四代将軍源とも、島人ヌ血風録!(上)
めんそーれ!さぁて今宵は、皆様を南国の勝地・琉球国へ誘いましょう。薩摩奄美より百里余。灼熱の太陽、遥かなる大海原、星の砂浜。ウージの森に、デイゴの花咲く。泡盛、チャンプルー、ちんすこう。トゥパラーマ、デンサー節、島唄、ハイサイおじさん、涙そうそう・・・大和と唐土の中間に在り、舟楫を以て万国の津梁となす、気候温暖にして風光明媚な蓬莱島であります。
ところが!この琉球国に今、血生臭い風が吹いてきました・・・
北山・中山・南山の三国が覇を競っていた琉球は、尚寧王によって統一された。
尚寧王は英明の誉れ高き名君。しかし、その治世は長くは続きませんでした。運命の暗転は王妃の病。祝女・阿公のお告げににより、尚寧王は禁断の蛟塚を暴きます。中から現れた妖僧・曚雲!曚雲は首里城を跋扈、妖しげな術を用い宮廷を蹂躙いたします。一方、尚寧王は阿公に篭絡され、政を顧みず酒色に溺れる。この機に乗じ曚雲は近衛兵・利勇を抱き込み反乱を唆す。遂に利勇、尚寧王を毒殺!利勇は王に即位、阿公は妃。曚雲は宰相として独裁を振るう。反対者は王族共々惨殺。あまりの手際に革命は城外に一切漏れず、知らぬ間に進行していった。
しかし、尚寧王の娘・縫王女が命からがら脱出。浦添の按司・舜天に助けを乞う。縫王女悲痛なる訴えに、舜天驚愕!まさか、そのようなことが・・・尚寧王の忠臣であった舜天は、即座に戦を覚悟。抜き差しならぬ危機も迫っている。曚雲一味の野望、琉球全土を我物なさんとす。ならば早晩、縫王女を追ってこの浦添へ殺到しよう。
その矢先、時ならぬ嵐が琉球を襲った・・・
季節外れの嵐が去り、空は雲ひとつなく晴れ渡った。舜天は運天港へと急いでいる。異国の商船が漂着との報。昨夜の暴風雨では、無理もない。しかし、この非常時に!臨戦態勢の最中、飛び込んできた招かざる客。多忙極める舜天だが、おそらくは宋船、ならば粗略には扱えない。
運天港に停泊するは三十石はあろうかという巨大な船。舜天はそこで、世にも不思議な人々と面会します。乗っているのは六人だけ。人種も年もバラバラの異様な集団であった。先ず驚いたのは全身、墨でも塗ったかのように黒い大男!そして背の低いでっぷりと肥えた老人と若い三名は、漢人であろう。更に奥には華奢な男が静かに座っていた。弁服に身を包んでいるが、女のような美しい顔立ち・・・いや、どう見ても女だ。はて?男とも女ともつかない、得体の知れぬ・・・あっ!舜天は思い当たった。男であって男でない。そうあれが伝え聞く“宦官”に相違ない。舜天は従者にそっと囁いた。ところが相手にも聞こえてしまったらしい。
「きゃっ!」
“宦官”が弾けるように笑った。そして何と驚いたことに流暢な大和言葉を発するではないか。
「違う、違う!宦官ってのはな、男でその・・・無いというか取っちゃうんだ。だから見た目は、ただのオッサンだぞ。でも付いてるもんが付いてないと不具合なんだろうな。どっか歪んでる。気色わるい。決してこんなに見目麗しゅうないぞ。我は立派な女子!この格好は変装だ、変装。女と知れると、いろいろ都合が悪くての。まして美人となると危険がいっぱいだ。そうそう名乗りが遅れた、宝龍である。タカラのリュウと書く。パオと呼んでくれてかまわん」
舜天は赤面し只管恐れ入るばかり。怒っている様子でないことに、やや安堵。宝龍は面白そうに小首を傾げニッコリと微笑んだ。
「爺様が“毛受”宋の商人だ。欲深でなかなか悪知恵が回る。こっちは水夫で“白”發“中”兄弟でな。よく似てるだろ?見分けがつかん。三人纏めて呼ぶときは“大三元”でヨロシイ。そして黒い大きいのが“金太”背丈測ったらピッタリ六尺!凄いだろ?でもな、彼の国では普通なんだ。遠い遠い暑い暑い国らしい。パオも女にしては大きいから悩んでいたが、安心した。いやぁ、世界は広い。あっ皆の名前、本当は妙竹林で長ったらしいから、パオが勝手に変えた。憶え易くて良い名だろ?」
宝龍は黒く大きな瞳で真っ直ぐに見据えて語る。
「天竺行こうと潜り込んだのが、この毛受の船でな。そしたら海賊に襲われるわ、難破するわで・・・悪いことはできん」
毛受がにこやかに引き取った。
「宝龍様に救っていただいたのです。船を襲われ殺されるところでした。宝龍様は奸計を用い、海賊共を無人島に置去りにして船を奪回!この金太・大三元にしても、奴隷として売られるところ、宝龍様に開放されました。皆の命の恩人です。以来、御供させて頂いております」
女子の身で何たる大胆不敵!舜天は舌を巻く。
「そんなこんなで、暫く厄介になる。よろしく頼む」
いや、実は・・・舜天は事態を包み隠さず明さねばならない。戦に巻き込まれる危険を説いた。聞くや、宝龍は眼を輝かせ頬を紅潮させ叫んだ!
「何ィ?主君を大逆し、あまつさえ王を僭称だとぉ!巫山戯るなっ!卑怯未練、極悪非道、大謀反人!到底、天の赦すところではないっ!いや、この宝龍が許さん!舜天様、お味方いたす。なんたる千歳一隅!盲亀の浮木、優曇華の花!此処で逢うたが百年目!これも南無八幡大菩薩のお導きか。なぁに、戦は得意中の得意!この金太も歴戦の勇士なのです。心配ご無用!大船に乗ったつもりで。鎧袖一触、目にもの見せてくれん!」
あまりの鼻息に、舜天も断り切れず助太刀を頼む。宝龍一行は意気揚々と船を下ります。
「浦添で籠城?駄目だ、駄目駄目!先手を打って首里を奇襲すべし!攻撃は最大の防御なり、だ」
道すがら宝龍はすっかり軍師気取りで献策する、献策する!思わぬ事態に舜天は戸惑うばかり。ふと、宝龍が足を止めた。
「あっ、それからサムライ・ハチローに会いたい」
舜天、動転!
サムライ・ハチローに会いたい、だとぉ?
何故、そなたがその名を知っている?
サムライ・ハチロー、サムライ・ハチローとは・・・舜天の、実の父なのだ!
琉球王家を簒奪す曚雲一味!
そうはさせじと、舜天の反撃なるか?国家存亡を賭けた一大決戦!
風雲急を告げる!
割って入るは、謎の美少女・宝龍率いるアヤシゲな集団!
サムライ・ハチローとの因縁や如何に?
・・・これから先が面白い!
次回「島人ヌ血風録(中)」乞う、ご期待!
にふぇーでーびるっ!




