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石版の魔女  作者: チカ.G
挿話
47/72

さすが異世界な結婚 前編

 お久しぶりです。

 ありがたい事に続きが読みたいと言ってくださった方がいました。

 大した話ではありませんが、おヒマな時に読みに来てくださると嬉しいです。

 バタン

 ドアが閉まった音がして、美月は顔をあげた。

 今彼女がいるキッチンからは見えないが、おそらくドナヴァンが戻ってきたのだろう。

 手にしていたナイフをカウンターに置いて手を洗って拭いているところに外から帰ってきたドナヴァンがキッチンにやってきた。

 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 近づいてきたドナヴァンが美月に触れるだけのキスを落とす。

 たったそれだけの事なのに、美月は未だにくすぐったい気持ちになる。

 「いつもより早かったんじゃない?」

 「まぁな」

 「知ってたんだったら言ってくれたら良かったのに」

 まだ晩御飯できてないわよ、と美月が少し口を尖らせて言うとドナヴァンはもう一度触れるだけのキスをしてくる。

 「ドッ、ドナヴァンッッ」

 突き出していた唇を慌てて引っ込めて抗議の声をあげる美月を抱き寄せて、ドナヴァンはその旋毛つむじにもキスを落とす。

 「今作り始めたばかりなんだろう? 今夜は外に食べに行こう」

 「・・・いいの?」

 「ああ、どうせこれから出かけるんだから」

 「・・・・えっ?」

 急に出かけると言われて美月は戸惑ったような声をあげた。

 「・・・急にどうしたの?」

 「別に急って訳じゃないよ」

 「でも言ってなかったじゃない」

 「そうだったかな」

 美月は聞いていなかったのだが、ドナヴァンは朝から考えていたらしい。

 「とにかく出かけるよ」

 「出かけるって、どこに? このままの格好でいいの?」

 「いいよ、でも帰りに食事に行くから、もし着替えたいんだったら着替えてくればいいよ」

 「ん〜、どうしようかな・・・・うん、着替えてくるね」

 結局どこに行くのかはぐらかされてしまったが、たまにそういう事もあるので美月は無理して聞き出そうとしなかった。

 以前も行き先を教えてくれなかった事があったが、その時はバトラシアとウィルバーンのリンドングラン夫妻から食事に誘われていた時だった。

 町で一番のレストランに連れて行かれて驚いたのだが、そこでバトラシアたちを見てさらに驚いたのを覚えている。おまけにドナヴァンはどこに行くのかすら教えてくれなかったから、その時の美月の格好はいつもよりちょっとだけいい程度のワンピースで、店の格式を考えるとギリギリ入れてもらえるかどうかといった感じですごく恥ずかしかった事を憶えている。

 他にも数回あるのだが、美月としてはもうすっかり慣れてしまっていて、今更ドナヴァンを問い詰めて聞き出すという気にもならない。

 まぁきっと何かのサプライズなんだろうな、と思うに留めている。

 ただ、この後美月はちゃんと聞いておくべきだった、と後悔する事になるのだが今はまだ知らない。





 「・・・・ここ?」

 石造りの建物を見上げた美月は、ドナヴァンの隣で小さく呟いた。

 建物自体の大きさは美月の自宅兼職場とそう変わりはないが、煉瓦造りの彼女の家と比べると石を切り出した壁で建てられたそれはとてもどっしりとした雰囲気を醸し出している。

 ただ、その建物の本来の意味を考えると当然なのだが、そこに自分がやってきている事が判らない。

 「ドナヴァン・・・ここって、神殿・・・だよね?」

 「そうだよ」

 とりあえず念のため聞いてみたが、彼の返事は美月が思っていた通りのものだった。

 「今日ってお布施を持ってくる日だったっけ?」

 「いいや、先週持ってきただろ? もう忘れたのか?」

 「忘れたっていうか・・・とりあえず確認?」

 美月の仕事は加護読みで、その収入の何割かをお布施という形で神殿に納める事で、加護読みを生業とする事の許可を得ている。

 特に手に職を持っている訳でもない美月にできる事は、この世界に持ってくる事ができたマップルとスマフォを使ってのチートで知る事ができる『ステータスの加護を読む』事だった。

 ただこれは神殿の管轄内の事なので、美月は王都まで出向いてそこにある大神殿で許可を得たのだ。

 とはいえ加護を読むだけで金貨1枚という大金なので、月に十数人しかやってこない。

 それでも美月が暮らすには十分な収入にはなっている。

 「じゃあ・・・どうしてここに来たの?」

 「どうしてって・・・判らないのか?」

 「・・・全然」

 困惑した表情で隣に立つドナヴァンを見上げる美月を見る彼の目は、なんとも言えないような色を浮かべている。

 「あのな、ミッキー。神殿が何をする場所か憶えているか?」

 「えっと・・・加護やステータスを調べたり・・・子供ができたら洗礼にくるよね、それから・・・結婚する時も来るし、人が亡くなった時もここに来るんだよね?」

 どうにかして記憶を掘り出して口にする美月の答えに、ドナヴァンは頷いてくれた。

 「そうだな。なのに、まだ判らないのか?」

 「・・・・うん」

 「・・・そうか」

 「えっと・・・ごめん?」

 「いや。別に謝る必要は無いんだけどな」

 「でも・・・」

 なぜかがっかりしたように肩を落としたドナヴァンを見て、美月は申し訳なく感じて謝った。

 頭を下げている美月に気にするなとドナヴァンは言うものの、ガッカリしている彼を見ると謝らずにはいられなかった。

 「とにかく中に入ろう。待たせているんだ」

 「待たせてるって・・・誰?」

 「ほら、入った入った」

 誰を待たせているんだろう、と思うものの背中を押された美月はそのまま建物の中に足を踏み入れた。

 分厚い木のドアを開けると、その向こうには何箇所か祈りを捧げるための礼拝所がしつらえてあり、ドアの真正面にある礼拝所の前に1人の神官が立っているのが見えた。

 「お待たせしました」

 「いいえ、時間通りですよ」

 美月の手を握ったまま神官の前までやってきて、ドナヴァンが待たせたお詫びをいう隣で、よく判らないまま美月も一緒になって頭を下げる。

 「そちらのお嬢さんがグラスハーンさんのお相手ですか?」

 「はい、そうです。ミツキ・オオモリといいます」

 「はっ、はじめまして」

 ニコニコと笑みを浮かべて差し出された手を握って、どもりながらも美月はなんとか挨拶をする。

 「なかなか礼儀正しい方ですね」

 「ありがとうございます」

 「それでは始めましょうか」

 「はい、よろしくお願いします」

 始める? 何を?

 頭の中をクエスチョンマークで一杯にした美月は、困ったような表情で隣に立つドナヴァンを見上げた。

 「結婚の儀だよ」

 「ほぇっ」

 ドナヴァンの口から結婚という言葉が出てきて、美月は目を白黒させながら変な声をあげた。

 「なんだその声は」

 「だ、だって・・・結婚、するの?」

 「プロポーズを了承したのはお前だろう?」

 「そっ・・・そうだけど・・・」

 プロポーズをされてからほんの3週間ほどで結婚式をあげる事になるとは思わなかったのだ。

 今ここにいるのは美月とドナヴァン、それに神官の3人だけだ。

 今までの流れを思うと、おそらくとても簡素な結婚式なのだろう。

 そしておそらくだがこれがこの世界では当たり前の結婚式なのだとも思う。

 別に美月がこれという明確なイメージを持っていたわけではないが、それでも日本にいた頃ドラマや映画の結婚式を思うと、あまりにもあっけないというかなんというか。

 せめて白いかわいいドレスが着たかったかも、と思ったもののそんなものを用意するだけの時間などある筈もない。

 美月はすでに神殿の礼拝所に来ているのだから。

 「・・・結婚、したくないのか?」

 「うっ、ううん。そんな事ない。そのっ・・・ただ、ビックリしただけ」

 だってここに来るまで一言も言わなかったじゃない、と続けるとドナヴァンが困ったような表情を浮かべた。

 「やっぱり、ほら、心の準備っていうか・・・その、ね」

 「すまん。普通なら神殿にあらかじめ連絡を入れて予約をするんだけど、俺の仕事の関係でなかなか時間がとれなかったからな。今日はたまたま早く片付いたから帰りにここに寄ったんだ。そうしたら今日はたまたま夕方なら空いているっていうから、すぐに予約をとったんだ」

 ドナヴァンはまるで夕食の予約を取るような感じで、神殿にやってきて結婚の儀の予約をとったようだ。

 彼の話では普通であれば1ヶ月ほど前から予約をいれるべきなのだそうだ。

 なので殆ど思いつきでやってきたドナヴァンは、予約が取れると言われてすぐに美月を連れてきたのだろう。

 美月は思わず零れそうになる溜め息をぐっと噛み殺して小さく頷いた。

 「・・そっか、仕事、忙しかったものね」

 「ああ、悪いな。美月の護衛だっていうのに」

 「大丈夫よ。それにもともと領の騎士の訓練の師範をするって約束していたんだしね。だから気にしないで」

 ドナヴァンは美月の専属護衛になるために騎士隊長の職を降りたのだが、領主夫妻から騎士隊師範として騎士たちに訓練をするようにと言われていたのだ。

 だから美月に仕事の予約が入っていない日は、リンドングラン領の訓練所に出かけて騎士たちを指導しているのだ。

 「じゃあ、いいんだな」

 「うん」

 私の結婚式はこれなんだ、と覚悟を決めて美月は頷いた。





 


 お読みくださり、ありがとうございました。

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