表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特別国庫管理部  作者: 安曇 東成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/75

五章 二 メイド服を着た魔物は笑わない


 翌日、車で有明にあるNo.11、孟婆の研究所についた俺達は所長に会う。所長は湊口(みなとぐち)という五十代の白髪で小太りの、オタクを絵に描いたような外見だ。


「これはこれは古城戸さん。大変なことになったようですな。こちらの準備はできておりますぞ。今から侵入されますか?」

「その前に、孟婆について教えてもらえるかしら」


 古城戸がそう言うと湊口(みなとぐち)は喉で笑った。


「では、本人から直接聞かれるのがよろしいかと思いますぞ」


 そう言って回れ右をした湊口(みなとぐち)は白衣を翻して歩き出す。ついてこいということだろうか。俺と古城戸、天花寺(てんげいじ)鳴神(なるかみ)湊口(みなとぐち)のあとを追う。

 廊下はスタイリッシュなデザインで、申し訳ないが湊口(みなとぐち)の雰囲気とはアンマッチだ。


「かっこいい廊下ね」


 鳴神(なるかみ)が回りを見まわしながら隣の天花寺(てんげいじ)に言うと、天花寺(てんげいじ)も見回す。


「すごいね」


 この二人は年齢は違うが同期なので普通に話す。


「ゆりちゃん、私あんまり詳しい話を聞いてないんだけど、夢に入るのよね」

「うん、所長と入るんでしょ? 私と由井薗先輩は入らんのよ」

「あれ、そうだっけ? 緊張してきた……」


 鳴神(なるかみ)はまだパーグアではないから、古城戸に引き込んでもらう格好になる。天花寺(てんげいじ)はパーグアだからそのあたりは余裕が見えた。天花寺(てんげいじ)は一つ気づいたことがあるようで、俺を後ろからつついてきた。


「由井薗先輩」

「なんだ?」

「そういえば昨日の神子島(かごしま)さんは?」

「そういえばいないな。古城戸、神子島(かごしま)さんは来ないのか?」


 俺が古城戸に話を振ると、古城戸は首を傾げる。代わりに湊口(みなとぐち)が答えた。


「ああ、神子島(かごしま)さんはお昼頃に来られると連絡がありました。あの人も今回入るんですか?」

「ええ」

「大丈夫かな。 あの人、次が七回目のはずなんですよ」


 神子島はもともとこの研究所にいたらしいから、湊口(みなとぐち)とも知り合いのようだ。以前、孟婆の夢を七回見ると発狂すると聞いた。神子島(かごしま)はすでに六回見ていると言っていたから次でアウトのはずだ。


「目的の物が手に入れば祓えるらしいから。どっちにせよ毎晩悪夢でキツイって話だから絶対入手するつもりね」


 どんな悪夢を見ているのか興味はあったが自分で見たいとは思わない。ましてやそれが毎日続くとあれば七回目を待たず発狂してしまうことだってあるだろう。俺達は聖人の血が欲しいし、神子島(かごしま)は聖人のへその緒が欲しいなら、目的はほぼ同じだ。


「ひとつ気になったんだが」


 隣の古城戸に話しかけると無言でこちらを向いた。


「俺達は聖人の血をへその緒から取ろうとしているよな? へその緒の血って母親のものじゃないのか?」


 もしへその緒に通っている血が母親のものだとしたら聖人の血ではないことになるため効果が無いかもしれない。鳴神(なるかみ)天花寺(てんげいじ)も興味があるようだ。

 

「へその緒は胎児のものよ。ちなみにへその緒の血は臍帯血といって特殊なものなの。白血病の治療にも使われたりするのよ」

「そうなのか。どこから母親なんだ?」

「血はつながってる、っていうけど、実は母親と胎児の血は混ざってないのよ」

「そうなんですかぁ!」


 後ろで聞いていた鳴神(なるかみ)が思わず反応したようだ。


「母親と胎児の境界線は胎盤よ。胎盤で母親の血液から胎児の血液へ栄養と酸素の提供をしているけど、血が混ざることはないわ」


 確かに母親と胎児の血が混ざっているなら血液型は同じにならないとおかしい。だが母親と違う血液型の子供などたくさんいるわけで、つまり血は混ざっていないということだ。


「そういうことなら、へその緒の血を持ち帰ればいいわけだな」

「ええ。聖人の誕生に立ち会うのが今回の作戦ね」


 扉をいくつか抜け、厳重なセキュリティの錠を解除すると白い壁紙の小さな部屋が現れた。その中にはまるで少女の部屋のようにフリルがついた布やピンクのベッドなどがあり女特有の甘い匂いがする。


 部屋の片隅にはゴシック・カラーのメイド服を着た六歳前後の少女がいた。少女は長い黒髪に雪のような白い肌、大きな鳶色の目をしており、恐ろしいほどに整った顔をしている。


「きゃぁ! かわいい!」 

「この子、誰ですか? かわいいメイドさん!」


 鳴神(なるかみ)天花寺(てんげいじ)がわいのわいのとメイド少女を囲む。


「それが孟婆よ。また着せ替えて遊んでるのね……」


 古城戸がそう言うと二人はまじまじと少女を見る。孟婆というくらいだから勝手に年配者を想像していたが、こんな幼い少女だとは。以前古城戸に見せてもらった写真の始祖夢魔も驚くほどの美少女だったが、この孟婆はさらに幼く愛らしい。


 少女はまっすぐ古城戸を見ていた。


「ってことは、この服は湊口(みなとぐち)さんの趣味ってことですか?」


 俺が呆れてそう言うと湊口(みなとぐち)は頭を掻いた。


「いやぁ、お恥ずかしい。しかし本人もすっかりその気のご様子」


 湊口(みなとぐち)が不気味な笑みを浮かべると、美少女は桜のような唇を開く。


「おかえりなさいませ、ごしゅじんさま」

「きゃ~~~! かわいい!」

「ただいま!」


 鳴神と天花寺(てんげいじ)はすっかり孟婆の愛らしさに参ったようだ。魔物だから成長しないだろうが成長したらどんな女になるのか見てみたい。

 それよりも、この魔物からは俺達に敵対心は感じられない。


「危険な魔物じゃなさそうですね?」


 俺が湊口(みなとぐち)にそう言うと湊口(みなとぐち)は肩を揺らした。


「起きてこのように遊んでいるうちは、ただの女の子ですな。問題は寝てからです」


 湊口(みなとぐち)は頭を掻く。


「夢を見せるだけでしょう?」

「まぁ、そうなんですがその夢がね。あなたの想像以上にキますよ。ハッキリいってお勧めできませんな」

「僕は今回は入りませんけどね。あのやかましいのが入るんですが」


 そういって親指で鳴神(なるかみ)を示すと湊口(みなとぐち)は鳴神を見る。


「明日の朝にはすっかり大人しくなっとるでしょうな」


 湊口(みなとぐち)は目を細めてそう言った。相当堪える夢なのだろう。俺が見るのではなくて心底良かった。

 孟婆のほうを見ると古城戸が孟婆に質問をしているようだった。


「あなたの見せる悪夢を祓う方法は?」

「せいなるからだにふれればはらえます」

「あなたの夢から天国に行けるかしら?」

「れんごくとてんごくはつながっております」

「案内してくれるかしら?」

「どうちゅうのあんぜんはほしょういたしかねます」


 孟婆は幼女とは思えない流暢な言葉で古城戸の質問に答えていく。兄の支配はもうないはずだが従順だ。


 古城戸が一通り質問を終えると、鳴神(なるかみ)が「私も質問していいですか?」と古城戸に確認して、孟婆の視線に合うように膝を折って話しかける。


「モウバちゃん、何歳?」

「だまれくそがきころすぞ」

「ひぃ!」


 突然乱暴な言葉に変わり、鳴神(なるかみ)天花寺(てんげいじ)にしがみつく。俺は驚いて孟婆に注目。湊口(みなとぐち)は苦笑する。

 

「古城戸さん以外にはクチが悪いんですよ。大丈夫です、何もしてきませんから」

「早く言ってくださいよぉ!」


 鳴神(なるかみ)は涙目で訴える。古城戸も苦笑いしていた。知ってやがったな、こいつ。


 孟婆は古城戸が部屋に入ってから目を切ることなくずっと古城戸を見ている。魔物は支配されていないから従わない、と聞いていたがそんなことは無いように見えた。


「もういいわ。神子島(かごしま)さんを待って、入りましょう」


 古城戸はそう言うと部屋を出ていく。鳴神(なるかみ)天花寺(てんげいじ)も後を追う。孟婆もついていこうとしたが湊口(みなとぐち)が後ろから持ち上げた。


「はなせへんたいふしんしゃ」

「お部屋にいようね」

「くたばれろりこんくされまら」


 俺は呆れながら部屋を出る。再び長い廊下を歩き、研究所の広間で神子島(かごしま)を待つことになった。


「孟婆はまだ支配が効いてるんじゃないか?」


 俺がそう確認すると、古城戸は首を振る。


「効いてないわよ。本人がそう言ってたもの」

「その割には協力的のようだが」

「私に反抗的でもメリットが無いと知っているのよ」


 確かに古城戸に反抗的であった場合、例えば拘束具をつけられたり痛めつけられたりするようなことがあるのかもしれない。人間相手の場合は権利だとか法律だとかでそんなことはできないが、魔物相手なら極論殺すことだって違法にはならないのだから、多少痛めつけるくらいは平気でするだろう。それなら従順なフリをしているほうが身のためというものだ。おそらくはこの十年の間にそれなりのことはあったのではないだろうか。


「……信用はできないということか」

「命を投げ出して私をかばったりはしないわね。彼女にしてみれば、私が年老いて死ぬまでの数十年間、我慢すればいいだけなんだから」


 魔物にとって数十年などは短いものだろう。俺達や政府関係者が年老いて死に絶え、世代が代わってそれでも解放されなかったとしても、ならば国が亡ぶまで待てばいいだけだ。ただ、痛い思いはしたくないし逃げられるなら逃げるだろう。


「聖人の一部に触れれば祓えるというのは信じられるのか?」

「……魔物はそういう嘘はつかないのよ」

「なんでだ?」

「奴らは自分の存在意義というか、起源みたいなものに縛られているわ。ん、縛られているというのは語弊があるわね。固執してる、かな。だからそれに反するようなことは絶対しないの」

「例えば古城戸がまともな恋愛をしない、というような話か?」

「そう、そういう意味」


 古城戸は雷沢帰妹(レジグマ)の因果を背負っている。雷沢帰妹(レジグマ)は禁断の恋に突き進み破滅する因果だ。だから普通の恋愛をしようと思えば出来るのかもしれないが、意識せずとも禁断の恋に惹かれてしまう。それと同様に、魔物も自らの起源に反した行動は取れないということだ。孟婆は亡くなった人間の魂を煉獄に送り出して浄化する役割を持つから、嘘が許されるような立場ではない、ということだろう。


「奴らの存在意義であり、弱点でもあるわけだな」

「そういう生き方は嫌いじゃないわ」


 人間は何のために生きるのか。生物である以上は子孫の繁栄だったり自己防衛のためだったりする。だが今の現代社会において、生きる意味を見出すのは難しい。俺達パーグアは、自分の因果にどうしても振り回される生き方しかできない。そういう意味ではパーグアも魔物も似たようなものなのだ。



この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

記載されている会社名および製品名は、各社の登録商標または商標です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ