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石版の魔女  作者: チカ.G
本編
22/72

美月の新しい使役獣 ー 2. 

 相変わらず不思議な馬たちだ、と美月は思う。

 遠目なら美月が見慣れている馬、なのだ。

 なのに、近づいてみると全く違う姿になってしまう。

 美月はドナヴァンたちと連れ立って厩舎へと馬を見に来ていた。

 ドナヴァンの愛馬『ヴァルガ』は、真っ黒な美月の知っている馬の毛並みを持っている。ただ、その額から伸びているのは銀の剣。ユニコーンの角が剣になっているとでも言えばいいのだろうか。ドナヴァンの話ではこの馬は『剣馬ソードホース』と言うらしい。

 スライの愛馬『トンガ』は全身が燃えているように赤い馬だ。そして馬らしい毛ではなく、鎧のような鱗が全身を覆っている。好奇心で触らせてもらったが、どことなく温かいそれは硬く尖っているというよりは弾力がある。スライの話では馬自身が持っている魔力で、戦闘時に鱗に魔力を通して硬くなり普通の剣ではかすり傷も着けられないのだとか。

 フンバルの愛馬『シャルガ』は全身が輝くような銀色の馬で、スライの馬と同じ種類らしい。ただ、銀色と言う色の特性なのか、スライの馬よりはフンバルの馬の方がより防御力が高いのだそうだ。

 2人の馬の種類は『鱗馬スケールホース』と言うらしい。別名は言わずと知れた『鎧馬アーマードホース』。

 そんな3人の馬を見比べてから、美月は自分用に用意されたという馬に目を向けた。

 ドナヴァンたちの馬よりは2回りほど小さいその馬は、深い青の色の毛をしていた。鱗も剣もない代わりに耳が異様に長かった。馬にウサギの耳、とでも言った方がいいかもしれない。しかも耳に生えている毛が長い。そして尻尾の毛も地面につくほど長い。この馬の種類は『盾馬シールドホース』と言うらしい。

 「名前はコンテロッサ。盾馬だ」

 「盾・・・・って、どこが盾?」

 ヴァルガが剣馬とか、トンガやシャルガが鱗馬というのは納得がいくが、目の前の馬が盾馬というのはよく判らない。

 「ドナヴァンの馬は剣を生やしているし、スライやフンバルの馬は鱗だから名前の由来は判るんだけど・・・この子は盾馬って言うけど、盾、ないじゃない?」

 あるのは長い耳とそこに生えている長い毛、それに地面につくほど長い毛をした尻尾だ。

 「あるだろ、そこに。見えないのか〜」

 「スライ、うるさい」

 「あうっ」

 スライがからかうようにコンテロッサを指差して言い、その頭を背後からフンバルが殴る。

 殴られたスライはうめき声を上げてからうずくまった。

 そんな2人を見て、いつもの事だと美月は溜息を漏らす。

 「まぁ、あいつらは放っておけばいい。それよりミッキーに説明するよ。コンテロッサが盾馬と呼ばれる理由は、あの長い耳と尻尾なんだ」

 「耳と・・・尻尾?」

 「まぁ、口で説明するよりは見てもらった方が早いだろう。コンテロッサ『盾展開オープンシールド』」

 ドナヴァンの言葉に応えるように、コンテロッサは耳を上げそこに生えていた毛が耳を中心に円を描くように拡がる。そして尻尾も同じように立ち上がって円を描いて拡がった。

 「スライ、ちょっと攻撃してみてくれ」

 「あいよっ」

 美月の前でスライは腰に差していた大剣を取り出すと、そのままコンテロッサに向けて斬りつけた。

 「えっ、スライっっ」

 突然の事で1歩踏み出そうとした美月をドナヴァンの手が止める。

 スライの大剣はそのままコンテロッサの首元を狙って降ろされるが、広がった毛の高さと同じ位置が一瞬光って彼の大剣を受け止めた。

 受け止められたスライはにやりと笑ってもう一度大剣を今度は胴体に向けて振り下ろすが、結果は先ほどと同じで剣を受け止めるように何もない空間が一瞬光って防御する。

 スライが攻撃のあと大剣を鞘にしまって美月たちのところへと戻っていくと、盾馬のバリアーも解除されたのかゆっくりと耳と尻尾の毛が元の位置に戻っていく。

 「あれって・・・どういう事?」

 「コンテロッサのような盾馬は、ああやって毛を拡げることでバリアーを張る事ができるんだ。今は自分の体に合わせてあの位置だが、乗り手がいる場合は乗り手の大きさに合わせてバリアーを張ってくれる。攻撃力は全くない馬だが、防御力はダントツだ」

 「ふぇぇ・・・」

 「小型の馬だから乗り手を選ぶが、ミッキーだったら丁度いい大きさだと思う」

 元々は戦場に不慣れな若い王族が参加する時のために品種改良された馬だ、とドナヴァンが説明を続ける。

 「まだ10歳—12歳と言った子供でもこの大きさの馬なら扱えるし、この防御力を持ってすれば戦場で死ぬ事はないからな」

 「はぁ・・・・」

 「ただ・・気性に問題があってな。乗り手を選ぶんだが・・・どうやらミッキーの事は乗せてもいいと思っているようだな」

 「そぉなの・・・?」

 言われて美月は盾馬を見るが、気に入られたという気はしない。

 それでもドナヴァンに背中を押されたので、ゆっくりと盾馬の方に歩いて行く。

 盾馬からほんの4−5歩というところで足を止めた美月は、先ほどより近くで見える綺麗な毛並みに目を奪われた。

 深い海の底から上を見上げたらこんな色だろうかと思うような青い色をもつ毛は、ドナヴァンの馬よりも長い気がする。というか、馬とは思えない長さの毛だと美月は再認識する。特にお腹周辺の毛は本当に長く、垂れ下がっているほどだ。

 そんな美月に頭を傾げた盾馬は、いつまでも動かない美月に焦れたのか自ら彼女に歩み寄ってくる。

 それを見て美月は慌てて手を伸ばして、盾馬が美月の匂いを確認できるようにする。

 躊躇う事なく数歩歩いた馬は、そのまま美月の掌に鼻面を当てて匂っている。

 ドナヴァン曰く、馬にまず匂わせる事が大切、なのだそうだ。馬の事をまったく知らない美月としては、彼に言われた通りにするだけなのだが、それでも自分の匂いを嗅ぐ事で安心するというのであればそれでいいのだろうと思う。

 「ミッキー、そのまま手を伸ばして額を触ってやれ」

 「判った」

 馬を驚かさないようにゆっくりと伸ばした手を上げて盾馬の額に触れる。

 触れた感触は、普通の馬よりも毛並みが長いせいか思ったよりふわっとしていた。

 そっと撫でていると盾馬の方も気持ちがいいのか目を細めている。

 「大丈夫そうだな。乗ってみるか?」

 「乗るって、1人で?」

 「当たり前だ。そんな小さな馬に2人も乗ったら可哀想だ」

 そう言われると、確かに大人2人が乗るような大きさの馬ではないだろう、と美月も納得する。

 ドナヴァンたちの馬であれば2人くらいは楽々だろうが、それより2回りは小さいこの馬ではドナヴァン1人でも大変だろう。

 「乗り方は憶えているか?」

 「ん、多分」

 確か、鞍のこの部分を握って、左足を鐙に掛けて、と手順を頭で思い出しながらそれでもなんとか馬に股がる事ができた。 

 「上手く操ろうとは考えなくていい。ただ、俺たちのあとをついてくれば大丈夫だ」

 美月が鞍の上でお尻を動かして乗りやすい位置を整えている間に、他の3人も馬上の人となる。

 「じゃあ、出かけよう」

 今日から4日間、美月たちは狩りにでかける。





Edited 01-29-2016 @ 10:18

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