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四代将軍とも外伝  作者: 山田靖
続・源とも物語
8/33

四代将軍源とも、オテンバ源平合戦!

 さてさて、四代将軍源とも、であります。

 女だてらに武家の棟梁、征夷大将軍!

 動けば疾風、発すれば雷鳴!

 英姿颯爽・清廉潔白・品行方正・天真爛漫・奇妙奇天烈・摩訶不思議!

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!

 本邦初!唄って踊れる殿上人!

 人呼んで「時の女」

 ご存知、四代将軍源とも外伝!

 始まり、始まりィーっ!

 四代将軍源とも、女子おなごながら武家の棟梁、天下兵馬之権てんかへいばのけんを掌握する幕府の長であります。勿体無くも天子様より任命された大役、ゆめゆめ疎漏あってはなりません。天下の秩序を守り安寧をもたらす大役。為に滅私奉公、粉骨砕身の日々。更には女人といえど武人でありますから、いざいくさとなれば千軍万馬の采配を任される。したがって大将たるもの、あらゆる戦略戦術に精通せねばいけません。かくて源とも、いにしえの兵法書を紐解き研究に勤しむのです。

 といって、ともには「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」と云った小難しい格言めいた兵法は面白くありません。武経七書ぶけいしちしょ孫子そんしだの呉子ごしといったところは、どうにも観念的。ともには坊主の説教に聞こえる。机上の空論なんだなぁ。それよりも実戦の記録の方が遥かに参考になります。何より勇壮、果敢、凛然、血沸き肉躍る!「史記」の項羽こうう劉邦りゅうほう、「三国志」劉備玄徳りゅうびげんとく曹操そうそう孫権そんけんだの英雄豪傑が闊歩する物語に熱中いたします。

 そして何と云っても、ともの琴線に触れるのは、本邦の軍記もの。殊に源平の争いは、ともにとって他人事ではありません。ほんの数十年前の出来事。関係者もまだ多数存命している。ともは、それらの人々から直接話を聞きました。当事者でしか知り得ぬ真相、生々しい証言に、ともは保元平治以来の合戦を詳細に検分していきます。発端、陣形、戦況・・・勝負は時の運などと申しますが、必ず理由がありました。負けた方はとんでもない失策を犯している!嗚呼成程、戦は人間のするものでした。通常であれば有得ない判断を下してしまうのです。平氏は負けるべくして負けた、自滅でしょう。ともはそれを悔やみます。挙句には平氏に肩入れ「こうすれば勝てた!」と戦略を練り直すのでした。


 武家政権は彼等の流血によって誕生しました。継承者たる、ともは肝に銘じておかねばなりません。ともの源平合戦研究は病膏肓に入り、遂に実演にまで到達します。現場で実際にやっいてみてこそ、モノノフの心意気が伝わろうというもの。

 ところで平氏に大いに同情したともですが、やるならやはり「勝ち戦」源氏先達を優先いたします。しかも勝つだけあって、派手で威勢のいい戦法が目白押し。


 ともは日頃から九郎判官義経くろうほうがんよしつねを崇拝しております。

 彗星の如く現れた稀代の天才児!連戦連勝!寡兵を持って大軍を破る!奇襲奇策!大功を成し遂げながら、兄・頼朝よりともに追われ、奥州衣川に散った波乱の生涯!

 ともは紅涙を振り絞り「頼朝というのは何て酷いヤツなんだ!」と憤るのでした。ともは普段からこの叔父を意識し、立ち居振る舞いを物真似するくらい熱を上げていますから、義経の戦の忠実な再現に取り掛かります。

 先ずは壇ノ浦の戦いにおける「八艘飛び」に挑みます。加茂川に舟を並べて浮かべたが、バラバラで舟と舟の間が安く見積もっても二間は離れておるではないか!ともは舟と舟を綱でシッカリ繋ぐよう命じます。隙間があってはならんぞ!かくて舟のいかだが完成。万全を期し、いよいよ挑戦!しようとしたところ、舟は波間に揺れどうにも立っているのがやっと。ともは何とか両足で踏ん張るうち、気持ち悪くなってきました。目眩がし、胸焼けがします。それでも健気に背筋を伸ばし、込み上げてくる酸っぱいものを呑み込みました。そして意を決して跳躍・・・・そのまま水没。ともはシタタカに水を呑み、這う這うの体で引き揚げられます。

「いや、これは能登守教経のとのかみのりつねから逃げた時だからな。戦法ではない。手本にならぬ」


「佐々木高綱ささきたかつな梶原景季かじわらかげすえの宇治川の先陣争い!」

 わざわざ宇治川まで出張るのも億劫なのでまたも加茂川。帝より拝領の自慢の名馬「葉月はづき」「かげろう」を引き出します。ともが「葉月」、英次えいじに「かげろう」で、どちらが対岸まで先着するか、さぁ競争! 

 ところが「葉月」も「かげろう」も水を嫌がって入ろうともしない。頑としてして梃子でも動きません。怒髪天衝く四代将軍、手綱を掴んで引き摺るも「葉月」が棹立ちになるや・・・そのまま水没。ともはシタタカに水を呑み、這う這うの体で引き揚げられます。

「けしからん・・・京は馬まで公家かっ?軟弱者!」


 さてさて、源平合戦の白眉は何といっても屋島の戦い!

 圧巻は「那須与一なすのよいち、扇の的」でございましょう。

 例によって加茂川にスルスルと漕ぎ出づ一艘の小舟。「玉虫の前」と呼ばれた柳御前やなぎのまえ、畏れ多くも大胆に平家一の美女に扮した、ともが船縁に立つ。金の日の丸の扇を挟んだ竿を立て「やよ、六波羅衆の弓の力を見たし。この扇の的を射貫く者は無きや」と挑発。岸から家人共が矢を射ますが、どうにも、当たるどころか届きもしません。

「はてさて、情けなき者共よのぉ・・・」

 嘆きが終わらぬうちに、善行ぜんぎょうの放った矢が、ともの足元にブツリ!何処を狙っておる!と冷や汗かいて叱責する間に二の矢、三の矢が次々、ともの周辺にブッ刺さる。さぁ、それからは雨アラレ。家人共は、ここぞとばかり露骨にとも目がけて発射!

「こっこらーっ!やめろーっ!扇だ、扇に当てるんだぞ!ともを狙うんじゃないっ。扇だーっ!貴様等、ともに何か恨みでもあるのかーっ!やめてーっ!ごめんなさいーっ!」

 堪らず、ともは川面に身を投げる・・・そのまま水没。ともはシタタカに水を呑み、這う這うの体で引き揚げられます。

「・・・・・・・・・・」


 水に懲りた四代将軍源とも様、陸戦に活路を求めます。

「ともも、畠山重忠はたけやましげただのような剛の者が家人に欲しい」

 誰ぞ、馬を担いで崖から飛降りる者はないか・・・と呟く前に、目の前から家人が消える。忠義なき奴等だ!ともは人材に恵まれぬ、と嘆息。しかし、こんなことでめげる四代将軍ではありません。次なる秘策をば着々と練っていたのです。

 俱利伽羅峠くりからとうげの戦いにおける木曽義仲きそよしなかの夜襲は痛快である!

 牛の角に松明をつけて敵陣中に放つという作戦は実に面白い!来るべき北條との決戦時に敢行し、憎っくき泰時やすときめの肝や潰さん!

 早速、庭に牛を引き出してみたが、嫌がるのでそもそも角に松明が括りつけられない。

「何をしておる。モタモタするな。おいおい用心しろ。いや、火の着いたやつじゃなく・・・いいか?落とすなよ。それで火を着けろ。怖がるんじゃないっ!そうそう、そぉっと離してみろ。うわっ!危ない!やめろ!逃げるんじゃないっ!ひぇっ大丈夫か!押さえつけるんだ!火、火、火!水を持ってこい、水を!消せっ!消せーっ!」

 牛は狂ったように暴れ、同じところをグルグル走り回り手がつけられない。こっこれでは、敵陣へ放つ前に味方が全滅だ。・・・ほ、本当に成功したのか?とてもじゃないが信じられん。いや、実行してないだろ、これ。絶対やってない。やれるハズがない。大体、狭い山道で牛の大群をどうやって揃えたのだ?畜生に作戦が判るのか?後でどう処理つけたのだ?・・・デタラメにも程がある!朝日将軍あさひしょうぐんの大法螺だろ?そうに違いない。あのオヤジ・・・成程、義仲は京で評判が悪い訳だ。こうなると何もかもが怪しくなってくる。ともは颯爽とした巴御前ともえごぜんに憧れていた。が、今となっては、その男勝りもアヤシイ!愛人をワザワザ戦場に同伴する口実だったのではないか?口惜しや、裏切られたっ!

 ともは、義仲を助平に認定。ハッタリ男と見限ったのでございます。


 かくて、四代将軍様御自ら体を張っての気宇壮大な実験は多くの教訓を残しました。

 痛感したのは、戦の虚しさ恐ろしさであります。嗚呼、戦はいけない。あんなことはもう二度と真っ平御免被る。戦のない平和な世の中にせねばならぬ。

 ともは、お天道様に固く誓うのでありました。


「四代将軍源とも、オテンバ源平合戦!」これにて!

 ありがとうございます!ありがとうございます!

 またの機会をご贔屓に!

 それでは皆様、ご機嫌よう!!


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