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特別国庫管理部  作者: 安曇 東成


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三章 八 水族館ではお静かに


 写真の仕事が片付いてから数日後、俺は確率操作のパーグア山路悠斗を捕らえる作戦を練った。石橋無しでも大丈夫な気もするが、石橋の手を借りれば確実だろう。作戦内容を古城戸に話したら興味が無さそうに、「任せる」とだけ言った。ひどい奴だ。ハイエースだけ出してもらい、俺は政府に一つ依頼事項を連絡する。


 山路は結局引っ越しはしていないようだ。能力に余程自信があるのか、引っ越すほど警戒をしていないということだろう。


 翌日、俺はまた石橋と渋谷で合流した。今日はサマージャンボ宝くじの発売日だ。山路がこれを購入し、十億円を当選させてくるのは間違いないので、この日に合わせて準備した。


「作戦できたんか?」


 石橋はハイエースの助手席から外を見ながら言った。


「ああ。今回も同じように捕まえに行くが、もしあいつが八卦を使ったら止めてくれ」


 石橋はこちらを見る。


「それはええけど、事前に確率操作されてたらあかんで? 前もそうやったやろ」

「もちろん前回と同じ轍は踏まない。今回は相手の事前操作は無いものと思っていい」

「なんで?」


 石橋の疑問は当然だ。


「後ろの積荷が秘密兵器だ。事が終わったら教えてやるよ」


 石橋は荷台を振り返る。荷台には棺桶の半分ほどの大きさの箱が幾重もの黒いビニールで覆われていた。


 石橋は半信半疑な様子だったが、自分の仕事はしてくれるだろう。

 俺は車を三〇五号線の宝くじ売り場にほど近い場所に停める。監視員から家を出たと連絡を受けて四十分、そろそろ現れるはずだ。


 ほどなくして、渋谷駅のほうから山路らしき男が歩いてくる。石橋も気づいたらしく、助手席側のサイドミラーで見ている。


 あと十五メートル、山路は俺たちには気づいていない。


 山路が歩道を歩き、俺たちのハイエースを通り過ぎる瞬間、俺は八卦を行使。『沢風大過(ジーフェンダ)』を山路にぶつける。これであいつは今日一日最悪の運勢になる。


 山路は俺の八卦の行使に気づかなかったようだ。俺たちパーグアは近くで八卦の行使があれば因果の発生を感じることができるが、山路は今まで他のパーグアに会ったことがないのだろう。他の因果を感じ取る機会が今までなかったに違いない。完全に我流で身に着けた八卦だということだ。


 さっそく山路は犬の糞を踏んだ。慌てて靴を街路樹に擦りつけて落そうとしているが、その瞬間に街路樹にとまっていた鳥が糞をして山路の肩に落ちる。

 俺と石橋は爆笑してその様子を見ている。


「何したん? いきなり糞まみれやけど」


 石橋が笑いながら聞いてくる。


「『沢風大過(ジーフェンダ)』であいつの運勢を最悪にした。これで逃げられない」

「そういうことか。あいつは『何かあっても逃げ切れる』確率を上げたかもしれんけど、『何かあってからじゃ遅い』ってことやな」

「そういうことだ。『何も起きない確率』を上げるべきだったな」


 そんな話をしているうちに、山路はもう一度犬の糞を踏んだ。石橋は涙目になって見ている。山路はもう靴の糞を落とすことは諦めたのか、宝くじ売り場の前に立った。


 俺と石橋はそこで車から降り、山路の後ろにつく。


 山路が宝くじを買った瞬間、俺は肩に手をかけようとしたが、先ほど鳥の糞が落ちたことを思い出し、腕を掴んだ。


「な!?」


 突然のことだったが、山路は俺の手を振り払って逃走を開始した。また道路を横断するつもりなのか、八卦『火天大有(フォチダユ)』を発動、しない。石橋が『雷水解(レースーシ)』で止める。山路は何が起こったのか理解不能な顔で石橋を見た。石橋が何かをしたことはパーグアとしての本能で感じ取ったのだろう。


「逃がさんよ」


 石橋はそういうと俺とは逆方向から山路を挟む。


「なんなんだよ! お前ら!」


 山路は道路を渡ることは諦めたのか、俺たちに怒鳴る。


「君がやっていることを俺たちは知っている。ちょっと来てもらおうか」


 俺がそう告げると山路は狼狽える。


「なんのことだよ! 俺は何も悪いことはしてない!」


 俺は一歩前に進むと山路は一歩下がる。もう一度犬の糞を踏んだ。石橋は腹を抱えて笑っている。


「いいから来るんだ。悪いようにはしないから」


 山路はどうしても俺が信用できないのか、方向転換して道路を横断すべく飛び出した。人生最悪の運勢で道路に飛び出せば結果は一つだ。たちまち山路は車に撥ねられ、手足があらぬ方向に曲がって血だまりが広がる。渋谷の往来は大騒ぎになり、写メを撮る人で溢れかえる。


「うわ、超グロい~」

「骨出てるよ」

「血やばすぎ」

「何? 自殺?」


 など往来から聞こえてくる。俺たちはここに長くいないほうがいいだろう。

 救急車が来る頃、俺と石橋はハイエースで現場を離れた。


「死んだかな」


 俺がそう言うと石橋も頷く。


「あれはあかんやろ。しかしエグいな、『沢風大過(ジーフェンダ)』? やっけ?」

「ああ、あれほどキツイとは俺も思わなかった」

「後ろのアレなんなん?」


 石橋は気になっていたのか聞いてくる。


「あの中身は、太歳(タイソエイ)という魔物がいる。古城戸が出した」

「魔物? よーそんなもん持ち出したな」

「かなり危ないぞ。顔を見ただけで死ぬからな」

「マジで? 大丈夫かよ」

「その魔物が『沢風大過(ジーフェンダ)』の塊なんだよ。あらゆる凶を含んだ最悪な奴だ」


 石橋は恐怖を感じたのか、助手席の背もたれから背中を浮かせた。


「こわ! 怖すぎやろ」

「密閉してあるから大丈夫だ。さっさと返す」

「もう俺ここでいいで。降ろしてや」


 石橋は相当怖かったのか、そこで車を降りた。恨めしそうに荷台を見る。


「今日は助かった。またな」

「もうこれは連れてくんなよ」


 石橋は顎で荷台を指す。


「石橋も笑ってたくせに」


 石橋は思い出したのか短く笑う。


「おもろかったけど。でもあかんわ」


 俺は助手席の窓を閉め、手を振って発進する。石橋は手を振らず、そのまま背を向けて歩いて行く。


 俺は事務所に帰る道すがら、政府に太歳(タイソエイ)を引き取りに来るよう連絡をした。また施設に収容してもらわなければ。事務所に着いてしばらくすると、一台のセダンが引き取りに来た。助手席から出てきた研究員にハイエースの鍵を渡し、ハイエースごと引き取られていくのを見送った。凶が去って一安心だ。


 事務所の十階『国庫管理部』には古城戸がいつものように座っていた。俺の顔をみて結果が分かったらしい。


「うまくいったのね」


 俺は自席に座りながら古城戸に言う。


「どうだかな。とりあえず山路は交通事故で死んだと思う。死亡確認はしていないが、多分ダメだろうな」

「そう。結局太歳(タイソエイ)を使ったのね。かわいそうに」


 間接的とはいえ、人生最悪の運を叩きつけて殺したのは俺だ。太歳(タイソエイ)の力を借りたことを少し後悔する。


「後味は最悪だな。もう使うことがないことを願うよ」

「そうね。もうやめたほうがいいわね。由井薗君自身にもきっと良くない」


 古城戸はそういうとキーボードを忙しなく叩き何かを打ち込む。もう会話は終わりということだ。


 山路を止める方法は、あれしかなかったのだろうか。目の前に太歳(タイソエイ)の力がぶら下がったせいで頭がそれに囚われすぎたのではないか。『沢風大過(ジーフェンダ)』に触れることで俺自身が凶に侵されてしまうのではないか、そんな気すらしてくる。太歳(タイソエイ)とのあの辛気臭い会話を思い出し、やはりもう『沢風大過(ジーフェンダ)』を使うのはやめようと決めた。あの力に慣れてしまったら、俺は怪物になるだろう。



この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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