表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石版の魔女  作者: チカ.G
本編
43/72

そして・・・ ー 4.

 「ちゃんと週末には来るのよ?」

 「はい、約束したじゃないですか? ちゃんと来ます」

 「じゃあ、気をつけてね」

 まるで小さな子供に対するように心配するバトラシアと、そんな彼女に苦笑しながらも1つ1つきちんと答える美月。

 「週末にはちゃんと馬車を迎えに寄越しますからね」

 「えぇっ。歩いても大丈夫ですよ?」

 「駄目っ。歩いてなんかだと30分ほどかかるじゃない」

 「いい運動になると思ったんだけど」」

 「いいから私が寄越す馬車に乗ってきなさい。判ったわね」

 「・・・・はい」

 これではいつまで経っても出発できない、と判断した美月は素直にバトラシアに返事をした。

 そしてバトラシアがにっこりと笑って頷いたのをみて、これ以上話が長くなる前にと馬車に乗り込んだ。

 「ちゃんと食事はするのよ。それから1人で外を歩き回っちゃ駄目よ。それから――」

 「ご飯は作れます。掃除もできます。買い物はちゃんと護衛と一緒に行きます。それから――」

 美月は馬車の窓から体を乗り出してバトラシアを見る。

 「週末には帰ってきますねーー」

 元気に叫ぶように声を出した美月に合わせて馬車が動き出した。

 バトラシアは今生こんじょうの判れと言わんばかりに手を振るが、どうせ明日には美月の家に様子を見に来る事は想像がつく。

 それでも美月はバトラシアの姿が見えなくなるまで手を振り返した。




 貰った鍵を使ってドアを開けると、新居に相応しい木の匂いがした。

 美月はとりあえず手にしていたバッグを持って中に入る。

 一応裏にも中に入れるようにドアがあるのだが、入居と言う事で美月は正面の入り口の鍵を開けた。

 ドアを開けると早速と言わんばかりに馬車の御者とその隣りに座っていた男の2人が、馬車で運んできた荷物を家の中に運んでくれる。

 とはいえ美月の荷物は美月の私物だけなので、あらかじめ2階の彼女の部屋に運んでもらうように話はしてあるから心配はしていない。

 それらの荷物は後で1人になってから新しい家具に仕舞うつもりだ。といってもたくさんある訳でもないから1−2時間もあれば全て片付けてしまえるだろう。

 物珍しそうに部屋を見回している美月を尻目に、2人はテキパキと箱を持ってさっさと奥へ入っていく。

 ドアを開けた先に広がっていたのは6畳ほどの大きさの部屋で、その部屋は美月が加護読みの仕事を始めた際の受付になる予定だ。

 その部屋の奥にドアがあり、そこを開けると今度は8畳ほどの部屋がある。ここは美月が加護を読む部屋になる。

 美月としてはそんなにいくつも部屋を分けなくても、と思うのだがバトラシアに言わせると「これは一種の儀式みたいなものだから諦めなさい」、との事だ。

 そしてその部屋にも奥にドアがある。

 そのドアを開けるとそこは通路になっている。通路をずっと行くと裏口から外に出られるようになっている。この裏口、美月の家のプライベートな出入り口と言うこともあり、普通の家の裏口より立派に作られていて大きめのドアが付けられている。

 途中にあるのは居間、台所にダイニングルーム。それからメイド用の部屋が1つに階段。

 階段を上るとまた通路があって、一番奥まったところにあるのが美月のベッドルームだ。その他に警護の人用の部屋があり、あとは客室として使えばいいとバトラシアから説明を受けている。

 自分1人のためにこんなに広い家は要らない、と美月はバトラシアとウィルバーンに言ったのだが、格式を重んじるためにもこれが最低限だと言われるとそれ以上言えなかった。

 「な〜んか、立派すぎる家なんだけどなぁ・・・・」

 日本のごく普通の家庭で育ってきた美月としては、実家よりはるかに広くて大きい家はどこか分不相応に思えて仕方がない。

 一通り部屋の中を見回してから、美月は部屋に置かれている家具に目をやる。

 部屋に置かれている家具、といってもたくさんある訳でもない。

 ドアを開けた正面に大きめのカウンターが1つにカウンター用のストゥールが1つ。

 それからカウンターの左手に案内を待っている人が座るための椅子が4つL字型に配置されていて、L字の折れた部分の隙間にテーブルが置かれている。そのテーブルには花瓶が置かれているのがみえる。今はまだ花瓶には何も生けられていないが、客が来るようになれば花が綺麗に飾られる事になるのだろう。

 そして右手には大きめの本棚のようなものが設置されているが、美月はまだそこに何を並べるのか考えて付いていない。

 まぁおいおい色々と飾るつもりではいる。

 そして部屋に飾られたばかりの新品の家具たちは傷1つなくピカピカに磨かれている。

 「ミッキー様。荷物は部屋に運んでおきました」

 「えっ? あっ・・・あぁ、そう。ありがとうございました」

 ぼんやりと部屋を眺めている間に、御者ともう1人の男は美月の荷物を全て運び終えていたようだ。

 部屋の奥にあるドアのところに立って声を掛けてきた2人に美月は慌てて頭を下げる。

 「他に何か手伝いをする事はありますか?」

 「大丈夫です。後は自分でできます」

 自分でした荷造りの中身はちゃんと憶えているから、別に手伝いは必要ない。

 「そうですか?」

 「なんでしたら荷解きも手伝いますよ?」

 「大丈夫ですよ。だって、ほら、荷物もあれだけしかなかったでしょ? 大きなものとか重いものもないから1人で大丈夫です」

 「判りました。でも何か手助けが必要な時は館に連絡してくださいね?」

 「はい。その時はお願いします」

 「バトラシア様が保冷庫にいくらかの食材を入れてあるから、と言ってました。もし足りないものがあればいつでも言ってください。こちらで用意します」

 保存庫は魔石を使った食材を新鮮な状態で保存してくれる箱だ。

 美月は小さいので十分だからと言ったのだが、バトラシアがそうはいかないと言って用意してくれたのは床面積が畳1畳分ほどで高さが天井まであるクローゼットのような保存庫だった。

 領主の館で見た保存庫が10畳ほどの中へ歩いて入る大きさだった事を思えば大きくはないが、美月1人のためならその半分でも大き過ぎる。

 それでも美月が小さいものを、と言ってこの大きさになったのだ。

 もし口を挟まなかったらどんな大きさになっていたのか、と思うと美月は口を挟んで良かったと心底思う。

 とはいえ既に食材を入れてくれていると聞いて、美月は過保護なバトラシアの顔を思い浮かべて苦笑する。

 「食材まで用意してくれてるんですね。帰ったらバトラシアさんとウィルバーンさんにお礼を言っておいてください」

 「判りました」

 2人は美月に軽く頭を下げてから帰って行った。

 窓から2人が操る馬車が走り去って行くのを見送る。

 外は午前中と言う事もあり馬車が行き違う姿や人が歩いている姿を見る事もできるが、それでも今この家にいるのは自分だけだと思うと外から音が聞こえる割に静かに感じる。

 美月は窓のカーテンを閉めてからドアに行き、そのままドアの鍵も閉める。がっしりとした木製のドアには鍵が2つ付いていて、美月はそのどちらもきちんと鍵がかかっている事を確認する。

 この建物の外には看板も何もなく、パッと見には普通の家にしか見えない。

 神殿と東門の間にあるから治安も良いと聞いているが、それでも誰か知らない人がやってきても対応に困るので鍵を閉めて誰か来ても無視すれば良いだろう。

 片付けはした方が良いのは判っているが、それでも今すぐ始めなければいけない訳ではない。

 とりあえず美月はキッチンに足を運んだ。

 戸棚には美月が選んだ食器が並んでいる。3日ほど前に来た時に箱から出して洗って片付けたものだ。

 ヤカンでお湯を沸かし、保存庫の入り口の隣りに置かれているパントリーから茶葉を出してティーポットに入れる。

 それからフランチェスカが渡してくれたクッキーを数枚小皿に盛りつける。

 朝ご飯を食べてまだそれほど時間は経っていないが、片付けをする前に少し落ち着こうと思ったのだ。

 美月はティーポットとカップをトレイに乗せ、沸いた湯を注いでからトレイを持って居間に行く。

 このままキッチンで飲んでも構わないが、せっかく居間があるのだからそこでお茶を飲みたいと思ったのだ。

 キッチンのドアを閉めてからトレイを片手に居間へと歩く。

 お茶を零さないように、と気をつけながら居間のドアを開けて中に足を踏み入れて、その時初めてそこに人がいる事に気づいた。

 「えっっ?」

 「っと、危ない」

 美月が驚いて落としかけたトレイをがっしりと受け止めたのは、もう滅多に合えないと思っていたドナヴァンだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ