そして・・・ ー 6.
Happy Fourth of July!
本日2話目です。
よろしければ前の話もごらん下さい。
ドナヴァンがそんな事を考えている時、美月はどうしようとパニックになっていた。
感極まってドナヴァンに抱きついたまではいいものの、正気に戻った時には既にドナヴァンに抱き上げられていたから、どんな顔で彼から離れれば良いのか判らなくなっていたのだ。
嬉しかった。
まさかあんな言葉を彼から貰うとは夢にも思っていなかった。
ずっと一緒にいたい、と美月は思っていた。
けれど、そのためにバトラシアにいつまでも面倒を見てもらうつもりはなかった。
誰かの庇護下でしか生きられないと言う状況に自分をいつまでも置いておきたくなかったのだ。
だから、それがドナヴァンと今までのように一緒にいられないと判っていても、館から出て1人で生きていく事を選んだのだ。
なのに、ドナヴァンは館の騎士隊長という職を投げ出して自分の傍にいてくれると言う。
その事が嬉しくて感情を抑えきれなくて、美月は涙を零してしまった。
そんな彼女の涙を優しく拭ってくれたドナヴァンの優しさに思わず抱きついてしまった。
そして今、美月は彼の膝の上に座っている。
――どっ、どっっ、どうしようっっっ
しがみついたままだからドナヴァンにはバレていないだろうが、美月は頭の中でどうしようどうしようとグルグルしているのだ。
手を離せば彼から離れられるのは判っているのだが、そのあとでどんな態度を取れば良いのか判らない。
美月は未だにドナヴァンにしがみついているものの、既に自分がどんな状況にあるのかが判る程度に頭は冷めている。
だからこそ、心の中で焦っているのだ。
「美月」
そんな彼女の心情を察したようにドナヴァンは彼女の名前を呼ぶ。
「美月」
また名前を呼ばれて、美月はおそるおそるドナヴァンの胸から顔を上げると彼の視線とぶつかった。
途端にまたバッと音がする勢いで彼の胸に顔を埋めると、くつくつと笑う声が聞こえてきた。
悔しくて顔を埋めている胸をドンっと叩くと、ドナヴァンは美月をぎゅっと抱き締める。
ドナヴァンに抱き締められたせいで、美月の顔は彼の胸にむぎゅっと押し付けられる。
息苦しさに今度は背中に腕を回して何度も叩くと、ようやく美月の意図を察して腕の力を緩めてくれた。
「・・・苦しい」
「すまん」
「窒息するかと思った」
「だから、すまん」
むぅっと美月が頬を膨らましていると、ドナヴァンが両手で顔を挟み込んでそのままグッと力を入れて頬を膨らませていた空気を抜いてしまう。
「その方が良い。膨れている顔も可愛いが、俺はいつもの美月の顔の方が好きだ」
「ばっっ・・・・なっっ・・・」
バカ、何言ってんのよ。
そう言いたかったのに、どもってしまって言葉が出ない。美月の口から出たのは意味のない声だけだった。
けれど目の前の男は美月がどもっている姿を見て笑みを浮かべている。
つい先ほどまでのシリアスな雰囲気は一体どこに行ったんだろう、と美月は思うがおかげで先ほどまでのパニックはなくなりいつも通りの2人になれたので、とりあえず今は良しとしておこう。
はふっと小さく息を吐き出して、美月はドナヴァンの膝から降りようとしたのだが、それを察した彼の腕が彼女の腰に巻き付いた。
「えっと・・・離してくれませんか?」
「このままでいいだろう?」
「いやいや。できればソファに座りたいんですけど」
「もう座ってるだろ?」
「そうじゃなくって」
グッとドナヴァンの胸を押すが、美月程度の力ではびくともしない。
まったく、と大きな溜め息を吐いてみるがそんな事彼はちっとも気にしていないようだ。
「それで、美月は俺を専属護衛でもいいのか?」
「へっ?」
「さっきの話だよ。言っただろう? 美月が良いと言えば俺は美月の専属護衛になれる」
そういえばそうだった、と美月は先ほどの会話を思い出した。
「・・・でも、いいの?」
「何が?」
「だって・・・リンドングラン領の騎士隊隊長なんでしょ? そんな地位を・・・」
私なんかのために、と美月は口にしかけて飲み込んだ。
そんな美月をドナヴァンはじろりと睨みつけてから、はぁっと大きく溜め息を吐いた。
「元々騎士隊長になりたかった訳じゃないんだ。俺はリンドングラン領地内の町の1つを治めている町長の3男なんだ。だから特にこれと言ってなりたい職業がなかったし家を継ぐ必要もない俺は、親が勧められるままに騎士隊に入っただけだ」
「でも・・・・」
「それに、加護読みの専属護衛って言う仕事も、周囲から認められる役職なんだぞ?」
「・・・そうなの?」
騎士隊長に比べるとはるかに落ちる気がするが、ドナヴァンはそうは思っていないようだ。
「特に美月は異界からの客人だからな。今この世界には異界からの客人は美月以外いないんだ。その上か御読みの能力がある人だ。そんな人の専属護衛になれば、それ相応の腕だと認められる事になる。俺の親はその方が人に自慢ができて喜ぶと思うぞ?」
「・・・そんな大した人間じゃないんだけど・・・」
「周囲はそうは思わない。と言うか美月だけだよ、そんな風に思っているのは」
「・・・そうかなぁ・・・」
過大評価をされているとしか美月には思えないのだが、周囲はそうは思っていないようだ。
頭を傾げている美月を見て苦笑いを浮かべながら、ドナヴァンは言葉を続ける。
「そうなんだよ。だから、アイヴァンのところにたくさんの申し出があったらしい」
「申し出、って?」
「護衛の、だ。王都から帰る途中、美月の加護読みとしての名前を呼ぶためにあちこちの町に寄っただろう? そのすぐ後に立ち寄った町の腕のたつ男等がそれぞれの町の有力者から推薦状を貰って、美月の専属護衛に名乗りをあげていたんだ」
「・・・・知らなかった」
「そうだろうな。バトラシア様は美月に要らぬ心労を与えないようにと伏せていた筈だから」
そう言うところでも自分は守られていたんだ、と改めて思う。
「だから、美月が俺を選ばなかったら、バトラシア様はその中から専属護衛を選ぶかもしれない」
「えぇっっ・・・知らない人は、やだなぁ・・・」
「・・・それは知っているヤツなら良いって事か?」
急に低い声で聞いてくるドナヴァンを見上げると、どこかムッと拗ねたような表情を浮かべている。
「まぁな、確かに別に俺じゃなくてもいいんだろうからな」
「・・・ドナヴァン?」
「だったら・・・俺じゃ駄目って事なのか」
あれ、と美月が思う間もなく、ドナヴァンは美月を自分の膝から降ろして横に座らせた。
先ほど美月が頼んだときは降ろそうとしなかったのに。
不思議に思いながら彼を見上げていると、目があったドナヴァンがどこかばつの悪そうな顔をする。
「えっと、話についていけてないんだけど・・・?」
「だから・・・美月の専属護衛になりたいヤツは山ほどいるって事だ」
「でも、ドナヴァンがなってくれるんでしょ?」
違うの? と頭を傾げて彼を見上げるが、ドナヴァンは困ったような表情を浮かべたままだ。
「あれ・・・もしかして、私・・・勘違いした?」
ドナヴァンがこれからも一緒にいてくれると勝手に浮かれていたのだろうか、と思う。
そして彼が何も言わない事がその答えなのだろう。
途端に今度は違う意味で泣きそうになる美月をドナヴァンがそっと抱き締める。
「俺で、いいのか?」
「・・・ん」
「他のヤツと会ってから決めてもいいんだぞ?」
「んんっ」
ドナヴァンがいい、と頭を振ってから美月は小さな声で呟いた。
「・・・ありがとう」
思わずぎゅっと抱き締めかけて、先ほどの事を思い出してドナヴァンはグッと堪える。
「・・・ずっと一緒?」
「ああ。美月の傍にいる」
「・・・ホント?」
「ああ・・・美月が嫌だって言うまで、俺は傍を離れないよ」
おずおずと背中に美月の手が回り、その手にきゅっと力が入る。
「・・・ありがと」
ぼそぼそと小さな声で言うが、その声はしっかりとドナヴァンの耳に届いていた。
ドナヴァンは美月の顔を上げさせて、その顎に手をかけるとそのままそっと唇に短いキスを落とした。
途端に真っ赤になる美月の反応に気を良くして、俯いて顔を隠そうとする美月を許さずもう一度、今度は深いキスを仕掛けた。
深いキスを仕掛けたところで美月は彼の背中をばんばん叩いていたが、彼とのキスが終わる頃には背中を叩いていた手で彼にしがみついていた。
「愛してる」
「・・・・うん」
「それだけ?」
「・・・・私も」
からかうように尋ねるドナヴァンの背中を叩いてから、美月はそっと囁く」
「・・・愛してる」
ドナヴァンは返事の代わりに美月を抱き締める。
これからここで2人で暮らして行くのだ。
そう思うと、美月は思わず笑みを浮かべた。
ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
本当はもう少しエピソードもあり、伏線回収もあったのですが、自分が書きたいものが何か判らなくなり、こじんまりと終わらせる事にしました。
それでもとりあえずここまで続ける事ができたのは、お付き合いくださった皆様のお陰です。
後少しだし、今日はこちらはホリディなので一気にアップする事にしました。
午後7時にもう1話アップしますが、それは以前書き始めた時に第一話として載せていた話ですので読まなくても大丈夫です。
最後までありがとうございました。




