやって入手するつもりだ?」

「まぁ、私が秘書になって書類を預かればゲームクリアね」

「秘書? 夢の中だと古城戸は十三歳だろう」

「お化粧をしてスーツを着たら多分ごまかせるんじゃないかしら」


 化粧でそこまで変わるものだろうかと思うが、割と自信がありそうだ。


「重要書類だろう? 簡単に他人に預けるかな」

「重要だからこそ、他人に預けたくなるのが心理というものよ。夢の中ではそういう意識が強く出るの」


 本来は古城戸一人でもできる仕事かもしれないが、高級ホテルに女性一人が宿泊するのは不自然だ。万が一にも疑いをかけられるわけにはいかないので、こうやってカップルを装う。古城戸は部屋を三つ別名で予約しており、そのうち真ん中の部屋をターゲットの部屋として藤原に教えた。両サイドの部屋のうち、片方に俺たちが、もう片方は別のペアが待機することになっている。別のペアは潜行はせず、明日の朝まで部屋を確保できていればいい。これも特定回避のためである。ホテルによっては上下で予約を入れる場合もあるが、今回は両サイドのようだ。それに、これは俺の修行も兼ねている。俺の能力は今のままだと役に立つレベルのものではない。少しでも夢に入って能力を磨く。


 案内された部屋はまさに贅の極みと言えた。一流のデザイナーによって設計された空間はまさに資本主義ピラミッドの頂点に立つもののために作られている。巨大なダブルベッドには純白で厚手のシーツに紅いピロー。広々とした大理石のシンク、ガラス張りの浴室などが煌めく。窓は大きく全面にあり、東京の夜景が一望できる最高のロケーションだ。


 一緒に部屋に入った古城戸を見ると身長差から見下ろす格好になる。大きく開いた胸元にある深く白い谷間が俺の視線を楽しげに迎える。そして、鼻腔をくすぐるバニラ系の甘い香り。俺の後頭部は眩暈がするほど痺れて理性が吹き飛びそうになる。

 古城戸は俺の視線に気づいて左手で胸を押さえる。


「見ないでよ」

「見せているんだろうが」

「目がマジなんですけど」


 この反応で若干、興が覚めた。この部屋の雰囲気に流されかけただけだと気づく。


「この部屋が良すぎるせいだ」


 俺がそう返すと、古城戸は安心したのか部屋の中へ進み大きなソファに腰を下ろした。


「だいたい由井薗君、そういう友達いるんでしょう?」

「なんのことかな」


 俺は惚けるが、古城戸は舌を出す。部屋に入ると、中にはすでに車に積んでいた荷物類が運ばれている。荷物といっても手ぶらで宿泊するのはおかしいからほとんどダミーで用意しているだけだ。


 隣の部屋はまだバーラウンジから戻ってきていないようだ。あまり深酒させないように藤原には注意しているからそろそろ戻るはずだ。それにあまり遅くなると俺の理性が持たない。今回のターゲット、姫路幹夫は官僚の藤原と打ち合わせをして、ラウンジで適当に飲んで戻る手はずだ。


 その後十分経たない程で、隣に人が入る気配があった。姫路が部屋に戻ったのだ。


「来たな」


 予約した真ん中の部屋には、予めドローンを入れてある。そのため、部屋の様子が俺たちにはわかるようになっている。姫路はシャワーを浴びに向かったようだ。古城戸はスマホでドローンの映像を確認している。


「すぐ寝そうね」


 経験上、酒を飲んだ人間がシャワーを浴びたらあとは大体寝る。しばらくしてベッド前に置いたドローンの映像を確認していると、バスローブ姿の姫路がベッドに座るのが見えた。


「よし、こっちも準備だ」


 俺はそういうと靴を脱いでベッドに横になる。古城戸もソファから立ち上がり、ベッドの横から腰を下ろして靴を脱ぎ、足を伸ばした。



この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

記載されている会社名および製品名は、各社の登録商標または商標です。

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