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四代将軍とも外伝  作者: 山田靖
付録:嫁振本太平記巻二十七「雲景未来記事」(抄)
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四代将軍源とも、狂熱ノ舞踊!

 雲景うんけいは不思議な山伏の跡をつけてゆきます。山伏は口の中で何やら呟き乍ら脇目も降らずスタスタと足早に向かう。雲景は見失うまいと焦るものの、道悪の上、濃い霧が出てきた。どれ位、登ってきたのでしょう。息苦しくなってきました。硫黄臭が鼻につく。見え隠れに山伏を追う。ピカッ!稲妻が走った。途端に轟音と共に激しい雨と風が吹き荒れます。バラバラと雹が当たる。寒い。震えが止まらない。全身ズブ濡れ。手足の感覚が麻痺してきた。雲景は蓑を飛ばされぬよう身を縮めました。山伏の姿はもう小さな影にしか見えません。慌てて駆け出す。急な坂道。足元は泥濘ぬかるみでゴロゴロと大きな石が転がってる。ニチャリ、何やら柔らかいものを踏んだようです。しかもそれは、スルスルと逃げていった。げっ蛇だ。蛇がいるのか。ポトンと首筋に冷たいものと思いきや、チクと痛痒い。払いのけると一寸程もあるひるがたっぷりと血を吸っていた。「うわあっ!」雲景、辺りを見廻し仰天!泥濘には夥しい蛇や蜥蜴とかげかえる百足むかで蚯蚓みみず蛞蝓なめくじ等がガソゴソガサゴソうごめき合ってるのです!そしてそして、石だと思っていたのは、何と人骨、髑髏しゃれこうべ!ここは地獄か?雲景が立ち竦んでいると、目の前にあの山伏がニヤリと笑っていた。


「さあ、着いたぞ。とくと観るがよい」

 崖から見下ろすや、深い谷底はボオッと淡く輝いていました。ザワザワと大勢人が騒いでいる。いっいや、人ではない!鬼だ!牛頭馬頭ごずめず魑魅魍魎ちみもうりょうの群れではないかっ!周囲は炎の海。王宮広間でありましょうか。金銀財宝、絢爛豪華な装飾、耳鳴りのような音楽が奏でられています。一際高い玉座をグルリと衣冠束帯が並ぶ。刺繡や宝石で彩られているが、何とそれらは皆、異形の者共!角が生え牙を剥き舌舐めずりし腐臭を放っている。彼等は大声で喚きながら酒を喰らい生肉にかぶりつくのです。

「ホレ、御覧あれ。怨みを残し亡くなった高貴な御方々であるぞ。玉座におられるは、生きながらにして夜叉となり御隠れ後には悪魔大王となられた崇徳上皇である。左右には淡路廃帝や井上皇后、後鳥羽上皇、さらに後醍醐天皇に護良親王の御姿。お仕えするは、源為朝・楠木正成・新田義貞等、古今の忠臣じゃ。仁徳を失い賤しき怨霊と仮すも、逆賊足利尊氏・直義を討たんとし、また天下を騒乱し転覆せんとの思し召しである」


 中央の舞台では様々な余興が行われています。生きたまま人間を釜茹でにしたり、両手両足の縄を牛に引かせ八つ裂き、鞭打ち、緊縛、火炙り、水責め、串刺し、生き埋め、ありとあらゆる拷問が繰り広げられた。その度にヤンヤヤンヤの哄笑が沸き立つ。


 宴は最高潮!地鳴りのような歓声の中、一糸纏わぬ全裸の美少女が手を振り満面の笑みで入場!彼女は剣を携えるや激しい旋律に乗って踊りだしたのです。舞台全体を駆け巡り、飛び、跳ね、空中で回転する。一転、床に這いずって媚誘うような目で見上げると舌を出す。最後は、鎖に繋がれた怯える若い男の裸体を剣で切り刻み、陽物を引きちぎり、心の臓をえぐり出すやガブガブ血を啜る。落とした生首にウットリと熱い接吻。血を拭い掌をペロッと舐めるや、玉座に向かって小首を傾げ片目を瞑りニッコリと微笑むではありませんか。

 ギャァァァーッ!悲鳴、歓声、喝采!場内は嵐のような熱狂と興奮の渦に包まれた。


「鎌倉幕府にただひとりで歯向かった四代将軍源朝子の成れ果てよ」


 *太平記の異本は数あれど、有名な魔界会談の条で、四代将軍源朝子が登場するのはこの嫁振本よめふりぼん(成立年度不明)のみである。

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