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石版の魔女  作者: チカ.G
本編
17/72

美月の秘密 ー 1. 

 美月はテーブルの上のマップルの画面を見ながら小さく溜め息を吐いた。

 コットンのために開けたスライディングドアから入ってくる風が美月の髪を揺らすが、そんな事に気づきもしないで美月はじっと画面を見る。




 名前  大森美月ミッキー

 性別  女

 種族  人族

 ランク 8 (+5)

 体力  15 ※ (+5)

 知力  22 ※ (+1)

 魔力  0  (+0)

 スキル 使役(+コウモリ)

 加護  グランドカロン神の加護(大)



 ステータスチェックのカッコで囲まれている数値は、美月が初めてステータスをチェックした時からの上昇数字を現している。

 それは初めて美月が自分のステータスチェックをした時に設定したものだ。

 これでどれだけ自分が成長しているか判るから、と思ったのだが、あまりの数字の少なさに溜め息が止まらない。

 この世界に来てもうすぐ5ヶ月になろうとしている。

 その間ドナヴァンに頼んで基礎体力作りと護身術を習っているせいか体力だけは伸びているが、それ以外は殆ど変化無しと言ってもいいような数値だ。

 「やっぱり、トレーニングの仕方が良くないのかなぁ・・・・」

 元いた世界ではステータスなんて言うものがなかったから気にしなかったが、ここではこうして数字になってみる事ができるからどうにも気になってしまう。

 以前ドナヴァンにどうやればレベルを上げる事ができるのか、と聞いた事があるがその時彼はスキルや加護に合わせて訓練する事が一番の早道だと教えてくれた。

 しかしステータスを知る事ができるという事を隠しているので、自分のステータスはこれなんですけど、と言って訓練方法を聞く事もできない。

 そろそろこの秘密を打ち明けてもいいのではないか、と美月は思っている。

 ここに来てからずっと面倒を見てくれたバトラシア夫妻の事は信用できる。いつも何かと面倒を見てくれるドナヴァンも信用できる。

 けれど今まで隠してきていた事をみんなに打ち明けるのも今更な気がして、何度か言いかけては口にしそびれているのだ。

 「あ〜あ、いい加減話さなくちゃって思うだけどなぁ」

 ふんっと背伸びして、美月は勢いをつけて立ち上がった。

 それから開いたままのスライディングドアからテラスへと出る。

 少しひんやりとした風にぶるっと体を震わせたものの、美月はそのままテラスに置いてあるテーブルセットに向かう。

 丸いテーブルの上にはガラスが置かれたそれは、元の世界のガーデンなどで見かけるようなデザインだが、それに付属している椅子は木で作られたベンチのような形で、どこか不思議な組み合わせだ。

 それを一瞥してから、美月はベンチに座ってテーブルに肘をついてから顎を載せる。

 この世界に来て思った事の1つが、この世界の文明基準が全く判らない、という事だ。元の世界で見かけるようなものから、中世の世界にあるようなもの、そしてこの世界でしか見た事がないもの、と様々なものが混在しているのだ。

 しかもそれが妙に調和しているのだから、本当に不思議な光景だと美月は思う。

 外はすっかり暗くなっており、視線だけを上に向けると零れそうなほどの星が空一杯に広がっている。

 美月がここに来て既に5ヶ月が過ぎているが、ここの気候は来た時から殆ど変わっていない。

 バトラシアとフランチェスカの講義では、それがここでは当たり前なのだとか。北の国へ行けば1年中雪が積もっていて、南の国へ行けば一年中暑いのだそうだ。

 それを聞いて『さすがファンタジーな世界』と思って口に出さなかった自分を偉いと思う。

 元の世界で自転が、とか、公転が、という授業を憶えている美月としては、その仕組みが今1つ納得できないのだが、『異世界だから仕方ない』と自分を無理矢理納得させている。

 はふっ、と溜め息をついたところで、パタパタという羽音が聞こえてきた。

 「コットン、帰ってきたの?」

 どうやら食事に出かけていたコットンが帰ってきたようだ。

 真っ白なコットンが闇の中からぼぅっと幽霊のように見えてきた。

 美月は顔を上げて幽霊のように見えるコットンが来るのを待つ。

 「お帰り〜」

 パタパタと飛んできたコットンはそのまま美月の肩の上にとまる。

 羽に付いているかぎ爪で顔を掻いているコットンは、小さくキュッと鳴いてからそのまま毛繕いを始めた。

 そんなコットンを見降ろして、美月は苦笑を浮かべた。

 使役獣にしてからのコットンは、昼間は美月のローブの中か部屋の隅に作られているコウモリボックスというものの中で寝ていて、夜になるとこうやって餌を食べるために外へ数時間で掛けるのだ。

 コウモリを飼った事のなかった美月は、主食が虫だという事を当然知らず、それをドナヴァンから指摘された時に涙目になったものだ。

 それでも賢いコットンはこうやって暗くなってから外に放してやると勝手にご飯を食べてきてくれるから、虫が怖い美月としては本当に助かっている。

 指を伸ばして喉元をコリコリと掻いてやると、コットンは気持ち良さそうに目を閉じてされるままになる。

 そんなコットンを見ていると、自分が悩んでいる事が馬鹿みたいに思えてくるから不思議だ。

 「ミッキー?」

 「へっ?」

 不意に名前を呼ばれて、部屋の方を振り返るがそこには誰もいない。

 空耳だったのかな、と頭を傾げていると、テラスに続く階段の下の方から足音が聞こえてきた。

 「誰?」

 「俺だ」

 「・・・ドナヴァン?」

 思いもしない人物の登場で、美月はビックリして立ち上がる。

 「どうしたの、こんな時間に?」

 「警邏の途中だ。丁度そこを歩いていたらコットンを見かけたんでついてきたら、ミッキーの声が聞こえたんだ」

 「隊長様自らが警邏?」

 「仕方ないだろう? スライが用事があるって言うから代わってやったんだ」

 「スライが? どうせデートなんじゃないの?」

 女たらしでお調子者のスライの顔を思い出すと、いつもからかわれている事を思い出して思わず嫌味を言ってしまう。

 「いや、今日はあいつの母親の誕生日だよ。俺も夕食に誘われたんだが、あいつと仕事を代わるからって断ったんだ」

 「ふぅん」

 あんなお調子者でもちゃんと母親を大事にしているんだ、と美月は失礼な事を考える。

 「あれ? でも警邏ってドナヴァンの隊の仕事じゃないでしょ?」

 「一応第4隊の仕事って事になっているけど、他の隊も月に数回は代わってやる事になっているんだ。じゃないと夜勤が多くて大変だからな」

 このリンドングラン領には5つの騎士隊があり、それらをまとめてリンドングラン騎士団と呼んでいて、ドナヴァンは第5隊の隊長をしている。

 1−2隊までは館の警備及び領主夫妻の護衛を務め、3隊は主に町中の警護と警邏、4隊は館の周辺の警護と警邏、そしてドナヴァンが率いる5隊は遊撃隊のようなもの、だそうだ。

 なので、館に客人が現れると5隊がその警護につくし、何か他の隊で手が足りない状況になった時に助っ人としてその隊と共に行動するらしい。

 おかげで美月が何かする時にはドナヴァンがついてくれる事が多く、彼女もよく知っている彼らが護衛として傍にいてくれる方が気分的にも楽なので助かっている。

 「それで、ミッキーは何しているんだ?」

 「ん〜、星を眺めてた」

 「星?」

 「そう」

 美月がベンチに座って空を指差すと、ドナヴァンが釣られたように空を見上げる。

 「たくさんの星だな〜って思ってね。あんまりたくさんあるから落ちてこないかな〜って」

 「そりゃないだろう」

 呆れたような口調のドナヴァンに、美月は舌を出してからフンッと鼻を鳴らす。

 「判ってるわよ。ただ、落ちてきそうなくらいたくさんの星だな〜って思ってみてただけ」

 ベンチに座る美月の傍に来たドナヴァンが美月の頭をいつものようにポンポンと叩くと、彼女はちらっと彼を見返す。

 「ほら、そろそろ中に入った方がいいんじゃないか? 肩が冷えてるぞ」

 「そぉ?」

 そっと美月の肩に置かれたドナヴァンの手の温もりで、自分の体が冷えてしまっている事に気づいた。

 「ほら、さっさと立つ」

 「はぁい」

 手を引いて美月を立ち上がらせようとするドナヴァンに逆らわず、素直に立ち上がった美月はそのまま彼の手に引かれて部屋へと戻る。

 明かりがついた部屋に入った事で、コットンが慌ててコウモリボックスへと飛んでいく。

 それを見ていた美月の手がぎゅっと掴まれた。

 「ドナヴァン?」

 どうしたんだろう、と振り返ると彼は真剣な顔をして部屋の中を見ている。

 何を見ているのかと彼の視線を辿った時、美月は自分がマップルをテーブルに出しっぱなしだった事を思い出した。

 「あれは、なんだ?」

 マズい、と思った美月の耳に、低い声で問うドナヴァンの声が聞こえた。





Edited @ 07/16/2015 17:20CT

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