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石版の魔女  作者: チカ.G
本編
18/72

美月の秘密 ー 2. 

 スライディングドアの前で立ちすくんだ美月を部屋に押し入れるように腕を掴んだまま中に入ったドナヴァンは、そのまま美月をマップルの前に座らせる。

 「ミッキー、これはなんなんだ」

 「えっと・・・その・・・・」

 「なんで石版がここにある」

 「・・・・へっ?」

 石版、と言ったんだろうか?

 美月はパッとドナヴァンを見上げると、彼は額に皺を寄せてじっとマップルを見つめている。

 「あの・・・ドナヴァン?」

 「ミッキーは石版を扱えるのか? バトラシア様はそんな事を言ってなかったが・・・」

 やっぱり石版って言ってる、と美月は混乱した頭の中で呟いた。

 しかし、そんな美月の傍でドナヴァンもいつになく混乱したような顔をして、テーブルの上にある石版マップルを睨みつけている。

 「・・・石版って・・・」

 「おまえの目の前にある、ソレ、だ」

 「・・・そうだよねぇ」

 ドナヴァンが見ているのはマップルなのだが、彼の言う石版とやらはおそらくそれの事だろう。

 「えっと・・・ずっと話したかった事があるんだけど・・・そこに座ってくれる?」

 美月は混乱した頭のままだが、とりあえず彼に椅子を勧めた。




 マップルを挟んでドナヴァンとは向かい合って座っているのだが、どうにもまだ気まずい雰囲気が残っている。

 それでも、少し前からマップルの事を話そうと思っていたのだから、丁度いいタイミングと思うしかない。

 ただ、何を最初に話せばいいのか、それが判らないだけだ。

 「えっと・・ね。ドナヴァンには、これがなんに見えてるの?」

 「石版、だろう?」

 「そっか・・・石版に見えるんだ」

 「違うのか?」

 眉間に皺を寄せて聞いてくるドナヴァンに美月は首肯する。

 「これね・・・私が元の世界から持ってきたものなんだ」

 「この石版が・・・ミッキーの世界のもの?」

 「ううん、これ、石版じゃないの。これは・・・えっと、金属でできていて、この部分に画面があって」

 「ちょっと待ってくれ、この部分って、何も見えないぞ?」

 「えっ、そうなの?」

 美月がスクリーン部分を触ってみせるが、どうやら本当にドナヴァンには見えないらしい。

 「ああ、俺に見えるのはテーブルの上に置かれている石版だけだ」

 「じゃあ、ちょっと手を貸して」

 美月はドナヴァンの手を掴んでマップルの画面に触れさせる。

 もしかしたら彼の手がすり抜けるかもと思ったがそうはならず、彼は自分の指先に見えない何かが触れた事に驚いている。

 「これは・・・何もないのに、何かすべすべしたものが指先に触れている」

 「それが私が見ているものよ。銀色の金属でできているものなの」

 美月はドナヴァンから手を離すが、彼はまだ見えない画面の形を確かめるように手を動かしている。

 「俺には石版に見えるのに、これは石の手触りなんかじゃないな。というより俺の指先が石版の中に入っている」

 美月には彼がマップルのキーボードやその輪郭を触れているように見えるのだが、彼からすれば石版に触れているようにしか見えないらしい。

 「それで、これはなんなんだ?」

 「これは・・・説明が難しいんだけど・・・あのね、私が違う世界から来たって事は知ってるわよね?」

 「ああ、俺が迎えにいった異界からの客人だ。俺が知らない筈ないだろう」

 「それで・・・私が住んでいた世界には魔法なんてものはないの。だから、こことは全く違う文化文明が発達しててね。このマップルもそういう文明が生んだ最新のもので・・・私の知らない事を色々と教えてくれるのよ」

 美月自身、コンピューターやインターネットの事をどう説明すればいいのかさっぱり言葉が見つからないから、ようやく絞り出せた説明は本当に稚拙なものだった。

 「私が事故で死んじゃったって事は言ったでしょ? その時に世界の繋ぎ目の管理人に、賠償としてこれをこの世界に持って来れるように頼んだの。ただ持ってくるだけじゃなくて、ちゃんと使える状態でってね。私はこれを色々と検索するために使っていたから、この世界でも同じように知らない事を検索できるように使いたかったのよ。だって知らない世界にくるんだもの、知らなくて怖い目に遭いたくないじゃない」

 「・・・本当にこれを使って、色々な事を調べられるのか?」

 「うん。最初この世界に飛ばされた時、これを使って町のある方向を探したのよ」

 「そんな事もできるのか?」

 本当に何でも調べられるんだな、と感心したように言うドナヴァンはまだマップルを触っている。

 「使役の事も、これで調べたの。本当は使役のスキルがあると教えてもらったんじゃなくって、これで私のステータスチェックをしたのよ。そうしたら―――」

 「なんだって?」

 ステータスを確認したと言った途端、ドナヴァンが立ち上がった。

 「ステータスチェックっていうのは、王都にある大神殿でしかできない事だ。そんな事がミッキーにできる訳・・・・いや、しかし・・・本当にできるのか?」

 「・・・多分。私のステータスは調べられたわ」

 「元々いた世界のステータスじゃないのか?」

 「ううん。私のいた世界にはステータスなんてものないもの。私も初めて見た時にビックリしたくらい」

 どこか疑っているようなドナヴァンは、美月の言葉で多少落ち着いてきたのかまた元の席に座る。

 美月はそれを見て密かにホッと息を吐いてから、彼に自分のステータスを教える。最初ここに来た時と今までにどのくらい数値が上がったか、どんなスキルや加護があるのか、と言った事を説明するとドナヴァンは顎に手を当てて考え込む。

 「ミッキー。俺のステータスを見る事はできるか? いや、別に信じてない訳じゃないんだが、納得できないと言うか・・・」

 「いいよ、気にしないで。私も元の世界でステータスチェックができるなんて言われても素直に信じられないと思うもの」

 美月はマップルのステータスチェックのアイコンをクリックしてから、バッグの中から水晶を取り出してそれをマップルに繋ぐ。既に数回自分のステータスチェックをする時に同じ事をしているから慣れたものだ。

 それからステータスチェックの項目にドナヴァンのフルネームと年齢、種族と言った事をグランカスターの言語で打ち込んでいく。

 「じゃあ、この水晶に手を載せて見てくれる?」

 「ああ」

 そっと躊躇いがちにドナヴァンが水晶に手を載せると、美月は実行ボタンをクリックする。

 そしてほんの数秒の後、ドナヴァンの数値が現れた。




 名前  ドナヴァン・グラスハーン

 性別  男

 種族  人族

 ランク 35

 体力  53 

 知力  49 

 魔力  152 (土)

 スキル 剣術、槍術、看破、統率、格闘技

 加護  ワーダロンの加護(戦いの神)(中)




 美月は自分の数字と彼の数字を比べて、思わずがっくりと頭を落とす。

 「どうした? 判らなかったのか?」

 「・・・ううん、そうじゃない。なんか自分と比べちゃって・・・」

 心配そうに聞いてくるドナヴァンに美月は手を振ってごまかす。

 「どうしよう、紙に書いた方がいい?」

 「いや、口で言ってくれるだけで十分だ」

 「判った」

 うん、と頷いてから美月は画面に現れたドナヴァンのステータスを上から読んでいく。

 ドナヴァンの数値は美月の倍以上なんてものではなく、比べる事すらバカらしいほど差がある上に、美月にはない魔力があるのだ。

 その数字がどういう意味を持っているのか知らないが、それでも美月はただ単に凄いなぁと思う。

 「・・・凄いな」

 「ホント、凄いねぇ。私の体力なんてこの世界の女性の平均もないのにね」

 「そうじゃない。ミッキーが本当にステータスチェック出来る事が凄いって言っているんだ」

 本心から感心していると言わんばかりの視線を向けられて、美月は照れて俯いてしまう。

 「まさか俺のステータスを知る日が来るとは思わなかったよ」

 「えっ・・・知らなかったの?」

 「あぁ。殆どの人間は自分のステータスなんて知らない。王都に行ける人間なんて僅かなものだし、その上大金貨1枚払える人間なんて更に少ないからな」

 「あぁ・・そういえば、大金貨1枚だって言ってたよね。なんか私からしたら、すっごいぼったくりな気がするんだけど」

 「そうだな」

 苦笑を浮かべて頷くドナヴァンに美月も苦笑を返す。

 「ミッキー。バトラシア様にこの事を言う気はないのか?」

 「うん・・・最初は、ちょっと警戒していたんだよね。だって知らない世界に知らない人たちばっかりで、誰を信じればいいのか判らなくって」

 「ああ、俺もそれは感じていた。どこかで一線を引いているなって思っていた」

 「でもね。ここに来てからずっとシアさんが面倒を見てくれたじゃない。それも嫌な顔もせずに私のためになるからって言って、本当に色々な事を教えてくれて・・・」

 領主としての仕事もあるだろうに、それでも時間を作って美月に色々な事を教えてくれたのだ。

 「だから・・・この事を隠しているのも嫌だなって思っていたんだけど・・・なかなか打ち明けるきっかけがなくって・・・」

 「そうだな。今更こんな事ができるんだっていうのは、ちょっと言いにくいだろうなぁ」

 「ん、だから、黙っていたんだけど。でも、ドナヴァンにバレちゃったし、明日にでもシアさんに言うわ」

 「じゃあ、俺もその場に立ち会おう。その方が言葉に詰まった時に助けられるからな」

 「ホント? ありがとう」

 ドナヴァンが一緒にいてくれれば大丈夫、と美月は本当にホッとする。

 ここに来てからずっと彼に頼りっぱなしだが、それでもこうやって助けてくれる人がいて本当に良かったと思う。

 「じゃあ、俺はそろそろ行く」

 「うん・・じゃあ、明日、ね」

 立ち上がったドナヴァンのあとを追って美月はスライディングドアに歩いて行く。

 美月はテラスの階段を下りていくドナヴァンの姿が見えなくなるまで窓のところから見ていた。





Edited @ 07/16/2015 @19:25CT

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