新婚ミラクル 前編
すみません。
もう1つだけ挿話に入れさせてください。
今、その後編を準備しているのですが、伏線というか、これを書いておかないとちょっと話が通じないな、と今更ながら気付きました。
なんだか窓の外が明るい。
もうかなり遅いのかな?
うっすらと目を開けた美月は、カーテンの隙間から入ってくる陽の光をぼうっとした頭のまま見つめる。
いつもより体がだるい気がするが、どうしてそう感じるのか判らない。
けれど、そろそろ起きないとアドリアナが来る時間だ。
彼女には一応合鍵を渡してあるのでドアの外で待ちぼうけにする心配はないものの、いつまでもベッドの中でゴロゴロするわけにもいかない。
美月は仕方ない、と言わんばかりの大きな溜め息を1つ吐いてから起き上がろうとして、腰に回っているに気がついた。
後ろから美月を抱きしめるように腰に回っている腕の持ち主はドナヴァンだ。
そして美月は何も着ていなかった。
ドナヴァンの腕が自分の素肌に直接当たっている。
それに気づいた途端、美月は全身が羞恥に火照ってきた気がして思わず顔に手をやる。
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっっ
そんな音が聞こえてきた気がした。
耳が熱いのはきっと気のせいじゃないだろう。
--おっ、思い出したっっっ
美月はベッドの中で一人アワアワと口をパクパクを開けたり閉じたりしながら、昨夜からの出来事を思い出していた。
昨日いつもより早く帰ってきたドナヴァンが出かけようというので、お気に入りのワンピースに着替えて出かけた先は神殿だった。
なんと結婚式のために神殿に行ったのだ。
しかし美月は何も聞かされておらず、突然の事に動揺したままドナヴァンと結婚してしまった。
もちろん既にドナヴァンからプロポーズはされていたし、そのうちきちんと日を改めて結婚するんだろうなとも思っていた。
ただ、まさかその日が突然やってくるとは思っていなかっただけだ。
そしてその時に、この世界では結婚というものは日本と違って夫婦となる2人と神官の3人で行うものだ、という事を初めて知った。
そのあとに披露宴なんていうものもなく、ただ神殿で神官の言葉に誓い用意された婚姻届けに2人の名前を書き込むだけ、本当にそれだけなのだ。
その婚姻届も領主が管理するために必要だから、という理由で名前を書き込むだけらしい。
日本の婚姻届も同じ理由だけど、結婚式や披露宴があるから事務的なものでいいのだ。その結婚式すらないこの世界で事務的な理由の婚姻届というのは如何なものだろう。
けれど、美月はなんとか自分の気持ちに折り合いをつけて無事に結婚式を完遂させた。
と、まぁ、なんとかその時の衝撃から立ち直ってドナヴァンと夕食を食べている時、彼女の様子がいつもと違った事には気づいていたらしい彼に尋ねられるまま、美月はこの世界と日本との結婚観の違いを滔々と述べてしまった。
気がつくとドナヴァンが申し訳ないオーラを全身から立ち上らせていたので、美月は慌ててその話を打ち切ったのだ。
別にドナヴァンを責めたいと思って言った訳じゃないのだ。
ただ、あの時のショックのせいで滔々と語ってしまったのだ。
もしあらかじめドナヴァンが美月にこの世界の結婚の事を教えてくれていたら、彼女がここまでショックを受ける事はなかったのだから。
そうしてお互い気を取り直して家に戻り・・・・・
そのあとの出来事を思い出した美月は、また頰が熱くなるのを抑えられない。
つつつつつっっ・・・遂に、本当の意味で夫婦になっちゃったんだ・・・・
昨日の夜はお風呂のあともじもじしていた美月をドナヴァンは強引に手を引いてそのまま彼と同じベッドに入れたのだ。
それから『あ〜んな事』や『こ〜んな事』をしてしまった。
なんとも刺激的な夜だった。
しかもそれで終わりかと思ってベッドの上でグッタリとしていたら、更にハードルが上がったのだ。
ドナヴァンはグッタリしていた美月を抱き上げて浴室に連れていって更に『そ〜んな事』や『恥ずかしくて言えな〜い事』をしてきたのだ。
--もっっ、もうお嫁にいけないっっ。
と羞恥で真っ赤になった頭の隅っこで思ったものだった。
まぁ、既にドナヴァンの嫁になってるけど。
そして今美月はベッドの中でドナヴァンに後ろから抱きしめられているのだ。
--しょ、正面からじゃなくて、良かったっっ
真正面からドナヴァンに抱きしめられていたら、目の前が彼の胸元になってしまう。
そんな状態で目を冷ましていたら、きっと大パニックになっていただろう。
とにかく、なんとかしてベッドから抜け出さないと、と美月はシーツの下のドナヴァンの腕をそっと持ち上げる。
その動きで彼が目を覚まさないか確認してから、今度はもう少し彼の腕を持ち上げてそこから抜け出そうとした。
「ん・・・」
小さな声がドナヴァンから漏れて、美月はじっと動きを止めた。
それから彼が目を覚まそうにない事を確認して、彼の腕から完全に抜け出る。
ベッドの隅からそっと周囲を見回すが、美月が着ていた服らしいものはどこにも見当たらない。
まさか裸でベッドから出るわけにもいかない。
とはいえベッドシーツをドナヴァンから剥ぎ取るわけにもいかない。
「どうしよう・・・・」
途方にくれた美月は小さな声で呟いた。
そしてその声に応えるように、後ろから腰に手が巻きついてきた。
「うひゃひゃっっ」
いきなりの事で思わず変な声をあげてしまったが、その声を気にした風もなくドナヴァンが聞いてくる。
「何が?」
「えっっ・・・と」
「どこに行こうとしてるんだ?」
「どこって・・・着替えたいなって。だって、そろそろアディーが来る頃だもん」
「アドリアナだったら合鍵を持っているだろ? 勝手に入ってくるよ」
なんだそんな事か、と言わんばかりのドナヴァンはそのまま美月を抱き寄せる。
「ドッッ、ドナヴァンッッッ」
「なんだ?」
「そのっ・・手をっっ、離してっっ」
「どうして?」
「どうしてって・・・どうしてもっ」
すっかりテンパっている美月はなんとかドナヴァンの手を自分の腰から引き剥がそうとするものの、さすがは騎士として体を鍛えているだけある彼の方が力が強くて全くビクともしない。
ドナヴァンの腕が素肌に直接当たっていると思うとそれだけでもう心臓が破裂しそうなのに、彼は全くいつもと変わらない態度で美月を翻弄する。
「・・・ドナヴァンッ」
美月が半泣きになって彼の名前を呼ぶと、少しだけドナヴァンの腕に力が緩んだ。
「仕方ないな」
「意地悪すぎるわよぉ・・・」
もぉ、と美月の腰に回された腕を叩く。
「美月が可愛いから、つい、な」
「ついじゃないっっ」
なだめるようにぎゅっと後ろから抱きしめられても、美月はまだドナヴァンの腕をペシペシと叩いていてごまかされていないようだ。
「アドリアナが来る前に起きるんだろ? じゃあそろそろベッドから出た方がいいな」
「でも・・・」
自分は真っ裸で、周囲を見回しても自分が着ていた服が見つからない。
「あぁ・・・ミッキーの服は昨日風呂に入った時に洗濯カゴに入れておいた」
「えぇぇぇぇぇぇ・・・・・」
だから探しても見つからなかったんだ、ガックリと美月はドナヴァンの腕を叩く手を止める。
「だってどうせ洗うんだからその方がいいだろ?」
「そりゃそうだけどぉ・・・・」
「ほら、俺が先にベッドから出るから、美月は後から出ればいい」
俺がいたらいつまでたってもベッドから出られない美月の羞恥心に気づいてか、ドナヴァンは美月の旋毛にキスを落として起き上がった。
そのまま洗面所へと歩いていくドナヴァンの堂々とした後ろ姿は、全く自分が何も身につけていない事に対して羞恥心がない事を表している。
「なんかちょっと理不尽・・・・」
自分だけが裸でいる事に対して大騒ぎしていたような気がして、美月は何か納得がいかない。
それでもようやく出て行ってくれたドナヴァンが洗面所に入ってドアを閉めた瞬間に、美月はシーツを体に巻いてからすぐに隣の部屋へ逃げ込んだ。
読んでくださってありがとうございました。




