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石版の魔女  作者: チカ.G
その後編
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10. 荒野越え 4

 美月はゴーレムと戦うドナヴァンたちの戦いぶりを振り返り見ながらも、早足で彼から隠れているようにと言われた岩陰に戻った。

 それからそっと頭を出して彼らの戦いぶりを眺める。

 「他にできる事ってないのかな・・・」

 右手でぎゅっと握りしめているスマフォに視線をやって、それを使って何か彼らのためにできる事がないかを考えるものの何も思いつかない。

 今の美月にできるのは彼らの邪魔にならないようにする事だけだ。

 ゴーレムによる土砂攻撃のせいでなかなか近づけないでいるドナヴァンたちを不安そうに見つめる。

 それでもつい先ほどまでは攻めあぐねていたのだが、美月からゴーレムの弱点を聞いたおかげか目的を持ってゴーレムを攻撃する事ができているようだ。

 「あっっ・・・」

 ゴーレムから飛ばされた人の頭くらいの大きさの石がドナヴァン目掛けて飛んでいくのが見えて、思わず小さな声が美月の口から零れた。

 ドナヴァンは身軽にそれを避けてから剣をゴーレムの喉元に差し入れるが、コアに刺さらなかったようで大きく振るわれた腕から逃れるように後ろへと飛び退る。

 ドナヴァンが後ろへと飛びすさったところで動きが止まったゴーレムの背後から、フランクがまた斧を振り上げてそのままゴーレムの肩の辺りから胸の中心めがけて振り下ろした。

 まるで爆発するかのように土砂を撒き散らしながらゴーレムの上半身部分が弾け飛んだ。

 「やった・・・のかな?」

 フランクは振り下ろした斧を引き寄せてから、ゴーレムと距離を取るように後退する。

 ドナヴァンたちはそのままいつでもゴーレムが復元してもいいように、距離を取ったまま剣を構えている。

 けれど、ゴーレムはいつまで経っても元の姿に戻ることはなかった。

 それどころか、残っていた下半身部分も少しずつ崩れていくのがみえた。

 「やったか?」

 「マジか?」

 少し離れているものの、ホリディとノーマンが話している声が届いてきた。

 美月はぎゅっと握りしめたままだった掌をそっと開いてから、小さく深呼吸をした。

 どうやら彼らはゴーレムを倒したようだ。

 「フランク、もう一撃くれてやれ」

 ドナヴァンが剣を構えたままゴーレムの背後に立っているフランクに指示を出すと、彼は構えていた斧を振り上げてゴーレムに叩き込んだ。

 その勢いで、半分崩れかけたゴーレムは一気に崩壊する。

 「よっしゃー!」

 「やったな!」

 「やっとかよ」

 ガッツポーズを取るノーマンとホリディ、振り下ろした斧をゆっくりと持ち上げて肩に乗せるフランク。

 それから近寄って剣先で崩れ落ちた土砂を突き刺して、本当に倒したかどうかの確認を取るドナヴァン。

 そんな姿を見て、ようやく美月にもゴーレムを倒したのだという実感が湧いてきた。

 ホゥっと大きく息を吐いてから、美月はその場に座り込んだ。

 これから彼らは後始末をしなくてはいけないだろう。

 それまではここで邪魔にならないようにじっとしていよう、と彼らの方を見ていた美月の目の前に何かが転がってきた。

 思わず転がってきたそれに視線を向けると、そこにはまん丸いオレンジ色っぽく光る玉がゆっくりと美月の目の前を転がって通り過ぎようとする。

 美月は思わずその玉に手を伸ばして捕まえた。

 「って・・・ボール、じゃないんだ」

 オレンジ色のそれは玉、ではなく何か丸まったものだった。大きさは直径10センチほどの球体で、ほんのりと温かい感じがする。

 美月は掌の上でその玉を転がしながら、時々握って感触を確かめる。

 パッと見には堅そうに見えるのだが、握ってみると弾力があるのが判る。それでいてそれなりに硬い表面は鱗のようなもので覆われている。

 「十円玉みたいな色・・・」

 ピカピカの十円玉のようなオレンジ色で金属のように光沢のあるそれは、まん丸というよりは少しいびつな形をしているが鱗のようなものがある割に表面はつるりとした手触りだ。

 ひとしきり感触を堪能した美月が両方の掌に載せたそれをじぃっと見つめていると、ピクリ、と鱗の広がる表面が動いた。

 「ほょっ」

 パチクリ、と目を見開いた美月はそのまま動かずにじぃっと見つめる。

 すると、また小さくピクリと動く。

 掌で転がしてみたくなるのをグッと我慢して観察していると、今度はモゾっと動いたかと思うとそのままスルリとまん丸の形が解けた。

 尻尾と思しき部分がまず解けたかと思うと、そのまま尻尾部分が背伸びをするように伸びていく。それに合わせて少し尖った形をした頭部も伸びをする。

 それはぱっと見には横倒しになったアルマジロ、といったところだろうか。

 小さな手足には爪が伸びていて、猫の爪のように尖っている。そして頭の横には小さなネズミのような耳がついていて、それも以前写真で見たアルマジロのようだった。

 ヒクヒクと動く鼻には短いヒゲが生えており、それが鼻の動きに合わせてピョコピョコと動く。

 「・・・か、可愛い」

 美月の両方の掌の上で小さな目をキョロキョロ動かして周囲の様子を伺っているのが見て取れる。

 野生の動物なのだろうが、こんな動物は今まで見たことがなかった。

 おそらくこの荒野のような環境に適した生き物なのだろうが、美月としてはこのまま手元に置いておきたいと思うほどその可愛さにメロメロになってしまっている。

 「もしかしたら、このまま使役できないかな・・・」

 なんとなくできそうな気がする。

 勝手に使役獣を増やせばドナヴァンに叱られるかもしれないが、それでも美月はこの生き物を自分の使役獣にしたくてウズウズしている。

 「叱られても謝れば許してくれる、よね?」

 なんだかんだと言いつつ美月に甘いドナヴァンの事だ。

 使役獣にしてしまえばそのまま諦めてくれるだろう、と思っている。

 そんな事を企んでいる美月の目が周囲を見回していたアルマジロもどきの目と合った。

 真っ黒なつぶらな瞳がジィッと美月を見上げている。

 無防備に腹の部分を晒したまま見上げている姿に、美月は我慢できなくなってしまった。

 「やっぱりここはやっちゃうしかないよね・・・『我は汝を使役獣に望む。汝に望むは我の手足となりて努めを果たす事。ここに使役の印を結ばん』」

 これで3度目の使役の契約となる。

 最初の時を思うと、ずいぶん流暢に言葉が口からでてくるようになった気がする。

 不思議なもので3度目ともなると、美月には自分が使役に成功したかどうかが判るようになってきた気がするのだ。

 今掌の上にいるアルマジロもどきは短い手足をばたつかせてから起き上がると、そのまま美月の顔を見上げてきた。

 「成功・・・だよね?」

 美月を認識しているのに逃げようとしないのは、彼女が使役に成功した証拠だろう。

 「じゃあ名前を考えなくっちゃ・・・どうしようかな・・・・今いるのがコットンとミラージュだから・・・う〜ん・・・」

 コットンは真っ白なその姿から思いついた名前で、ミラージュはその特性から思いついた名前だ。

 そこから言えばここはやはり色や形から思いつくものがいいのだろうか?

 特性は、と思ってもこの生き物の名前すら知らない美月に知る由もない。

 「丸くなるから、タマちゃん? それとも色がオレンジ色だから、ミカン、とか?」

 とりあえず思いつくものを口にしてみるが、どれもしっくりこない。

 「オスかメスかも判らないしねぇ・・・女の子ならマリちゃんでもいいんだけどな・・・オスだったらジローとか・・・」

 もちろん、手毬の『マリ』とアルマジロの『ジロー』だ。

 「転がってきたから、コロ、とか? う〜ん・・・なんか安易な名前しか思いつかないなぁ・・・」

 ネームセンスがない事は自覚しているけれど、それにしても何も思いつかない自分が情けない。

 うんうんと頭をひねっているのに、何も思いつかないのだ。

 掌のそれをジィッと見つめてない知恵を絞ってみるものの、全く効果は出ない。

 生物としての名前を知らないからできればすぐにでも名前をつけてやりたいのだが、焦れば焦るほど頭の中は真っ白になっていく気がする。

 「美月!」

 「あっ・・・はぁい」

 ムゥっと口を尖らせて考え込んでいるところに、自分を呼ぶドナヴァンの声が聞こえてきた。

 「こっちはなんとかなったから、先に馬車に乗っててくれ」

 「ドナヴァンは?」

 「土砂を片付けないと馬車を走らせられないから、もう少ししたら馬車に戻るよ」

 「判った。気をつけてね」

 「ああ、大丈夫だよ」

 先ほどドナヴァンたちと戦っていたゴーレムは馬車の通り道で崩れたようで、みるとドナヴァンたちが土砂の小山となっている元ゴーレムを避けているところだった。

 美月は掌にアルマジロもどきを乗せたまま立ち上がる。

 彼女が動いた拍子に、驚いたアルマジロもどきはまたまん丸になった。

 そんな姿に思わず笑みを浮かべて、アルマジロを左手に乗せて美月は右手でパタパタと服から砂埃を払うと馬車に向かって歩き出した。





読んでくださって、ありがとうございました。

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