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四代将軍とも外伝  作者: 山田靖
続・源とも物語
13/33

四代将軍源とも、美シキ野獣達ノ修羅!(下)

 さてさて、四代将軍源とも、でございます。

 六波羅屋敷から忽然と消えた、たま。

 草深い庵に四代将軍?

 謎が謎呼ぶ!迷宮の袋小路!

 そしてそして、源とも対北條時子、遂に宿命の邂逅!

「月輪ってとこに、アサコが居る・・・だと?」

 京都守護役宅居候、北條時子は首を傾げた。

 妙な話だな。聞いたこともない土地だ。きっと田舎だろう。何故そんなところに?しかも供も連れずに独りで・・・手薄というか、無防備ではないか。やっぱり変な女だ。元々頭がおかしいのかもしれん。・・・それにしてもだ、これは千歳一隅の機会!何しろ鴨がネギ背負って待っている。今なら濡れ手に粟、四代将軍を難なく捕えられるだろう。時子は舌舐めずりし立ち上がった。

 時子は即座に行動を開始!不幸にして拙い事に、京都守護伊賀光季不在。時子は大番役・石垣吉圀いしがきよしくにを勝手に召し出し出撃を命じた。目指すは月輪庵、四代将軍捕縛大作戦!

 このあたり指揮系統はどうなっておるのだろう?京都守護は伊賀光季でありながら、北條は当然のように上位にある。これまでも東山の泰時から度々頭ごなしに動かされる。その度に右往左往だ。北條得宗惣領の駿河守泰時ならばまだ詮無いが、こんな小娘の我儘なぞ・・・石垣は不満を押し殺して手筈を整える。しかし・・・石垣は首を捻る。四代将軍が単独行動?ありえない。間者からも異変は伝えられていない。が、本当なら・・・

 石垣は念入りに采配。事は重大である。気づかれぬよう少数精鋭で迅速に行動せねばならぬ。ところがこの期に及んで、時子がどうしても行くと言って聞かない。やむなく目付役大江親広も同道。それやこれやで人数が増え、京都守護始まって以来の大捕り物!

 それでも流石、京都守護配下は優秀であった。夜明けと共に行動を開始、すっかり庵を包囲。石垣は機を窺った。百戦錬磨の勇士である。幾度も功を上げてきた。戦は生き物である。勝敗は何方いずかたに転ぶか判らぬ。天候・地形・時の運・・・目まぐるしく情勢は変化する。その瞬間を敏感に嗅ぎ取らねばならぬ。石垣は慎重な男だ。しかしイザ意を決すると鬼神の如く闘った。繊細かつ大胆、それが石垣の真骨頂である。

 だが、今回ばかりは面食らった。目の前の崩れかけた庵は一見何の変哲もない。こういうのに得てして往々、裏がある。まして相手は四代将軍源とも!家人に忍者や妖術使いも抱えているという噂。迂闊には近寄れない。石垣は冷汗を拭った。通常、戦場には何らかの気配がある。僅かな違和感、不自然が見いだせるのだ。そこで敵の意図を見破るのだが、六波羅衆は余程鍛錬されているのだろう。露ほども隙が見えぬ・・・というか、不可解なことに隙だらけなのだ!何処からでも易々と侵入できるではないかっ。突破口が手招きをしている!何なのだ、これは。罠だ!五感が危険信号を発した。危ない、戻れ!長閑なお花畑の下に地獄の釜が覗いているような、得体の知れぬ不気味。耳鳴りがワンワン響く。身動きが取れない。泥沼だ、このままでは・・・だが時間がない。日も高くなった。愚図愚図しておれん。

 石垣も一廉の武将である。逡巡を振り払った。虎穴に入らずんば虎子を得ず。ええいっままよ!進むも戻るも地獄、どうせ死ぬなら猪突猛進、前のめりに倒れるのが男ぞ!石垣は決断した。

「突入せよ!」

 ・・・驚くなかれ、いとも簡単に庵は破られた。必死の形相で石垣以下五名が踏み込むと、板の間で・・・大柄な女が・・・鼾をかいて寝ているではないかっ!一同、呆気にとられる。不覚!赤っ恥!幽霊の正体見たり枯尾花。田舎の荒ら屋の前で、白昼堂々、選りすぐりの武人共が己の妄想に怯え慄き騒いでいただけだった!石垣は女を組み伏せ縛り上げながら、とてつもない失態を悔いた。粗忽であった。せめて光季様が戻られるまで待つべきだった。いくら相模守様御息女とは云え、口車に軽々しく乗ってしもうた・・・

「ヤッホーッ!」けたたましく時子が乗り込んできた。獲物を捕らえた興奮で残忍に舞い上がっている。が、捕縛された女の顔を覗き込むなり悲鳴を上げた。

「何だこれ?違うだろ!こりゃ、アサコじゃねぇよ。ニセモノだぞ、おい。チッ!何やってんだ!巫山戯けやがって!騙された、畜生!吉圀、主は馬鹿か!見れば判るだろう?いくら源ともでも、こんなウスノロのわけないだろ。アイツは頭も性根も極悪だが、顔だけは・・・並だからな」


 夕闇迫る六波羅、四代将軍将軍源とも様お屋敷前に時ならぬ喧噪!

 何と何と数十騎の武者が押し寄せた。素破ッ一大事!何者であるか?見れば京都守護配下の石垣玄武隊ではないか。北條、遂に実力行使?大胆不敵!洛中で真正面から戦を仕掛けるか!畏くも帝の御座す王城に血の雨を降らす!不躾な狼藉者が跋扈する地獄絵図!あの忌まわしき時代に逆戻り!近隣住民は大恐慌!家財道具を運んだり、着の身着のまま裸足で駆け出す者共で騒然、大混乱!

 しかして、六波羅屋敷の門はピタリ閉じられ平静を保ったまま!

「四代将軍源とも、出会えっ出会えーっ!」

 ややあって、表門が細めに開いた。現れ出でし長身の女人!洗い晒しの小袖を無造作に纏い、瓜を齧りながら気怠そうにフラフラと。嗚呼、何を隠そうこの御方こそ、ご存知、四代将軍源とも!

「五月蠅いぞ!時と場所を弁えろ!世間は今日のわざを成し終えての、静かなる夕餉団欒のひと時である。この貴重な安寧を破り、徒党を組み市中を騒がすとは言語道断!重き咎めを課すべきではあるが、面倒だし騒ぐとかえって近所迷惑!今回限り堪忍して見逃す故、解散して早々に立ち去れぃ!」

 流石、四代将軍の迫力に、騎馬武者たじろぐ。動揺する集団から一騎進みしは、兎馬にチョコナンと跨った小柄な女武者。色鮮やかな朱の鎧、白鉢巻に薙刀を携えた出で立ち、凛としております。頬を紅潮させ大音声で呼ばわった。

「やぁやぁ我こそは相模守義時が末娘、北條時子である!四代将軍源とも、ここで遇うたが百年目、いざ尋常に勝負っ勝負ぅーっ!」

 ともは横を向いて吹き出した。

「おいおい、可愛いな。桃太郎さんみたいだぞ。へーっ義時の娘か。ということは泰時の妹!うん、兄貴に似なくて良かったの。でも大仰なとこなんぞ、やっぱ北條の血だな。で、何用だ?”はじめてのおつかい”で迷子にでもなったか?」

 時子は頭に血が上った。「鉄鼠姫」と侍女や家人までが、時子を怖れていた。なのになのに、この大女は小首を傾げて嘲笑しているのだ。ゆっ許せぬ!

 時子が後方へ合図、ふたりの武者が薦に包み荒縄で縛った物体を門前に放り投げた。足が出ている。人か?・・・女?ともはハッとし駆け寄り抱き起した。

「たま!たまではないかっ!」

 粉うことなき、たま!一昨日、六波羅屋敷から忽然と消えた、たまの変わり果てた姿であった。その顔はボコボコに殴られ腫れあがり、体中暴行を受け、血と泥に塗れている。しっかりせよと揺すると、たまは見えぬ目を向け曲がった唇を微かに歪めた。ひぃひぃと息も絶え絶えで細かく痙攣している。

「畏れ多くも、四代将軍様を騙った大悪人ぞ。月輪の庵に図々しく居座った。庵主ばかりか近所の百姓までも崇め奉っておったとな。当節、デカくて上等の衣着た女と云えば、まぁそう思うわな。この衣、何処で盗んできたやら・・・でも何することもなく大飯喰らって寝てばかりだそうだ。流石にその品性下劣な振る舞いでは“時の女”源とも様の評判に障るとて、代わりに捕えて成敗してやったわ。有難く思えよ」

 やったんだ!ともが、たまに衣をやったんだ!

 たまぁ・・・衣が欲しかったら言えよ、幾らでもやる。化粧も施してやる。年頃の娘が着飾って何が悪い!たま、たまよぉ。どうしたんだ?何があった?何で月輪なんか行ったんだ?それとな、ともに化けるんなら・・・もっと贅沢しろよ、遊べよ!飯食って午睡ひるねなんて止めてくれ。そんなんで、そんなんで喜んでんじゃねぇよ!

 ともは、たまを静かに寝かすとユラリ立ち上がった。怒りで震えている。顔面蒼白、氷のような視線で、時子を睨みつけた。

 時子は背筋がゾクゾクとした。舌舐めずりする。嗚呼、これだ。こうでなくちゃ。アサコが、源ともが、時子だけを見てくれる。素敵だ、格好良い!時子は身体の芯から痺れるのを感じた。好きだ、大好きだ、源とも!苛めたい!辱めたい!壊したい!玩具にしたい!・・・殺してやりたい・・・

 ともは菊一文字則宗をゆっくりと抜き、時子の心の臓にピタリ照準を合わせた。

「おイタが過ぎるな、北條時子!・・・お仕置きしてやんよ」


 源とも対北條時子、女と女の凄惨な戦いの幕は切って落とされた!

 怨恨と意地が火花を散らす!血で血を洗う、愛と憎しみの闘争!

 美しき野獣達の修羅場!どちらかが倒れるまで果てしなく続く泥濘ぬかるみぞ!

 互いに咬みつき傷つけ合った末に、果たして残るものは一体何か?

 おーっと、丁度時間となりました。

 ・・・これから先が面白い!

 この続き、またの機会をご贔屓に!

 それでは皆様、ご機嫌よう!

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