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四代将軍とも外伝  作者: 山田靖
なでしこ公方様異聞
25/33

四代将軍源とも、暗闇坂ノ仇討!

 貞応元年四月八日、加賀国石川郡金沢の暗闇坂くらがりざかにおいて、齢わずかとお臼井重太郎うすいしげたろうが父の仇である郡司・杉下隼人すぎしたはやとを討取った。この事件は荘園をめぐる不正、国司と守護の対立が背後にあり、幕府が介入する騒動となった。更に、逃亡中のさきの四代将軍源ともの関与も疑われ、長く世間の耳目を集めた。本邦四大仇討ちのひとつに喧伝される・・・

 貞応元年四月、加賀国石川郡の春は遅い。十歳になる臼井重太郎うすいしげたろうは毎朝、坂の途中にある祠のお参りを日課としていた。坂は細くデコボコして鬱蒼と木が繁る。昼間でも日が射すことがなく暗い。降り切ってしまうと、いきなり目の前が明るくなり、市の立つ賑やかな通りに出る。わずかな距離だが山から平地へ唐突に開かれ、まるで国を越えたような不思議な感覚。寺からの近道である為、利用者は割合多い。

 重太郎は何時ものように祠に手を合わせたが「おや?」と周囲を見回した。様子が違う。誰かに見られているような気がするのだ。が、誰もいない。重太郎は首を振って雑念を払おうとした。いかん、いかん。大願成就のその日まで脇目を振るいとまはない。

「何卒、父の仇を討たせ賜え!」

 その時、風が鳴った。空から人が降ってきた。頭上で声がした。

「ひぃ!」重太郎は尻餅をつき、そのまま動けない。

「先刻、物騒な願を懸けたは貴様であるか?」

 重太郎はガタガタ震え歯の根が合わない。背の高い武家が見下ろしている。その眼光の鋭さに、重太郎はビックリしてヘタリ込んでしまった。

「怖がらんでもよい。喰いつきゃあせん。よく見ろ、こんな美人が狼藉なぞ働くか」

 そう言われて恐る恐る目を開け、マジマジと声の主を凝視した。重太郎は改めて腰を抜かした。こんな奇妙なひとは見たことがない。

 やたらと背が高い。が、体つきは華奢で女人のようであった。顔は小さく目が大きい。細面で鼻筋が通って何となく綺麗で、やっぱり女のひとだ。なのに、装束は直垂で刀まで差している。その装いも派手で、萌黄に紅が散りばめてある。もしかして都の公家侍というものであろうか?いや、声音からもハッキリ女人と知れる。女が男の、しかも武家の風体。重太郎は気味が悪くなった。この世のものではない。物の怪かなにか・・・それが頭上で・・・もっ餅を食ってる!あれは確か昨日、重太郎が祠にお供えしたものだ。いよいよ得体が知れない。ガタガタ震えながらフト、重太郎は和尚さんに聞いた話を思い出した。

 ”ひとが死ぬと肉体は滅び魂のみとなる。魂は裁きを受け浄化され次の肉体に転生する。魂には男女の区別なぞない。冥界で亡者が男や女の恰好なのは、まだ娑婆しゃばの記憶が残っておるからだ。迷っているのだ。仏様の像を見なされ。男でも女でもない”

「あ、アナタは・・・神様ですか?!」

 唐突に重太郎が叫んだので、相手はキョトン!やがて大声で笑い出した。

「神様?そうか、神様か。いいな、それ」

 その様子があまりにも無邪気で楽しそうだったので、重太郎は安堵した。あぁ、やっぱりこの御方は神様なのだ。


 路傍の適当な石に二人は並んで座った。神様と体がくっついて、柔らかくて温かくていい匂い・・・重太郎は胸がドキドキ、頭が熱い。神への畏怖というか、女子おなごに手を握って貰ったような気恥ずかしさ。

「それで、父の仇って何だ?」

 あっそうか、それが妙な事態に陥った発端。重太郎は神様に打ち明けた。


 重太郎の父・臼井重勝うすいしげかつは承久元年、加賀の国司として赴任。加賀国は白山はくさん信仰で古くから栄えた地である。また帝はじめ皇族、公家や寺社の荘園が多く存在する。為に中央から頻繁に役人を派遣。また、治承寿永期に倶利伽羅峠くりからとうげ木曽義仲きそよしなか平維盛たいらのこれもりを破る等、軍事的にも極めて重要な拠点であった。当然、幕府はこの地に守護を置いた。文治の勅許により幕府の支配が全国で強化されたが、加賀国においては「守護―地頭」と「国司―郡司」が並立する異常事態。朝廷と幕府の代理戦争ばかりでなく、外部からの支配者への地元民の反感もあり、四つの勢力が入り乱れて争っている。臼井重勝は苦労しながらも守護・地頭と連携、共存の道を選んだ。

 加賀国石川郡熊坂荘は平家没官領で幕府の地頭が管理していたが、元々の所有は摂家九条。当代の左大臣・道家みちいえが訴え、首尾よく奪還。道家は国司の頭ごなしに、金沢在の杉下隼人すぎしたはやとを郡司に任命し管理させた。この際、杉下は隣接する地所を我が物とす。預所を管理する地頭・中村庄司なかむらしょうじ激怒!一触即発!

 国司・臼井重勝が守護・比企朝宗ひきともむねと共に仲裁、間一髪衝突は避けられた。が、心労のあまりか重勝は手打ち直後に倒れ帰らぬ人となる。一服盛られたのではないかとの憶測も流れた。

「それからです。郡司杉下が父を告発したのです。地所の横領はおろか、数々の不正を総て父に擦り付け断罪しました。臼井家は断絶。母は実家に帰され、私はこちらの住持預かりとなりお世話になっています」


「ふうん、そりゃ酷いな」

 神様は小首を傾げて溜息を吐き「左大臣はとことん迷惑なヤツだな」などと口の中で呟いている。

「で、お前はどうするのだ?」

「証拠があります。文書等も揃っております。父に着せられた汚名をすすぎ、家門を再興いたします」

「相手は郡司だぞ。お役人様と小童こわっぱでは勝負にならん。お前はまだ子供だから信じたくないだろうが、世の中は“正しき者が勝つ”とか“真面目にやれば報われる”ものではないのだ。悔しいが、力の強いもの、声の大きい方が闊歩するのだ」

「で、ありますからっ!今度新しく守護に着任された北條朝時ほうじょうともとき様は、幕府執権・義時よしとき様ご次男。質実剛健を謳われた御方です。真実を見抜き公平な裁きをお下しあるに相違御座いません。旧臼井の家人で勝山康佑かつやまこうすけなる者がおります。康佑が万事取り計らい、近日中にも直訴する手筈であります」

 神様は目を閉じ笑いを噛み殺すように首を振った。北條の男子は皆、質実剛健なんだな。

「あちゃ、北條をアテにするのか・・・まぁそれでも良いがの。権力にすがるというのは、弱き者、力なき者、他に手立てのない者の最後の拠り所なのだ。重太郎!お前は国司の子ではないかっ。男子であろう。ならば自力で父の雪辱を果たせ!杉下を、父の仇を、討て!」


 翌日から、神様の“地獄の特訓”が始まった。重太郎は原中へ引きずり出され、木の棒で滅多打ち!神様は「反撃せんかっ!」と怒鳴るばかりで剣の使い方も何も教えてくれぬ。

 このままでは死んでしまう!家人勝山、哀訴!

「何故、ここまで酷い目に・・・これは稽古ではなく苛めです。もっと役に立つ、相手を倒す方法を論理的にご教授いただきたい」 

この言葉が神様の癪に障った。

「何だと!この野郎、もう一遍言ってみろ。脳天たたき割るぞ。論理的だぁ?そんなもんは芸事にでも使え。理屈で仇を討取れるか!人を殺すんだぞ。人殺しに方法も大義もあるか。コイツをブッ殺す!その殺意だけ募らせろ!」

 かくて五日ばかり、重太郎はズタボロに痛めつけられた。意識朦朧の重太郎の前に仁王立ちの神様は小首を傾げる。

「うーん、普通これだけやられれば嘘でも”窮鼠猫を噛む”死に物狂いで反撃してくるんだがなぁ。殺意どころか、眼つきがいじけて貧相になってきたぞ。でもまぁ、これだけ特訓したんだから何かしら効果はあるハズだ。信じろ!うむ、そろそろやるか。今日は七日だから・・・明日は灌仏会かんぶつえか!こりゃいい。正に仏のご加護。重太郎!明四月八日、重勝殿の仇討ちじゃ。見事に大願を成就せよ」


 貞応元年四月八日、白山で大掛かりな灌仏会が執り行われた。郡司杉下隼人も招かれ宴では大いに酒を呑み愉快に過ごす。酩酊し帰路に就いたは陽も大分西に傾いた頃。白山から役宅まではかなり距離があるが・・・杉下はそこで近道を思い出した。あの坂を抜ければ直ではないか。供回りに命じて進路を変えた。まだ辺りは明るいが坂に差し掛かると鬱蒼としていて急に暗くなった。

 杉下、尚も上機嫌。加賀国石川郡は、古代より連綿と続く由緒ある上国である。荘園もあり、都との縁も深い。国司も他は正五位か精々従四位だが、ここは正三位が相当だ。そう云えば前の・・・臼井何某もそうだったな。それを成り上がりの武家が何をトチ狂って守護だぁ地頭だと。笑わせるな。正三位の臼井ですら、儂には気を遣っていたぞ。東国の猿共には、機微というものが判らん。それでもようやく気づいたとみえて、新任の守護に北條の一族を送り込んできやがった。はははっ!執権義時の次男か。まぁ飛ばされるだけあって無能なんだろうな。兄貴の泰時やすときは六波羅探題、実質天下人だろうに。新守護は宴でも偉そうに踏ん反り返っていた。虚勢を張るってやつか。・・・この儂を無視しおった。国司不在の今、加賀国の主が誰か知らぬようだな。断じて貴様ではないぞ。いわんや、地頭の中村でもない。この儂だ!

 坂の中程に差し掛かる。脇に小さな祠。その後ろからイキナリ人影が現れ郡司一行に立ちはだかった。

「何者だ?無礼であろう。控えよ!郡司様であるぞ」

 影は二人。子供?と尼僧のようであった。尼僧が「さぁ」と子供の背を押した。子供は引きつったまま叫ぶ。

さきの国司臼井重勝が一子、重太郎!父の仇・杉下隼人、覚悟ォ!」

 杉下始め供の者もポカンとしている。今何を言った?よく聞き取れなかったが・・・臼井?父の仇?供が改めて聞こうと身をかがめた。その時、後ろの尼僧「チッ」と舌打ちしたかと思うと目にも止まらぬ早業、供の者を一刀の下に斬り捨てる。とって返して左右も道連れ。「?!」杉下は家人三人瞬く間に殺され、ようやく慌てた。他の供は既に逃散。残されたのは己と、尼僧そして子供!・・・子供はとうに失神している。

 尼僧は透き通った真っすぐな美しき大音声、唄うように呼ばわったり。

「やぁやぁ我こそは・・・我ではなく、ここにノホホンと惰眠を貪る小童は何を隠そう前国司臼井重勝が忘れ形見、重太郎!汝、杉下隼人の奸計により重勝殿憤死!あまつさえ無実の罪を擦り付けるは卑怯未練な極悪人。ここで逢うたが百年目。盲亀もうき浮木ふぼく優曇華うどんげの花待ち得たる今日の対面!いざ、尋常に勝負っ勝負ぅーっ!」

 尼僧の抜いた菊一文字則宗が妖しく光り、杉下隼人は驚愕の表情のまま心の臓を刺し貫かれた。


 顔を張られて気がついた時には総て終わっていた。重太郎は神様に「肝心なところで役にたたんの」と叱られた。目の前に血まみれの杉下隼人の首を突き付けられ「ひっ」と呻いたが、また神様に怒られるので泣くのは我慢。神様は懐から紙に包んだ文のようなものを手渡す。表には「斬奸状」これと首を持って守護へ出頭せよ。

「いいか、門前に立ったら大音声で呼ばわれ。守護北條朝時様にお目通りを乞え。他の者ではいかんぞ。朝時に直接会うんだ。そしてな、その首を差し出して口上・・・なんて洒落た真似はできんだろうから・・・もうお前には愛想が尽きた、期待せん・・・この書状を読んで貰え。何を訊かれても決して喋るな。いいか、それから泣くな。絶対に泣くなよ。絶対だぞ。泣いたら殺す」

 重太郎「神様にも付いてきてほしい」と懇願も「甘ったれるな!」と一蹴。それから神様は、勝山康佑が苦心の労作せし訴状に目を通し、

「駄目だ!駄目だ!こんなの。ただただ事実を文書や証言と突き合わせて時系列に並べただけじゃん。面白くもなんともない。これでは読む者の心に響かん。正確無比に拘るあまり表現力に著しく欠けておる。たとえ訴状であろうとも色がなければ味気ないぞ。それにだ、肝心の杉下の悪辣さが全然足りん。もっと極悪にもっと非道に!そなたも奴を憎んでおるのだろう?もっとこう憤怒の血涙といった激情を見せろ。それと重太郎やお主も散々苦労したんだろ?臥薪嘗胆、艱難辛苦の乾坤一擲な描写が欲しいな。苦節十年とか、いろいろあるだろ!」

「若様は御年十でございますが・・・」

 当惑しきった勝山を意に介さず訴状を脇にやり、新しい紙を広げる。何が始まるのかと不安げな二人を尻目に、神様は筆を執るや、みるみるうちに書き連ねた。それは最早訴状とは云えず、創作や妄想が入り乱れた波乱万丈の別の物語になっていく。これで朝廷に訴えてやれと、わざわざ「左大臣九条道家様」と宛名まで書いてしまった。こっこれを・・・本当に提出してよろしいんで・・・哀れ勝山、その足で悄然と京へ旅立った。神様は重太郎を見下ろしてニッコリと笑う。

「さぁ、お前も行け。男だろ」


 守護北條朝時役宅、騒然。齢わずか十の男子が父の仇討ちを果たしたと出頭!討たれたのが郡司であったことも問題を大きくした。守護北條朝時御自ら、臼井重太郎を取り調べ。重太郎は無言で「斬奸状」を差し出し堂々たる威容。事情は薄々朝時も察していた。「斬奸状」なるものは何故か女人の筆跡。杉下の卑怯未練な悪行とか、主従の苦難だの、忠孝やら仁義とかクドクド並べられ読みにくいこと他ならぬ。大仰な修飾語を除けば、事実関係は概ね合っている。それどころか、横領や不正のあらましはよくここまでといった調査が行き届いている。この部分だけでよいのに・・・朝時はフト思った。

 臼井重勝の名誉は回復。そして見事、仇討ちを成し遂げた重太郎は「武士の誉れ」と賞される。以来、現場の坂は誰云うとなく「暗闇坂くらがりざか」重太郎は朝時に召し抱えられ、後に守護代。温厚な人柄で領民から慕われたという。しかし仇討ちについては、終生語ることはなかった。


 守護北條朝時、顛末を鎌倉に報告。その末尾に曰く、

「”四ノ字”当地、十日バカリ潜伏ス。隠家ヲ襲ウモ、既ニ逐電セリ」


 大変だぁっ大変だぁーっ!仇討ち、仇討ち、仇討ちだよぉーっ!

 加賀国石川郡金沢で仇討ちだぁっ!

 齢わずか十の臼井重太郎が父の仇・杉下隼人を討取ったァ。

 重太郎の父君は何と、加賀国司正三位・臼井重勝様だ。三年前に赴任して善政を布いておられた。ご存知の通り彼の地には天子様の荘園があるが、それに目をつけたのがあの陰湿大魔王よ。荘園を横取りしようと、地場の無頼漢・杉下隼人を抱き込んだ。悪事に気づいた臼井様が未然に防いだから良かったものの、危ないところだったんだぜ。これに逆恨みしたのが杉下だ。おまけにコイツは臼井様の奥方に横恋慕しやがって!助平な奴。そんなこんなで臼井様が邪魔になった杉下は、地頭の中村庄司、これも悪いヤツだ、コレと結託して金沢の暗闇坂というところで騙し討ち!くぅーっ!卑怯だなぁ。これが承久二年四月の八日、灌仏会の宴の後だってことだ。ここ、よく覚えときな。臼井様の死体はそのまま打ち棄てて、翌日検分したのが中村庄司だってぇから開いた口が塞がらねぇ。杉下は杉下で、シレッと守護に報告に行ってんだよ。その場で臼井様が横領だの不正だの、ないこと!ないこと!ないこと!吹き込んだ。守護ってのは、これがなんとまぁ・・・あの一族なんだな。しかも・・・ロクハ・・・おっとっと、危ねぇ危ねぇ・・・何だ、シツジツゴーケンの弟だってさ。七光りでも田舎の守護にしかなれん盆暗ぼんくらだから、杉下の讒言をアッサリ信じて臼井家はお取り潰し。杉下は臼井様の奥方を手籠めにしようとしたが、奥方は舌噛み切って操を立てた。泣ける!鄙には稀な貞女だねぇ。

 さて、話はこっからだ。臼井様の忘れ形見、重太郎様。忠臣勝山何某に護られて脱出。白山に籠って父の仇を討たんと臥薪嘗胆!艱難辛苦!あるときあまりの厳しい修行に重太郎様が失神、夢うつつとなった。すると目の前に天女が現れたんだよ。天女はニッコリ笑って重太郎様に「そなたの願いは叶うであろう」と囁いた。ばかりか、重太郎様に剣術の指南までする。こりゃオカシイよな。だって天女が剣術なんて。まぁ最後まで聞けよ。そんなこんなで乾坤一擲、遂に聡太郎様は山を下りるのさ。これが四月の七日だ。翌日は言わずと知れた灌仏会。舞台は整った!

 宴で寝汚く大酒喰らいよってヘベレケの杉下が暗闇坂に差し掛かったのは因縁かねぇ。いやぁ、仏様の御加護、国司様のお導き。

 ここぞとばかり、杉下の前に立ちふさがった重太郎様!見事な啖呵だぁ。

「やぁやぁ我こそは何を隠そう前国司臼井重勝が忘れ形見、重太郎!汝、杉下隼人の奸計により父重勝憤死!あまつせ無実の罪を擦り付けるは卑怯未練な極悪人。ここで逢うたが百年目。盲亀の浮木、優曇華の花待ち得たる今日の対面!いざ、尋常に勝負ぅ勝負ぅーっ!」

 杉下、ビックリ仰天!恥も外聞もなく逃げ出した。敵わぬと見るや惨めにも命乞い。重太郎様が憐れに思って刀を下ろしたらなんと、石をぶつけてきやがった。おのれ卑怯な!重太郎様は十歳だからねぇ。大人が騙したりするハズないと油断しちゃったんだ。今度は杉下が優勢だ。重太郎様を組み伏せ圧し掛かって首を絞める。あっ危ない!その時だ。重太郎様の脳裏に天女が現れた。今こそ秘術使うべし。重太郎様は下の状態から刀を上向きにして、杉下の心の臓を貫いた。大逆転だ。天晴、天晴ェーっ!

 この壮挙に加賀国は沸き立っている。杉下の悪行が次から次へと暴かれていくんだ。さすがに守護の北條何とかも認めざるをえない。杉下家は取り潰し、ついでに地頭中村も晒し首。自業自得ってヤツだな。重太郎様は「武士の誉れ」、臼井家は見事再興されたのさ。くぅーっ痛快、痛快!やっぱり世の中は勧善懲悪じゃなきゃいかん。正しき者が真面目な者が報われなければ闇だ。「暗闇坂の仇討」はそれを思い出させてくれたんだよ。光が差したんだ。

 大乱以来、真っ暗闇の中にいる俺達にも何かできそうじゃねぇかっ!頑張ろうぜっ!

 ・・・ところでさぁ、いくら重太郎様が優秀でも十歳で仇を討てるのは一寸信じられないよな。助太刀があったんじゃないかって?ふふん、どうかな。それはともかく、いいこと教えてやろう。白山で修行してる時、天女に会ってるだろ。その天女ってのはなぁ、背が高かったんだと。おい、長身だぞ、チョ・ウ・シ・ン!それと仇を討った刀、カタナな、天女に貰ったんだとよ。銘は何と!・・・いいかよく聞け、菊・一・文・字・則・宗っ!くぅーっ!・・・あとは判るよなっ!


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