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特別国庫管理部  作者: 安曇 東成


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二章 二 新人教育二限目


 事務所に戻ってからは新人の教育だ。ホワイトボードに八卦の卦名を書いていく。『雷沢帰妹』『風雷益』『山沢損』『雷水解』


「この『雷沢帰妹(レジグマ)』はもうどういう卦か知っているな? 今日は『風雷益(フーレーイ)』についてだ。これは俺の因果だよ」


 新人達は皆、俺を注視している。俺は続ける。


「これは、日本のおみくじでいうところの『大吉』にあたる。何をやっても順調で、利益は隅々まで行き渡るというものだ」


 鳴神(なるかみ)は目を輝かせる。


「だが、これは自分を諫める言葉でもある。自分のことだけ考えては敵を作る、周りに分け与えよ、そうすれば自分もリターンを得るだろう、という意味だよ」


 (そよぎ)はまだピンときていないような表情だ。


「能力的にはな、俺は周りのパーグアの能力が使える」


 新人は皆驚きの表情を隠せないようだ。そうだよな。

 鳴神(なるかみ)が手を挙げて発言する。


「そ、それって最強じゃないですか? 古城戸所長の力も使えるってことですよね?」


 やはりそう思うよな。


「使えるが、俺の能力は数段落ちる。古城戸は大抵何でも持ち出せるが、俺は写真しか持ち出せない。そんな具合でかなりの劣化コピーなんだよ」


 よく言えば万能だが、悪く言えば器用貧乏。結局のところ何もできないに等しい。

 新人たちは顔を見合わせている。


「しかも、一人だとコピーする元がいないから何もできない」


 生徒たちはみな苦笑いする。すべてを持ち帰られる人が隣にいる状況でしか写真を持ち出せない、というのはかなり意味が無いと気づいたのだ。


「よし、じゃあ次だ」


 俺はホワイトボードに書いた『山沢損(シャンツーセ)』を指す。


「これは、今は損をしても必ず利益がある、というものだよ。亡くなった古城戸の兄の因果だ」


 新人たちは皆続きが気になってしょうがないらしい。


「強引な言い方になるが、目先の損に目をつぶれば必ず理想が手に入る、ということだ。能力は『相手の支配』だ。規格外の能力だけど、古城戸延行はもう亡くなっている」


 鳴神(なるかみ)がまた手を挙げて発言する。


「そんなすごい人が何故? 病気ですか?」

「災害に巻き込まれて亡くなったそうだよ」


 新人は波を打って静まる。


「最後はこれだ」


 俺はホワイトボードに書いた『雷水解(レースーシ)』を指す。


「これは俺の同期の石橋の因果だ。意味としては苦難からの解放や、苦労が報われる、という内容になる」


 生徒は続きを待つ。


「パーグアというものは誰しもが苦難を味わっている。『雷水解(レースーシ)』は、それらから一時的に解き放つことができる。すなわち、相手の能力発動を阻止することができる。たとえば古城戸が道具を出すのを阻止する、という具合にな」


 (そよぎ)が手を挙げる。どうぞと手をやる。


「日常生活で役立つものではないってことですよね」

「そう。日常ではまったく意味はない。悪事を働くパーグアを捕まえる時くらいだな」


 俺は続ける。


「八卦を知るには、『周易』を勉強する必要があるぞ。太極(たいきょく)から両儀(りょうぎ)が生まれ、四象(よんしょう)となり八卦と為す。八卦は吉凶を定め、大業を生ずる、とある」


 そう言うとホワイトボードに書いていく。

『易有太極 是生兩儀 兩儀生四象 四象生八卦 八卦定吉凶 吉凶生大業』


「太極というのは、西洋魔術でいう『アカシックレコード』というやつだ。ヒンドゥー教では『ブラフマン』と言う。太極拳って聞いたことがあるだろう? その太極だよ。両儀というのはあまり聞かないかもしれないが、万物の根源たる太極から生ずる陰と陽の両極、それが両儀。両儀からは四象となる。四象は春夏秋冬を指す。古代中国では陰と陽の相互作用が季節を変えると思われていたんだ。そこから八卦に分かれる。ケンシンソンカンゴンコンの八つだ。これはそれぞれ方位にも絡んでいて、風水にも使われる。これらが六十四卦を生ずるというわけだ。身近な例だと「乾坤一擲(けんこんいってき)」という(ことわざ)の『乾坤(けんこん)』の部分とかな。この諺の意味は、天と地を賭けて勝負する、という意味にもあるように、『乾』『坤』はそれぞれ天と地を意味している」


 新人達は一様に難しい顔をしている。まだまだ勉強が必要なようだ。

 そこで定時の鈴。俺はさっさと片づけて「じゃあ終わりね」と告げて出ていく。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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