美月の秘密 ー 3.
四角いテーブルの上にあるのは美月のマップル。美月はドナヴァンのステータスを調べた時と同じように水晶をマップルに繋いで、その上にバトラシアの手を載せてもらってある。
マップルの画面は4−5秒ほどしてから、画面にバトラシアのステータスを映し出した。
名前 バトラシア・リンドングラン
性別 女
種族 人族
ランク 20
体力 30
知力 39
魔力 98 (水)
スキル 使役
加護 ヒエラドリアーナ(癒しの神)の加護(小)
マップルの画面に現れたステータスに目を通してから、美月は顔を上げる。
美月の正面に座っているのはバトラシアで美月の右隣りにはウィルバーンが座っている。ドナヴァンは美月の左側に立ったままだ。美月は彼に座るように言ったのだが、座っていては任務ができないといって座ってくれなかった。
「出ました。ちょっと待ってくださいね」
美月はバトラシアが用意してくれたペンを手に取って、同じく彼女が用意してくれた紙に画面のステータスを書いていく。
少しごわごわした紙は書きにくいが、それでもなんとかバトラシアのステータスを書き終えるとそれを目の前に座っている彼女に渡す。
「・・・本当にステータスチェックができるのねぇ」
ざっと目を通してからバトラシアは顔を上げて美月をみる。
「2年ほど前に王都に行く機会があってね。ウィルに勧められてその時初めてステータスチェックをしてもらったんだけど・・・確かこれとよく似た数字だったわ」
「確かにね。僕もシアのステータスを全部憶えている訳じゃないけど、ヒエラドリアーナの加護があったのは憶えているよ。だから、間違いないんじゃないのかな」
バトラシアの隣りに座っていたウィルバーンも頷いているのを見て、美月はホッと息を吐き出した。
「あの・・・ずっと黙っていてすみませんでした」
「いいのよ、そんな事気にしなくても大丈夫。全く知らない世界に来たんですもの。すぐに周囲の人間を信用しろって言う方が無理だわ」
「そうだね。それにこれに関しては、黙ってくれてて良かったと思うよ」
「そうなんですか?」
「うん。僕たちは君と知り合ってから5ヶ月ほど経っているだろう? だから、その間に君がどんな人で誰かを陥れるような人じゃないって判ってる。だから、君が少々突拍子もない事を言っても信じられるし、受け入れる事だってできる。でも、もし君がこの事をここに来た時に言っていたら、素直に信じられるかどうか判らない」
「そうね・・・私たちにとってステータスチェックができるのは大神殿の大神官だけだから、大神官でもないあなたができると言っても、すぐには信じられなかったでしょうね」
今まで黙っていた美月の罪悪感を減らすかのように、黙っていてくれた方が良かったのだと言ってもらえると、美月としてもホッとしてしまう。
「それにしても、石版、とはねぇ」
「本当だ。僕はミッキーのそれを見て、魔女を思い出したよ」
「・・・魔女?」
マップルが石版に見えるというのはドナヴァンから聞いていたが、なぜ魔女を思い出すのか判らない。
美月はこの世界の基本的な知識はあるものの、昔話や伝承と言った知識は全くないから頭を傾げるだけだ。
「別にミッキーがそうだって言ってるんじゃないのよ? ただね、『石版の魔女』と言う人がいたという伝承が残っているの」
「彼女はミッキーと同じように石版を使って人を視る事ができたそうだ。といってもステータス全部ではなくて加護を知る事ができたと言われているね」
「私も最初ミッキーの部屋のテーブルに石版があるのを見た時、これは何だって聞いてしまいました」
「そりゃそうよねぇ、私だってなんの前知識も無しに見せられたら、そう言っちゃうと思うわ」
普段は『俺』と言っているドナヴァンがバトラシアの前では『私』と言っているのを見ると、なんとなく違和感があるが、自分の前では素を見せてくれているんだろうなと美月は思い至って少し嬉しい。
そしてバトラシアたちの話を聞いて、なぜドナヴァンがあんな反応をしたのかが判った。
「『石版の魔女』ですか・・・もし良かったらあとでまた―−―」
教えてください、と言いかけて、美月はアストラリンクに告げた条件の事を思い出した。
無理に手を煩わせなくてもこの世界の検索エンジンである『グラッター』を使えば何でも調べられる、という事に思い至ったのだ。
そして今の今まですっかり忘れていたが、『ヒャッホー』や『グルグル』を使えば元の世界の事も知る事ができる筈だ。
この世界の生活に慣れる事に一生懸命で、美月はその事をすっかり忘れ切っていた。
あれだけ使うのを楽しみにして買ったマップルの事すらここに来てからの最初に1ヶ月は忘れていたのだから、検索エンジンの事を忘れていても仕方ないだろうと自分を慰める。
「どうしたの?」
「あっ・・・いえ。この世界の事を調べる事ができる手段を持っていた事を今更思い出しちゃって・・・すっかり忘れていたなぁって」
「調べる手段って? この石版を使って、って事?」
「そうです。世界と世界の管理者に無理を言って、そう言う機能を付けてもらいました」
無理というよりは脅しだったかもしれないな、と思うが今更だ。それに、1人の人生の代償と思えば、そう無理ではなかった筈だ、多分。
「それは・・・・」
「・・・すごいわね」
ウィルバーンとバトラシアがお互いの言葉を補足し合うように呟く。
「ますます『石版の魔女』の再来と言ってもおかしくないわ」
「そうなんですか? 私は『石版の魔女』の事を知らないので、あとでちゃんと調べておきます」
「そうだね、知っていた方がいいだろう。まぁ、ここでは簡単に説明するよ。『石版の魔女』は今から300年以上前に実在していたという事になっていて、彼女には判らない事はなかったらしい。ただ未来を読む力はなかったようでこれから何が起こるのかという事は判らなかったらしいが、それでも誰がどんな神の加護を持っているのかが判るという事はとても貴重だったからそれを占ってもらうために人がたくさん彼女の許を訪れたと記録にある」
「占い・・・ですか?」
「そう言われていたみたいだよ? 石版を指先でそっと撫でながら魔力を込める事で調べたい相手の加護を知る事ができたらしい」
「魔力って・・・私には魔力は全くないんですけど」
「そう伝えられているって話だよ。魔力を感知するにはそれ相応の力がなければできないから、ミッキーが魔力を持っていないとしてもそれを知る事ができる人間は殆どいないよ。だから、そんな心配をする必要はないだろうね」
「そうね。ウィルの言う通りよ。ミッキーはそんな事心配しなくても大丈夫」
美月が心配そうな表情を浮かべたのを見て、バトラシアはクスクスと笑う。
それを見て美月の隣に立っていたドナヴァンは、肩の力を抜けと言うかのようにそっと美月の肩を叩く。
「私からの提案なんだけど、ミッキー。あなた、これを仕事にする気はない?」
思いつきもしなかった事を提案されて、美月は驚いたようにバトラシアを見た。
Edited @ 07/16/2015 20:19CT




