男達と少女
二人の見目美しい男は、スマートフォンを片手に歩いていた。背丈も高く、清潔感漂うその姿に、街ゆく女性はふと目を向けてしまう。その女性たちを見て、一人の男はばれないようにため息をついた。その様子に、もう一人の男は苦笑いを浮かべた。そんな様子で歩く男達が足を止めたのは、一戸建ての家だった。周りの家とも大差ない、平凡な二階建ての家。ここに、二人の男達の次の所有者が住んでいる。
「気を引き締めろよ。」
「わかってる、大丈夫だよ。」
そう言って笑う男を、もう一人は苛立った様子で睨みつけた。大事な仕事を任されているにもかかわらずへらへらと笑う男に、苛立ちを隠せないようだった。しかし、笑う男は気にする様子もなくインターホンを押した。すると、間抜けそうな様子の男によく合うような、間抜けなチャイム音が響く。ここ数年でインターホンも発達して、カメラに映る来客の姿から人工知能が性別や名前、勤務先などを判別できるようになり、宅配便を装った強盗なども大幅に減少した。つい先日そんなニュースがやっていたなと男がぼんやりと考えていると、こじんまりとした扉が開いた。中から出てきたのは、十代半ばほどの少女だ。最近の子には珍しく、染めていないような、自然な色の髪の毛と、自然な黒目が印象的な娘だ。
「はじめまして、協会から来た者です。貴方が僕たちの主人で間違いないですか?」
男は先ほど同様に笑って、少女に話しかけた。少女は男達をじっと見つめ、そしてため息を一つ吐くと、あごで家の中に入るように促した。その様子に、もう一人の男は目を細めたが、何も言わずに玄関へ入った。笑いかけた男は、少女の様子に苦笑いを浮かべつつ、おじゃましますと小さな声でつぶやきながら足を踏み入れた。
玄関に、特に変わった様子はない。ただ、そこにある少女の胸の高さほどのシューズラックには、ちいさなスニーカーとローファーが置いてあるだけだった。その様子から見ても、男達の知る少女の情報に間違いがないことがわかる。少女は家の中に上がるとそのまま玄関の正面にある階段を上がって2階へと進んだ。男達も後に続いて階段を上がる。少女はそのまま二部屋ある内の一部屋に入ると、中のソファに腰かけた。
「私が頼んだら買い出しをして。それ以外は自由にして。部屋はここと隣の和室を。」
そういうと、少女はサイドテーブルに置いてあるメモ帳とペンを手に取った。そこにさらさらと何かを書き込み、切り取ると、男達の方へ振り向きメモを差し出した。
「今日はこれ。買ってきたら一階の部屋にいるから知らせて。そうしたら外出しても何しても構わない。」
「え、あ、はい…わかり、ました。」
男がメモに手を伸ばし受け取ると、少女はメモとペンを元の位置に戻して部屋を後にした。階段を下る音がするため、おそらく一階へ降りたのだろう。男は手渡されたメモに一度視線を向けた後、もう一人の顔をちらりと見た。もう一人の男は去って行った少女の方を数秒見ていたが、男へ顔を向けた。
「どんな女かと思ったが、案外普通だな。」
「そういういい方はよくないと思うなぁ、少なくとも俺たちの所有者だよ?」
「俺の頭の中には所有者であり容疑者とある。」
「それは俺もだけどさ。」
鋭い目をした男は部屋の中を見渡した。ソファとベッドがあるフローリングのこの部屋は、もとは少女の父親の部屋だったとわかる。経済や株式の本といったビジネス書が本棚に並び、デスクには父親と思しき人物の若き日の写真が並んでいた。となると、隣の部屋は少女の母親の部屋だったのか。
「俺はこの部屋を使う。いいか?」
「いいよ。そっちの方がよさそうだからね。」
もう一人の男はメモを手に隣の部屋へと向かう。残された男はひとまず部屋の中にあるクローゼットを開けた。スーツやジャケットが数着ハンガーにかかっている中に、暗証番号タイプの金庫があった。即座に少女の生年月日と父親の生年月日、だめ押しで母親のものも入力するが、やはり空かない。そうこうしているともう一人の男が部屋へ戻ってきた。
「これさ、一人で持つには大変だから一緒に行ってくれる?」
「何が書いてあったんだ。」
「んー、備蓄が切れかけてたのかねぇ。洗剤とかいろいろ。」
「…ああ、すぐ行く。それしか仕事ないしな。」
男はクローゼットの扉を閉めると、もう一人の男とともに部屋を出た。一階まで降りると、少女が玄関にいた。男は慌てたように少女に謝った。
「すみません、すぐ買ってきますね」
少女は何も言わず、謝る男とは別の男に目を向けた。こちらを睨むかのように見てくる男に少女はゆっくりと目を瞬かせ、そして、また謝る男に目を向けた。すぐに笑う男に、少女はまたゆっくりと目を瞬かせ、何かを言おうとしたが、すぐに口をつぐんだ。
「……あなたたちの名前は?」
「俺はFO-9で、あっちはFO-11です。ナイン、イレブンと呼ばれていますが、お好きなように。」
笑う男の言葉に、少女はそうと一言いって部屋へと戻ってしまった。残された男達は少女が部屋に戻ってしまった以上何もできず、とにかく頼まれた買い出しへ向かおうと家を出た。
閲覧ありがとうございます。
まだまだ話が進みませんが、ゆっくりと頑張ります。