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石版の魔女  作者: チカ.G
本編
15/72

美月ができる事 ー 5.

 羽を広げると30センチほどになるコウモリは嫌そうにドナヴァンの指から逃れようと暴れるが、彼はそれを気にした風もない。

 最初コウモリという言葉に驚いて1歩下がったものの、それでも初めて見る真っ白なコウモリに美月は好奇心をくすぐられてそのまま近づいてじろじろとみる。

 小さな耳が立ち上がって美月を威嚇しているが、ドナヴァンに掴まれているので怖くはない。全身は真っ白な毛で覆われていて、その毛を逆立てているせいか実際よりモコモコっとして見える。そしてドノヴァンが拡げた翼はほんのりピンクをしていて、コウモリなのにどこか可愛く見えるから不思議だ。

 「真っ白のコウモリなんて初めて見た」

 「そうか? それほど珍しいものじゃないけどな」

 「なんか毛がモコモコしてるんだね」

 ドナヴァンが両手で持っているから安心と思い、美月はそっと指を伸ばしてコロッとしたコウモリの腹の部分を撫でる。

 それは思ったよりあったかかった。

 「フワフワってしてて、あったかい。もっと冷たい感触を想像してたのに」

 「当たり前だ。コウモリは哺乳類だからな。おまえと一緒だ」

 「コウモリと一緒って言われてもちっとも嬉しくないんだけど。でも、そっか・・・・」

 むぅっと唇を尖らせて抗議するが、何か思いついたのか美月はそのまま考え込んでしまう。

 「ほら、そろそろ外に出るぞ。フンバルたちが心配しているかもしれないからな」

 「ドナヴァンと一緒にいて心配する訳ないじゃない。あっ、ちょっ、ちょっと、そのコウモリ逃がさないで」

 「はぁ?」

 もう用はないと言わんばかりに片手でコウモリをぶら下げるように掴んでいたドナヴァンは、その手を離そうとして美月に止められる。

 不審そうに美月を見た彼は、彼女の目がキラキラしている事に気づいた。

 「・・・おまえ、もしかして」

 「うん、その子を使役したい」

 「マジか・・・・」

 「だって、可愛いじゃない」

 「ミッキー、コウモリは夜しか使役できないって判っているのか?」

 じろり、とドナヴァンに睨まれても美月は平気な顔でうんと頷く。

 「明るいところが苦手なだけでしょ? 昼間は私のローブの中に入れておく」

 「それじゃなんのための使役獣か判らない」

 「危機察知してくれればいいの。それに何かあっても夜飛んで助けを呼んでくれれば大丈夫」

 多分ね、といいながら美月の目はコウモリにロックオンされてしまっている。

 これ以上ドナヴァンが何か言っても彼女の決心を変えられないだろう。

 そう思うと、ドナヴァンははぁっと大きく溜め息を吐いた。

 「仕方ないな。まぁ、これだったら最初の使役獣としては丁度いいかもしれない。これから少しずつレベルが上がればもっと違うのを使役する事だってできるだろうからなぁ」

 「そうそう」

 「判ったよ。それでどうやって使役するのか知っているのか?」

 「あ〜・・・多分」

 今日ここに来るために昨夜マップルで『使役獣の従え方』を調べたのだ。

 だからそこに書いてあった手順は頭に入っている。

 ただ、実際にそれが成功するかは美月にも判らない。

 それでも試してみるしかないのだ。

 「ドナヴァン、さっきみたいに羽を広げて捕まえてくれる?」

 「・・・こうか?」

 「そうそう。それで・・・っと」

 頭の中で、昨夜マップルで呼んだ使役の仕方を思い出す。

 美月はコウモリの真ん前に顔を近づけて目と目を合わせる。それから、右手の指先をコウモリの鼻だろう場所に当てる。

 「『我は汝を使役獣に望む。汝に望むは我の手足となりて努めを果たす事。ここに使役の印を結ばん』」

 左手の指でマップルで見た印を結ぶと、コウモリの鼻先に当てた指先が一瞬光った気がした。

 そして、先ほどまでドナヴァンの手から逃れようとしていたコウモリが動かなくなっている。

 「えっと・・・多分、成功?」

 今ひとつ自信がない美月の言葉にドナヴァンは手を離してコウモリを自由にすると、コウモリはそのまま美月の頭上を1周してから彼女の肩に止まった。

 「どうやらちゃんと使役できたようだな」

 「良かった〜。一応練習はしたんだよね」

 マップルで印の結び方は載っていたので昨夜マップルの画面を見ながら練習はしたのだ。

 しかしそれでも美月は今ひとつ自信がなかったのだが、上手くいったようでホッとする。

 「じゃあ、今日はこれでいいのか? もっと使役獣を探したいんだったら草原の方に行っても構わないぞ」

 「え〜・・・そうだね・・・ううん、今日はこの子だけでいいや」

 「そうか」

 じゃあそろそろ行こう、と美月を促すドナヴァンに頷いて洞窟の出口に向かって歩き出す。

 「それで、名前は?」

 「名前・・・? そっかぁ、う〜ん、そうだねぇ・・・」

 使役するものの名前を考えるのを忘れていた、と美月は自分の頭を軽く叩いてから考え始める。

 考え込んでしまって歩く足が疎かになってしまったが、ドナヴァンは苦笑を浮かべて彼女が名前を思いつくまで待ってやる。

 「そうねぇ・・・真っ白だから、シロ?」

 「そりゃあんまりだぞ」

 「そっかなぁ・・・じゃあ・・・」

 呆れたような顔で美月を見るドナヴァンに、仕方ないと彼女は肩を竦めてから俯いて考え始めるが何も思いつかない。

 「シロは駄目かぁ・・・じゃあコウモリだから、バット・・・・飛ぶからフライ? それとも・・・・」

 美月の口から出てくる単語はどう考えても名前にふさわしいものとは思えないが、それを指摘すると余計何も浮かばないような気がしてドナヴァンは黙って彼女が何か思いつくのを待つ。

 そうして待つ事約5分。ドナヴァンが痺れを切らしてそろそろ行こうと美月を促そうと思った時、彼女が満面の笑みを浮かべた顔を上げた。

 「決めたっっ。この子の名前はコットン」

 「コットン?」

 「コットンって綿の事なの。だって、こうして肩に乗っていると綿わたが乗っているみたいじゃない」

 確かに美月の肩に乗っている姿は大きな綿埃わたぼこりのように見えないでもない。

 とはいえもっといい名前を思いつかないのか、と言いかけてドナヴァンはその言葉を飲み込んだ。

 もしここでそんなことを言えば、美月はまた考え込んでしまうだろう。

 そうなるとまた暫く外で待っているフンバルやスライたちのところへ戻る事ができなくなってしまう。

 ここはコットンという名前で手を打ってとっとと洞窟から出よう、ドナヴァンは数秒の間でそこまで考えて頷いた。

 「ああ、いい名前だな」

 「でしょ!」

 「そろそろ外の日差しが入ってくる場所に近づくから、コットンをローブの中に入れてやれよ。明るいと可哀想だろう?」

 「そうだね。判った」

 名前を褒められて嬉しかったのか、にっこりと微笑んだ美月はドナヴァンに言われた通りコウモリをローブの中に入れてやる。

 それから彼に促されるまま外へ向かって歩き出した。





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