美月の秘密 ー 4.
「これって・・・?」
「だからね、せっかくこんな素晴らしい道具を持っているんだから、こうやって人の加護を調べる事を仕事にすればいいんじゃないかなって思うんだけど」
「・・・加護、ですか?」
「そう、さっきも言ったけど、この世界では王都にある大神殿に言って大神官に見てもらう以外に加護を知る事はできないのよ。だけど、もしそれを王都に行かなくても調べてもらえるとすれば、王都から遠いこの周辺の人間でも知る事ができる、という事」
そう説明されて、美月はなるほど、と頷いた。
「そうだね。自分についている加護が何かを知る事ができれば、将来どのような仕事に就けばいいのか、どのスキルを伸ばしていけばいいのか、というある程度の進路が見えてくるからね」
「そう。ただ、ね。ステータスチェックを出来る事は隠しておきなさい。加護を調べる事ができる、という事にしておきなさい」
「えっ? でも、どうしてですか」
加護だけではなくステータスも判ればもっと助かるのではないか、と美月としては思うのだがバトラシアと彼女の言葉に頷いたウィルバーンはそうは思わないらしい。
「理由はいくつかあるわ。まず1つ目として、その方が大神殿と揉める心配をしなくても済むって事。あなたがステータス全部を視る事ができるとなると、大神殿が行っているステータスチェックが特別なものにならないからよ。大神殿と大神官はステータスチェックができるからその存在は特別だと認識されているの。その地位を脅かすあなたと言う存在を知れば、疎ましく思って排除するか無理矢理大神殿に連れて行かれるかもしれないわね」
「そうなるとミッキーには自由はない。大神殿からは二度と出られないと思わないと駄目だろう」
「だから、ステータス全部を知る事はできない、という事にするのよ。加護だけなら他のステータスの全てを知りたいと思う人は大神殿に行かなければいけないから、やっぱり大神殿と大神官は特別だと言う地位を保つ事ができるわ」
バトラシアに説明されて、ようやく美月は自分のステータスチェックができるという事がどれほど特別なのか理解できた。
自分でも随分チートな能力をアストラリンクから貰ったなと思ってはいたのだが、そこまでとは考えもしていなかったのだ。
「そして次は、もし大神殿が見逃したとしても、ここに来ればステータス全部を教えてもらえるとなると、想像もつかないほどの人がやってくるわ。私たちもあなたの警護を十分するつもりだけど、その目をかいくぐってあなたを誘拐して連れ去ろうと考える国も出てくると思う。ステータスチェックをする事ができる大神殿と大神官を擁しているのは、今私たちがいるこの国『スキャッグス』と『ブンデンライト』だけなの。だから大神官の否いう国のどこかが、無理矢理あなたを攫って自国のどこか奥深くにあなたを閉じ込めようと考えてもおかしくないわ」
「シア、そんなにミッキーを脅さないであげようよ。ほら、凄く心配そうな表情になっている」
「あら? ごめんなさいね。はっきりと言った方がいいと思ったんだけど。でも、そうね・・・この世界に来る前は平和でそんな心配をする必要がないところだったみたいだから、いきなりこんな話を聞かされると驚くわね」
嗜めるウィルバーンに指摘された通り、美月は心配そうな表情を浮かべている。
「じゃあ、まだ他にも理由はあるけど、今は言わないでおいてあげる」
「そうだね。ミッキーがもっとこの世界に慣れてからでも遅くないと思うよ」
「・・・はぁ」
「それにもっと他にしたい事があればそれを仕事にすればいいんだしね。ただ、あなたが考えあぐねているから、これもミッキーにできる仕事の1つよって言いたかったの。それだけ」
「僕たちもできるだけ力になるからね。だから、何か気になる事があればいつでも相談に来てくれればいいんだよ」
テーブルの上に置いたままの美月の手を軽く叩いて、振り返った美月にウィルバーンは頷く。
「ありがとうございます。もう十分助けてもらっているのに・・・」
「ミッキーはそんな事気にしなくていいの。それより私の提案、どう思う?」
「そうですね・・・もし本当にそんな事で生活していけるだけのお金を稼げるんだったら言う事はないです。使役っていうスキルはあるんですけど、正直どうやってそれを使って生活費を稼ごうかって考えていたんですよね。だからそうやって提案してもらえると本当に助かります」
美月は素直に頭を下げて礼を言う。
「じゃあ、次はここを出てからどこに住むかってことかしらね?」
「そうですね・・・でも、加護を調べる仕事だったら家の一部屋を仕事用に使えばいいから・・・・どこかに家を借りれば何とかなりそうです」
「その事で提案があるんだけど、どうかな?」
加護を調べる、という事であればテーブル1つと椅子を数脚おけるスペースがあれば、それで十分仕事をする事ができるだろう、と美月は思う。
小さな家を借りれば何とかなるだろう。
しかし、それには1つ問題がある。
美月はお金を持っていなかった。
アストラリンクはここに来てすぐに困らないようにと言って非常食と着替えは用意してくれたものの、お金も必要だとは思わなかったのかバッグにはお金がなかった。
それでも今まではここでバトラシアの庇護下で生活に不自由はなかったのだが、これから1人で暮らしていこうと思うとお金が全くないままではそれは無理だろう。
だからその事を知っているウィルバーンの言う提案が気になった。
「うちの騎士たちのステータスチェックをしてくれないかな? うちには兵士もいるけど、ステータスチェックをするのは騎士だけで十分だからね。彼らの資質が判ればこれからの訓練なんかもしやすくなるし、それを知る事でこれからよりいっそう鍛錬に励んでくれるんじゃないか、と思っているんだ」
「でも、私がそう言う事ができるって事は隠しておいた方がいいんですよね?」
「もちろんミッキーがしているという事が判らないようにするよ。そうだね・・・・部屋を区切って騎士たちのいる場所から手だけを差し出してもらって水晶に乗せてもらえばいいだろうね」
つまりカーテンかなにかで仕切った場所で相手に手だけを差し出してもらって調べる、という事になるのだろう。
ステータスも声を出してすぐに読み上げるのではなくて、紙に書いて提出するようにすれば声で美月だとバレる心配もない。
それなら大丈夫だ、と美月はホッと息を漏らした。
「それでね、ステータスチェックをしてもらう対価として・・・そうだな、君が住む家を用意しよう。もちろんミッキーの名義の家だ。その1部屋を使えば仕事はできるだろうからね。ただし君の安全を考慮した場所をこっちで選ばせてもらうよ」
「それは貰い過ぎですよ」
「何言ってんのよ。ミッキー、あなた、ステータスチェックにいくら掛かるか知らないの? 大神殿で大神官にしてもらうと、大金貨1枚は寄付しなければいけないのよ、知ってるでしょ? そしてうちの騎士の数は50人。つまり、あなたの仕事は大金貨50枚分の価値があるって事よ。それに対して家を1軒ってかなり無理な割引をウィルは持ちかけているって事」
大金貨1枚、と聞いて美月は目を見開いた。確か教えてもらった貨幣価値では、大金貨1枚は約100万円だ。それが50枚となると5千万円という事になる。
この世界で家1軒の価値がどんなものか判らないが、それにしてもそんな大金はもらえない。
なんと言ってもここに来てからずっと美月を庇護してくれたのは彼らだ。美月としては無償でしても構わないと思っている。
「今までずっとお世話になってます。私は無償で全然構いません」
「駄ぁ目。その辺はビジネスと割り切りなさい。大体無一文のあなたがここを出たとしても、生活できなくて3日と保たないわよ。だから、素直に受け取りなさい」
「でも・・・・」
「それに、ね。もしどうしても気になるんだったら、数年に1度彼らのステータスチェックをしてもらえると嬉しいわ。その間にうちの騎士たちがどのくらいレベルを上げる事ができるのか知る事ができれば、今後のやり方を考える時の指針にもなるから。だから、その時は無料でおねがいね」
「・・・判りました」
上手く丸め込まれた気がしないでもないが、バトラシアの言う通り無一文の美月がここを出てもすぐに立ち行かなくなるのは目に見えている。
だから今はその提案を受け入れて、将来自分で生活できるようになってから2人の恩に報いる事ができるといいと思う。
2人が色々と美月のためにしてくれる事を思うと胸が熱くなって思わず涙が浮かんでしまった。
「じゃあ、細かい話は少しずつしていきましょう。ミッキーの希望する家を見つける事ができるといいわね」
「・・・ありがとうございます」
うっすらと浮かんだ涙を見られたくなくて、美月は深く頭を下げた。




