四代将軍源とも、島人ヌ血風録!(下)
琉球に未曾有の大乱が勃発!
この美しい島を我が物せんと、妖僧・曚雲、祝女・阿公が暗躍。近衛兵・利勇を唆し王を暗殺、首里城占拠!しかし、縫王女の通報で悪事露見、浦添按司・舜天の知るところとなる。舜天は父サムライ・ハチローと共に決起!多勢に無勢ながら一気呵成の猛攻!一方、旗色悪しと見た曚雲、大声で呪文を唱えるや、にわかに黒雲立ち込め大嵐!ハチロー軍、瞬く間に濁流に呑み込まれた。茫然と立ち尽くすハチロー、その脇腹に敵兵が槍を突く!絶体絶命!
その時現出たる謎の美女!宝龍、ハチローを一喝!
「鎮西八郎為朝!」
「鎮西八郎為朝!」
ハッ!聞くや否や、ハチローの血が逆流し沸騰!魂が揺さぶられ、腹中に眠っていた獅子が覚醒したのだ。何十年振りに聞く名であろう。
剛勇無双!鎮西八郎源為朝!
清和帝七代の後胤・河内国為義が八男。容貌魁偉、勇猛で傍若無人。無双の弓矢の達者!父に疎まれ九州に追放されるも、一帯を制覇「鎮西八郎」を名乗る。保元の乱では上皇方につき、大奮戦も武運拙く敗走。新天地を求め、琉球へと渡った・・・
そうだ、俺は鎮西八郎!遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!剛勇無双!“五人張り”剛弓を冥土の土産とせよ!ハチロー、弓を満月の如く引き絞り、ひょうふっつと放てば、太矢は弧を描き、狙い違わず曚雲の胸をズブと貫いたりィ!曚雲、血を吐き昏倒!それきり、怪獣・禍の姿はプッツリ消え、あれ程荒れ狂っていた嵐もピタリと止んだ。・・・総ては曚雲の幻術、マヤカシだったのだ。一気に戦況は逆転!
勇躍、ハチローは城攻めを命じた。
その頃、舜天は僅かな手勢を率い裏門から首里城に侵入した。野戦に気を取られ警固は手薄。舜天は場内に火を放ち混乱に乗じて玉座を襲撃!何とそこでは利勇と阿公が、破廉恥にも戯れているでないか!
「おのれ、醜怪な!」
舜天は剣で切りつけたが、流石に元軍人利勇も応戦。同時に、宮廷のあちこちで凄まじい戦闘が開始された。勢い余って舜天が足を滑らせ転倒したところ、利勇は馬乗りになり首を絞める。あわや!その時、白・發・中の三兄弟が駆け付け利勇を引き剥がす。間一髪!だが、白が利勇に顔を割られ昏倒!利勇が残忍にも白の首を搔き切る。手元が滑りやや体勢が崩れた。その刹那「奸賊!」叫ぶや舜天、剣を大上段に振りかざし、利勇の脳天から腰骨まで一刀両断!返り血で真っ赤に染まった舜天は、利勇の首を城門に晒し凱歌を挙げた。
阿公は侍女に紛れて逃げようとするところ、發・中によって捕縛。
「兄の仇!」發が剣を振り上げるや、阿公は身を投げ出し土下座し命乞い。
「曚雲に脅されていたのです。妾は祝女でも何でもない、神よせも祈祷もできませぬ。悪いのは利勇!どうかご慈悲を・・・」
ギャンギャン泣き喚く阿公!余りの見苦しさに、發・中も毒気を抜かれて立ち尽くす。そこへ押っ取り刀で宝龍、ノコノコ登場!
「何やってんだ、早く斬れ!こんなの野放しにしたらまたヤラカすぞ。害にしかならん!」
「何だと!このアバズレ!」阿公、顔を上げるや鬼の形相!
「ほうらな、本性現した。判っただろ?サッサと処分しろ。どうして男はこう、女に甘いかなぁ。女の媚には毒があるんだ、気をつけろ!」
悪は滅びた。
間もなく、ハチローが入城。宝龍は改めてハチローに対し名乗りを上げる。
「三郎頼朝が末子、朝子でございます」
もう皆様、とっくにお気づきでしょうが・・・宝龍、実は源とも!清和源氏主流将軍家・頼朝の末娘。そう頼朝の父・義朝は、河内源氏・為義が長男。つまり義朝とハチロー為朝は兄弟。ハチローと頼朝は叔父甥の間柄。ということは、ハチローと宝龍は?宝龍と舜天は?ええっと・・・何ですかな?・・・ともかく、源氏一族の生き残りが目出度く対面を果たしたのであります。
「三郎・・・赤子時分しか憶えておらぬ。そうか、二十年も前に死んだか・・・そなたは長兄の孫、になるのか。年を取る訳だな。長兄は美丈夫であった。面影あるのぉ・・・」
ハチロー、胸がいっぱいでもう言葉にならない。
「思わぬ長居をいたしました。大叔父にも会えたし、そろそろお暇します」
宝龍の突然の申入れに、舜天ビックリ仰天!てっきり永住するものとばかり思っていた。もう名門河内源氏はこの琉球にしか存在しないのだから・・・それだけではない。彼等は今の琉球に必要不可欠な人材。毛受と發中兄弟には戦後処理を手伝って貰っている。そして何より父ハチローが、金太を気に入って手放さない。金太の身体能力に惚込んだハチロー、己が武芸を総て伝えるべく張り切っている。皆、溌溂としているではないか。だが、宝龍ひとり何もしていない。船に戻って籠りきり。たまに出てきては縫王女と遊んでいる。気に障ることでもあったか・・・ならば幾重にもお詫び致す・・・
「そうではありません。お別れは辛いですが、行かねばならぬ場所があるのです。これはパオの我儘ですから、奴等はここに置いていきます。發・中が残れば白も寂しくないし。金太にはパオに替わって大叔父に孝行して貰いましょう。毛受は・・・皆様に強欲が伝染るとイケナイ。持って帰ります」
酷いよぉ!毛受は嬉しそうに口を尖らせる。
宝龍の固い決意の前には、舜天も尊重せざるを得ません。
「何時、御立ちに?」
「まぁ早い方が良いでしょう。それでね、ウフフフフ・・・一寸お願いがあるのですが・・・」
「何なりとお申し付けください」
宝龍は悪戯っぽく目を輝かせ上気した顔で身を捩る。
「エヘヘヘ・・・そのぉ・・・舜天様とぉ、縫王女のぉ、婚礼が見たいっ!キャッ!パオは美男美女の色事が大好物で・・・うん、舜天様が王となって琉球を治めるのが一番良い。領民も慕っています。何、遠慮は入りません。即位式と一緒に派手に盛大におやんなさい。ムフフフ・・・」
舜天王は善政を施し、名君と慕われました。民を愛し国を富ませ、琉球は大いに繁栄します。舜天の理想は“万国津梁”として今も受け継がれているのです・・・
四代将軍とも外伝「島人ヌ血風録!」これにて大団円!
ありがとうございます、ありがとうございます!
またの機会をご贔屓に!それでは皆様、御機嫌よう!
春香という少女がおりましてな。酷く痩せて背ばかり高い陰気な子。誰とも馴染めず苛められ、何時も泣いてばかり。そんなある時、見世物がやって来た。“鬼女”という、大きくて角が生えてて牙があり、髪は金色、瞳は何と碧!碧いのですよ!鬼女は檻の中でヘビやカエルを食べていました。春香は正視できません。怖かった。そして、自分もこのまま背が伸び続ければ見世物・・・と怯えたのです。その晩、春香は寝付けなくて外に出ました。お月様が明るい。そしたら土手の木の下で・・・鬼女が座っていたのです。鬼女には角も牙もなく・・・だけど金髪で碧い目はそのまま・・・美しいひとでした。彼女は歌っていたのです。故郷の唄でしょう。ふと、そのひとは春香に気づきました。ニッコリ微笑んでくれたのです。でも、でも、春香は涙がポロポロ零れました。そのひとが何か言ってくれた。判らない、鳥のさえずるような声。春香は怖くなって走って逃げました・・・・
「この春香が何を隠そう、源とも、現在の宝龍なのです。パオは未知なるものを怖れ逃避しました。・・・以来、ずっと心が痛い。あの方にもう一度会いたい。会ってお詫びがしたい。だけど十年も前の事です、二度と会えぬでしょう。願いが叶わぬなら・・・あの方の国へ行きたい!あの方の故郷で、お月様を見上げて歌いたいのです。毛受によれば、天竺よりもっと西でもっと北ではないかと・・・だから行ってみようと思うのです。毛受は珍しいものがあれば高く売れると、欲得ずくでね。・・・縫王女、幸福になってください。男は助平で酒呑みですが、女が上手く操るのですよ。まぁ、舜天様ならお優しいから大丈夫でしょう。大叔父、金太と發・中を頼みます。白の供養も・・・晴れの門出に涙は禁物。なぁに、パオは不死身です。お土産いっぱい持って戻ってきます。・・・それでは、またやーさい!」




